11. 団体旅行中にもムラムラと…
『睦菜に本屋』
【意味】
『猫にまたたび』の同義語。
いつだったか、父の会社が社員旅行は北海道へ行くというので、便乗して連れて行ってもらったことがあった。
網走刑務所や摩周湖など一般的な観光地を巡り、お約束の夜のフリータイムは旭川の街だった。
自由時間とはいえ、慣れない土地に高齢の祖母や伯母たちも一緒なので、そうそう勝手な単独行動もできず、みんなと一緒に食事をした後。
店から出て歩き出した私の目に映ったのは、建物にかけられた大きな書店の看板だった。
デパート内の大型書店である。
疲れてホテルに戻る、もしくは夜の街へと消えていく…と少しずつ分散始める中、私は居ても立ってもいられず言った。
「ちょっとあそこの看板の本屋行ってくる」
「本屋ぁ〜?ここまで来て本屋なんか行ぐん?」
周囲は正しい反応を示した。
そりゃそうだ。
なぜなら私は、たとえ今がフリータイムとはいえ、団体の観光旅行中の身である。
「大丈夫!本屋は閉店時間あるし、ホテルの場所もわかるから!」
一緒にいた母が、怪訝な顔をする。
なぜなら私は、筋金入りのスーパーウルトラ方向音痴だ。
しかも当時は携帯電話を持っていなかった。
普段なら周りに気を遣い、母のその顔を見て諦めるところだが、私はどうしても本屋に行きたかった。
おそらく男性の知人達が、旅に出たらオネーチャンのいる店に行って遊ばないと、旅の収拾がつかない…あの気持ちとたぶん同じだと思う。
ちなみに蛇足だけれど、私はオネーチャンのいる店、行くなら行ってこい、きちんとお金払って遊んでこいって思う…翌日、話せるギリギリラインまで報告させて、笑わせていただきますけどね。
…とまぁ、たぶん自分が「ホーント、みんな好きだなぁ〜、まったくしょうがないなぁ〜」と男性達に思うであろう想いを、おそらく祖母や母に抱かせただろうけど、2人をホテルへの帰り道がわかる場所まで送り、その足でいそいそと書店へ向かった。
エスカレーターを昇り、清く正しい明るい照明の下に、ネオン蝶より興奮する書店はあった。
白い書棚で広々としたどこにでもあるいわゆる一般的なテナントの広めな本屋さんだ。
「うわ〜、広い!閉店までに全部チェックできるかな。なんかおもしろい本あるかな…記念になるやつ」
昼間は北海道の美しい秋景色を見て、やっぱいいな〜北海道〜と思っていた脳は、国内どこでも同じものが売っているであろう書店にすべて占拠される。
でも、私にとってはそれぞれ違うのだ。
主だった棚という棚の間を存分に歩き、買ったマンガは一条ゆかりの『プライド』と何かもう一冊だったかな。
旭川まで来て、ウキウキとマンガ購入…ええ、家の近所でも買えますわ…して、途中、少々迷いつつもホテルの部屋に戻った。
一応、母の部屋に戻ったことを伝えるために顔を出した後は、1人三次会。
ベッドに寝転び、マンガの世界に没入したのだった。
今も私にとって、あの旭川の夜の記憶筆頭は、書店に向かうエスカレーターを昇る高揚感と、昇り切った先に見えた書店風景である。