
4.アフロパーマのドロシー
私はそこで買ったことはないけれど、数年前まで営業していた駄菓子屋は、店頭に設置されたスチール棚で、発売日より早く人気マンガ雑誌が売られていると特に学生たちに評判だった。
そのシャッターの閉まった店舗前を通った時、「そういえば!」と思い出す。
子どもの頃は、煙草屋、酒屋などの軒先に小さなスチール棚が置いてあって、マンガや雑誌、子どもの絵本が少しだけ売られていた。
小さな頃は、それだけでも充分本屋さんだった。
ある日、母や弟と買い物に行った酒屋さんの軒先にあった青いスチール製書棚で、私は運命の出合いをした。
【オズの魔法使い】
ジュディ・ガーランドの映画で有名なライマン・F・ボームの子ども向け物語だ。
当時、子ども向けテレビ番組でやっていた『オズの魔法使い』が大好きだった私は、その絵本に目が釘付け。
母も察したのか、その絵本はすぐ買ってくれた。
子どもの頃の私は物欲皆無で、母曰く「欲しい!買って!」と駄々をこねるどころか、何かを「買ってあげようか?」と聞くと「いらない」と答え、手もお金もかからなかったそうで、それ故にこんな時はすぐに買ってもらえたようだ。
その絵本のことは、雑誌投稿欄採用されたり、自分のブログ記事にもしたけれど、子どもの絵本にしては、色使いがシックで大人だった。
ドロシーはオレンジ色のアフロパーマにちょこんとリボンを付けている。
白襟、地が黒にいろんな色が光のように入っているワンピースを着ていた。
空を飛ぶサル、よい魔女グリンダもとにかくきれいだった。
買ってもらってから40年以上経つけれど、今でもいくつかの場面が目に浮かぶ。
残念ながら実物はない。
絵本を大量に持つ今と違って、子どもの頃は『絵本は小さい子のための本』という認識だったので、他の絵本と一緒によその子にあげてしまった。
私が手放して唯一後悔している絵本。
高校の図書室でハヤカワ文庫の『オズの魔法使い』を見つけて、「オズに続編があるなんて!」と衝撃を受け、それから全巻揃えるまでの書店巡りも、いろんなエピソードがあるけれど、それもすべてあの酒屋の小さなスチール棚があってこそ。
もしかしたら、私の人生に初めて指針を示した本屋さんは、あの青いスチール棚と言えるのかもしれない。