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12 カーロス 月と空と船④


「面影を追い続ける男」 12 カーロス ー月と空と船④ー


 俺は夜明けまで待てずに車を走らせた。
 睦月のすきな曲を聴いていると、空と海が交わって世界が広がるようだ。それは、勢いよく進む船を思い起こさせた。

 目の前に力強い父が現れ、俺の方を見て言うんだ。
「たまには後ろを振り返ってみろ」って。それはさっき聞いたよ。
 振りむくと睦月も船に乗っている。俺たちは似ている。だからきっと傷つけ合うだろう。でも、一緒に飛べるかもしれない。

 北へ北へと車を走らせていた。
 彼女は夜行列車の中で、眠れずに俺のことを考えていただろうか。
 音源の存在に気付かない可能性や、言えずに失われた言葉について、何度も何度も繰り返し、振り返りながら。

 この出逢いが必然なのか、偶然なのか、試そうとしている横顔が、夜の窓に鏡のように映る。君はガラスの冷たさを手で触って確かめただろうか。

 もう一人連絡しなくてはいけない人間を思い出した。
 彼も俺の周りにいる特別な人間だ。俺は道端の電話を見つけてロンドンにコールした。

「エド、俺だ」
「ツカサ。頼むから居場所を教えてくれ。すぐに迎えに行く」
「心配しなくていい。今一人じゃない。知り合いと旅をしているだけだ。しばらくしたら必ず戻る」
「俺だけじゃない。みんな心配しているんだ。急に何も言わずにいなくなるから」
「マリアは?」
「ツカサ、本気で言っているのか」
「やっぱり、戻っていないのか」
「お前は多分、記憶の一部を失っているんだ。そうだ。信じたくないことを消し去ろうとしているんだよ」
「よくわからないな。何を言っているんだ」
「とにかくロンドンに……」
 
 通話が切れた。ごめん、まだ帰れない。




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⇒ 「面影を追い続ける男」 目次

いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。