「空に心を獲られる」に寄せて
我が家にその本がやってきたのは
まだ夏の名残りが漂う、九月のことだった。
それは、ササブネさんの短編集、『空に心を獲られる』
海を泳いでこちらの袂に潜り込むようにそっと
いや、鋭角に泳ぐ来訪者だった。
半透明のザラっとした紙に包まれてプレゼントの顔をした君。
届く前から、最高の予感しかなかったけれどね。
少しずつ頁を繰るのがふさわしい。
カシャッとシャッターを押すような音で。そしてクジラを挟む日々。
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抗えない文章だった。久しぶりの感情だった。
多分、今日のnoteは、ラブレターだ。しかも長い。
私には時折あることなのだが、私的通信めいてしまう。
当人以外がどう読むかはわからない。
すきな文章には色がついている。私がすきな小説は青が多い。
深夜に読む。夜に似合う本。夢の奥に連れて行かれるのに戸惑う。
迷って、戻れなくなるかもしれない。
表題の「空に心を獲られる」を読む。
キレイなのに痛い。硝子の破片がささっていく。
ただ水を飲むシーンが、なぜこんなに透明なリアルなんだろう。
ふと、旅は、家に居てもできるのかもしれない、と思った。
夜毎にドアが開いて、誘われるままに出かけることをそう呼ぶのなら。
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何より「ボイジャーの鈴」に心を獲られたよ、私は。
感性に揺れて、かつ、構築された世界。
過去と今を巡る不思議な物語。
映像が浮かぶ描写を保ちながら
フレーズ全てが丁寧に紡がれて心に残る。
ここ十年、いや、生涯を通しても
自分の中で最も大切に思える小説の中の1冊だろう。
くじらが来る時、夜を眠るように
半透明な青が自分の上にゆらめいている気がする。
そのゼリー状のような海は私の上に浸透はしてこないが
いつ決壊が破れるかわからぬくらいに、こちらとせめぎ合っている。
この感覚は、ものすごく久しぶりだった。
文字を、文章を読んでいる。それだけではない。
全てを享受したくて、目を大きく見開いたら
全て飲み込めるかと思ったけれど、束の間で。
するりと魚を掴み損ねたかのように、全然手に取れない。
心を言い当てる鋭い言葉が自分の表層を撫でていくのに
それを心地よく感じながら、いや待てよ、こんなくらいで済む話ではない、と鋭い玻璃を突きながら、やはり、何度でも、海の底に落とし込まれる。
自分の中に取り込みたいのに、出来はしない。
何度反芻しても、きっと無理なのだ。
でもきっと、もう一度、いや、何度でもやってみようとするだろう。
そんな文章に、一生のうち幾つ出会えるだろうか。
読み進めると、いちいち打ちのめされる。
ああ、あの感触を、この言葉で表現してくるのか、と。
これは走り出した、ただの羅列の気持ちだ。
感想文以下だけど、素直に伝えたい。
ふと、読むスピードが変わる。
誰が誰だかはっきりした時の一瞬で、加速する。
そして、また一度ゆったりとブレーキを踏む。
すき、ということにストレートになれない。
すきになることがわかるとかえって心がブロックする。
だって、怖いからね。のめりこむ前に一枚ヴェールをかける。
なんだろう、この危機管理は。
もっと不用心にとめどなく受け取りたいのに。勇気を出さなくては。
書いている人が凄いならば
受け止める側も、平凡を捨てて
少しでも大きくアタックできなければだめじゃないか、などと思う。
古本屋(毎日のように通う場所)で、何かのピースを探す。
大切な誰かを繋ぎとめることは本当に困難だ。
結局、自分をとどめられるのは、自分だけなんだ。
でも、誰かの言葉はそのきっかけになる。
知っていてほしい。残った者が、残った人生をただ生きている。
いつか消えゆくその日まで。毅然としたくて、でも項垂れて。
終わりがいい。
どうやって深い青を終わらせるかと思っていたら
果実の明るさを連れてきてくれた。
果実はいい。色も匂いも何もかも持って行ってくれる。
どこか屈託のなさもよくて、何かずっと抱えているだろう人たちが
きちんと飲み込んで、でも人に対して少しオープンで、いい。
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本当はもっときちんとまとめたい、のに、まとまりがなく申し訳ない。
私も小手先だけじゃない、心髄に迫るような文章を書いてみたい。
そう、思った。
隅々まで丁寧に作られた本。何度でもめくってみたくなる。
あとがきに登場させて頂いて、光栄です。
ササブネさんの唯一無二の世界をこれからも待っています。
また、声が最高なんだな。カッコイイよ、このPV。🐋
いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。