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6.初海外ショッピングもやはり…だった!

本屋さんの中で、文房具を売っているのは当たり前のようなことだけれど、あの日の私はその意外性にアドレナリンが大放出した。
初めて行った海外旅行、イタリア・ローマでのことだ。

一緒に行ったのが、10歳年上で趣味が旅行で英語堪能という旅慣れした人だったので、私は彼女の「初めてなんだから楽しんで」という言葉に甘えまくる気満々でいた。
しかし、初めての海外の街でかなり興奮していた私は、街の些細な風景すべてが嬉しくて、あちこちで写真を撮ってくれと頼んだり、なにかと通訳頼むものの、ローマの街中は想像以上に英語が伝わらなかったらしく、到着してから数時間で、既に彼女の機嫌を損ねていた。

その上、日記を書こうとして日本から筆記具を持参するのを忘れていることに気付いた。
夕刻に近い時間だったけれど、ごはんの買い出しに行こうということになったので、ついでに文具店にも寄って欲しいと頼んで買い物に出た。

街中を歩いていると、少々薄暗いけれど、趣のある店構えの文房具を売る店を見つけて、私はそこでシャープペンシルをなんとか見つけた。
彼女を待たせちゃまずいからさっさと買って…と思ってレジしてもらおうと店内に入ったら!

そこは本屋さんだった!

もちろんイタリア語は全くできないけれど、装丁の美しさや、子どもの絵本コーナーにある仕掛け絵本などに私はすっかり魅せられてしまった。
どうしよう…少し見たいな…と思っていると、彼女はあっさり優しくこう言ってくれた。

「いいじゃない、冨原クン、本好きなんだから記念に買っていったら?」

機嫌直ったのかも…!
私はその言葉に甘えて、ビターチョコレートみたいな色の本棚と、薄暗いけど温かみある白熱球照明の店内をぐるぐる徘徊し、絵がユニークな仕掛け絵本と、『イタリア語ー日本語』のポケットサイズ辞書を買った。

こうして初海外旅行での初ショッピングは、本と文具という日本にいるのと全く変わらない趣味趣向ブレないものとなった。

あ〜、なんやかやいっても、やはり彼女はおねえさんだなぁ〜、シャーペンも絵本も買えたし幸せ〜と安心した直後。

「あ!ベネトン!」

そう言って、ベネトンショップに入った彼女を見失い、私は迷子になった。
スマホはおろか携帯電話なんぞもない時代。
イタリア語も英語もできない私が、ベネトンの店員相手にトンチンカンな日本語と英語で「さっき入ってきた日本人どこ!」と慌てふためいているところに、消えた彼女が登場。

「もう!いきなりいなくならないでちょうだい!」

本屋さんでの優しかった彼女が嘘のように、ものすごい顔でガツンと叱られた。
「いえ、いきなり消えたのはあなたなんですが…」なんてことは言えず。
それ以降も私は、なんやかやと彼女の機嫌を損ねまくってしまい、何かにつけてはチクチク指摘されたり文句言われたりで、帰国後はどっと疲労困憊した。

そう考えると、あの本屋さんにいた瞬間だけは文句も言わず優しかったり、私の行動については何も言わなかった彼女を思うと、私は本屋さんにいた時間は守られていたのかもしれない。

やはり、本屋さんは私にとって、かけがえのないパワースポットなのだ。

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