21.砂抜きアサリの末路
私は美味しいものを食べることは大好きだが、料理すること自体はあまり得意ではない。
印象よろしくないから、公言するなとあちこちで言われるけれど、こればっかりは作り始めたらバレることなので仕方ない。
そのせいで、「できないの?」と下に見られたり、「だから結婚できないんだ」とか言われ続けてきた故に、自分は料理が得意ではないから、結婚にも向かない人間なんだと思い込んでいた。
若かりし頃、仲間とのアウトドア遊びでは、料理が得意アピールする面々を横目に飲酒しておしゃべりした。
そして、料理できない引け目のある分、後片付け係を率先してやっていた。
でも、できないんじゃなくて、得意じゃないだけだから、私の人生としては問題ない。
そして、実は料理が得意ではなくても、結婚している女性はゴマンといることを知った。
『私は料理が得意ではない』
そう思った最たる理由は、父の食べ物…主に味付けに対する好みがはっきりし過ぎていて、母が父に合わせて作ったものしか食べないため、いわゆるお手伝いをすることがほとんどなかったからだ。
「いいよ、パパが食べないと困るから」
母からそんな風に断られることが多々あった。
そんな日常だから、私が手伝うのはおにぎりを握るとかサラダを作る、あとは洗い物程度。
その割に「女の子なのに手伝いしない」とか「料理ひとつも覚える気がない」とか「料理の本は見るだけで作らない」など文句も言われていたので、料理に対して理不尽で不毛な少女時代を送っていた。
そんな私でも母が不在となれば、一応家族のために料理はせねばならない。
ある時、母が泊まりで出かけることがあって、私が作るよう頼まれた。
私が作るんだからなるべく簡単にできて、父も弟も食べそうなもの。
そう考えて、トマト味のアサリのスパゲティを作ろうと決めた。
料理本はたくさん読んでいるし、やらなくても母が作るのはいつも見ているから、脳内シュミレーションはバッチリ。
学校帰りにスーパーでトマト缶やアサリを買い、家に戻ってアサリは砂出ししたまでは良かったが、そこから私はいつも通り、読書タイムに突入してしまった。
作り始めるのが遅くなって、弟にブータレられてる最中、いつもより父が早く帰宅した。
母が不在なので、少し早く帰宅してくれたらしい…が、案の定叱られた。
「姉ちゃんのくせに夕飯も作れねんか!」
「今から作るよ!」
そう言って、作る前にトイレに行って戻ったら、父が砂抜きしていたアサリを小鍋に入れて火にかけていた。
「パパ、なにしてん!」
「おまえがなんにもできねぇから、アサリの味噌汁作ってんだよ!」
チ〜〜〜〜ン…
その後のことは何も覚えてない。
大人の今だったら、機転も利かせられただろうけど、ぐっと涙を堪えておしまい。
それ以来、私はアサリの味噌汁を食していない。
…たぶん。