14 ホーリー・アイランド③
「面影を追い続ける男」 14 ホーリー・アイランド ーツリー③ー
少し離れたところに、女の子が一人しゃがんでいた。まだ三歳くらいだろうか。小さな手で一生懸命に石の塔を積み上げている。
「何を作っているの?」
睦月が傍に行って話しかけたが、その子はちょっと首を傾げただけで、石を持つ手を休めなかった。
「ミレーヌ!」
遠くの方から走り寄る足音がして、振り向くと男の子がこちらに向かって叫んでいた。さっき教会の塔で走り回っていた少年だ。この女の子は、母親が手を繋いでいた妹なのか。
「またここに居たのか。ほら、母さんが探している。帰ろう」
彼はそう言って妹の手を引っ張ったが、彼女は泣いて座り込んでしまった。
少年は「ほら、おまえのすきなこれ、あげるから」と言って、ポケットから星の形をした銀色の飾りを取り出して、海の方にかざして見せた。
「ね、クリスマスツリーみたいに見えるでしょ」
そう言って、俺たちに答えるよう促した。
少年の伸ばした腕の先には、家の灯りがちらちらしはじめたホーリー・アイランドがあって、彼は片目をつぶって、島の天辺に星を乗せていた。
睦月が女の子を抱き上げて、少年のツリーを見せた。
「僕たちの家にはツリーがないんだ。よくわからないけど、パパがユダヤ人だからクリスマスはなしなんだって。ミレーヌは綺麗なのがすきだから」
「そうか、この石の塔はこの子のクリスマスツリーなのね」
睦月はそっと女の子を降ろし、頭を撫ぜた。
やんちゃな少年は、立派に妹を守ってあげる存在らしい。
兄は泣き止んだ妹の手を引いて、ゆっくり町の方へ帰って行った。俺たちはしばらくその小さな後ろ姿を見送っていた。人には色んな事情がある。
「君の家族もきっと心配しているだろうね」
前に彼女が見せてくれた写真を思い出してそう言った。犬を抱いた彼女の後ろに立っていた人。
「明日、電話するわ」
町に戻る間、ずっと睦月は俺のジャケットの裾につかまって歩いた。随分経ってから、やっと俺は彼女の手を掴んだ。
二人の手はとても冷たくて、手を繋ぐことで更に冷たさが増したように感じた。
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いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。