17.「ボク、おなかすいた!」
最近、本人が自ら言っているので間違いないのだが、うちの父は、なんでもその場の思い付きで行動する。
本人はそれでもいいが、ハッキリ言って周囲の人間は慌てふためく。
それが如実に現れてたあの時の話。
前にも話したかもしれないが、私が子どもの頃、父は毎晩仕事の帰りが遅かった。
だから、たいていの場合、夕飯は子どもたちだけで食べることになる。
母はいつ帰宅するかもわからぬ父と、食べ盛りの子どもたちへの配膳調整に、常に頭を悩ませていたらしい。
「ママおかわり!」
そう言われても、父が帰ってこないのだから、全部食べさせる訳にはいかないし、父用におかずを取っておけば、連絡なく夕飯を食べて帰宅されることもあり、「こんなことなら食べさせてあげたかったのに!」と思うことも多々あったようだ。
そんなある日のこと。
いつものように子どもたちだけで、夕飯を食べていると、珍しく父が早めの帰宅をした。
そして、開口一番にこう言った。
「おい!メシ食いに行くぞ!支度しろ」
父の目の前に広がっている光景は、我が子の食事風景である。
しかもその時、弟はご飯をお代わりして、それさえもほとんど食べきっていた。
「え?もうご飯食べてるよ」
そう答えるが早いか、次の瞬間雷が落ちた。
「行ぐんか行がねんかどっちだ!」
そこからはもう嵐。
「行くよ!」
「早く支度しなさい!」
「行く行く!ボク、おなかすいた!」
座卓の片付けもそぞろに、母は幼い弟の支度を始め、さっきお代わりしたご飯をほとんど食べ終えたはずの弟は空腹を訴え、私はトイレに行き身支度を整える。
決して父に意地悪されているのではない。
タイミングは最悪だけど、たまに早く帰れたから、みんなをご飯食べに連れて行ってやろうと思い付いた父の愛情なのだ。
そして、我が家では常に父の言うことが最優先案件。
数分後にはみんなで車に乗り、夕飯を食べに出かけた。
どこへ行ったかも思い出せないが、私たち子どもは既にお腹いっぱい。
注文した料理が並んでも、ほんのひと口二口食べるのがやっと。
「なんだ、今日はずいぶん少食だねぇ。パパが食べちゃうぞ」
なんて暢気なことを言いながら、父は楽しそうにご飯を食べていた。
「なんでパパはあたしたちが食べてるのに、ご飯食べ行くって言うんだろ」
お腹ぱんぱんで思ったことの答えが、わかったのは40年経ってからだった。
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