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2.キュウリ夫人
父は、親戚や知り合いの家で、子ども達が読まなくなった本、遊ばなくなったおもちゃをよくもらってきてくれた。
だから、あまり新品の欲しいものを買ってはもらえなかったけれど、我が家にはいろんなおもちゃがたくさんあった。
けれども、我が姉弟は片付けができなくて、毎日のように「片付けなさい!」と叱られ、時には父に雷を落とされて、全部捨てられたりもした。
おもちゃコンサルタントマスターとなった今、あの頃のことを思うと、片付けられないのは、あながち私たち姉弟のせいだけではなかった…と思う。
まず、私たちの年齢と、我が家にやってくるお下がりおもちゃが、細かすぎてまったく噛み合っていなかったこと。
未就園児に、プラモデルのような壊れやすいものを与えられたらそりゃ、すぐ壊れてぐちゃぐちゃになる。
そして、そんなおもちゃは、片付けスペースとも全く合っておらず、小さなパーツを小さな子がちまちま拾って、ぬいぐるみをしまうような大きな箱に片付けるなんて土台無理な話。
もし、タイムマシンがあったら、あの頃の我が家に行って、今の自分が持っているおもちゃをすべてプレゼントしたいと本気で思う。
…とまあ、おもちゃとの付き合いには少々問題があったけれど、本は最初から私の心をぎゅっと掴んで離さなかった。
とにかくいろんな本を毎日読んでいたけれど、ある時から急に伝記に出てくる『キュリー夫人』に興味津々となった。
ラジウムを発見し、2度ノーベル賞を受賞したかのお方である。
本で知り得た知識は、とにかく喋りたくなる子どもだった私は、心酔したキュリー夫人のことを喋りたくてたまらなかった。
「パパ!キュウリ夫人はね、ラジウムを発見したんだって!」
おそらくそんな報告をしたんだと思う。
私は頭の中で『キュリー=キュウリ』と勘違いしていた。
それから、毎日、朝ご飯に出てくるきゅうりの漬物を食べる時、こんな会話が定番となった。
「ラジウムを発見したのは誰だっけ?」
父がクイズを出す。
「キュウリ夫人!」
弟と声を揃えて答える。
「正解!」
ご褒美として、父からきゅうりの漬物をありがたくいただく。
両親は、私の勘違いを正さず、おかずを食べさせる手段にしたのだ。
私が『キュウリ夫人』は、『キュリー夫人』が正しいと知ったのは、それから数年後、小学校高学年になってからだった。