12.「こわいのがおいかけてくるよ〜」
これはかなり最近体験した本屋さんの話だけど、夏なのでひんやり話をおひとつ。
人によっては、私という人間性に疑問を持つかもしれないが、臨時の1日バイトも含めたら転職経験50回は優に超える私。
しかしながら、大好きな本屋さんでの仕事経験はなかった。
たまたま商品として扱うものの中に、本が含まれていることはあったけれど、まるまる書店ですという環境での経験はなかった。
なぜかといえば、目の前に餌がある中でグッと堪えて働くなんて、ある種のドM行為、趣味ではない。
また、乱雑に扱われた本を見たら、たぶん性格上耐えられない。
愛するが故に困難を極めることがわかりきっているので君子危うきに近寄らずだ。
でも、一度は働いてみたい…という願望ももちろんあった。
そこでたまたま出かけた先の書店が、翌週の棚卸しバイトを募集していたので、まぁ半日ぐらいなら耐えられるかな…といそいそ申し込んでみた。
説明を聞き、手続きを済ませてからまた、少し店内を物色していたらば、かわいい声が聞こえてくる。
チラッと声の方を見てみると、小さな男の子が足をバタバタ地団駄させて、必死になってママに何かを訴えてた。
私が物色していた書棚の向かい側は、児童書や絵本など子ども向け書籍コーナーだったので、ママにおねだりしてるのかな?と思ったが、そうではなかった。
地団駄踏みながら男の子は、ママにこのように訴えていた。
「こわいのがおいかけてくるよ〜、こわいのがくるよ〜」
もちろんママは意に介さず、早くおいでとかなんとか男の子を呼び、男の子は「こわいのがくるよ〜」を言いつつ、置いていかれる方が怖いのか、ママを追いかけて店の奥へ行ってしまった。
怖いものは見えないと決めているので、私はこの書店で何も感じたことはなかったけれど、ここいるんだ!彼は見える子なんだね〜なんて受け流しつつ、ハッと気付く。
私、来週ここで半日とはいえ、バイトするんだけど…。
いくら子どもの目とはいえ、あの怖がりようからして、相当なモンがいるんだろうなとの憶測は立てられる。
こ、断った方がいいかしら?
しかし、ついさっきバイトの受け付けをしたばかりなのに、「ここなんかいるみたいなんで怖いからやめます」なんて大人が言う訳にはいかない。
翌週、腹を決め、若干ビビりながらバイトには行った。
結論として、何かの気配を感じたり、不思議なことが起こったりはしなかった。
が!
棚卸しとはいえ、せっかくの書店バイトだというのに、初っ端の私の棚卸し担当箇所は「文房具」と「キャラクターグッズ」と「マンガ用の画材コーナー」だった。
あり得ん!嘘だろう…と目が点。
なぜ私は、念願の本屋で文具を数えてん…と若干落ち込む。
まぁ、この類の棚卸しは何度か体験しているから、コンビ組んだ方が「すごい、仕事できる方なんですね」と驚き、感嘆の声をあげる程のスピードでガンガン終わらせて、念願の本の棚卸しもできたけど、これ絶対こわいのの悪戯だろ!
それ以後、その書店に行っても何も起こらないし、「こわいよ〜」の男の子にも遭遇していない。
でもね…
あそこ、絶対なんかいるわ!