僕と君 8 リー。
君の赤ちゃんことばには、何でも「リー」がついてた。
ママリー、パパリー。おばあちゃんはババリー。
あれ、そういえば、ジジリーはなかったな。
おじいちゃんだけはジーチャンだったね。あれ不思議。
車をゆびさして、ブブリー。ミッフィーは、うさリー。
あの「リー」はいったい、どこから来たんだろう。
ブルース・リーはいいぞ、そのままで。
近所の小学生たちによく笑われた。
「パパリーだって。あははは」
この可愛さがわからないとは。お前らなど、ふん。
*
こどもの言葉って楽しい。
直してあげないといけないな
君がいつか困ることになるな、と思いながらも
この子だけの言葉があってもいいじゃないかと
ついには、おもしろくて、僕まで喜んで使ってしまう始末。
「いっただったすー」は、いただきます。
「ちょいだい」は、ちょうだい。
「ぶっくり」 は、びっくりのこと。
ママがいつも、体型のこと? ってドッキリしているのを
見ているのはおかしい。あ、しまった。また怒らせてしまう。
さかさにしてしまう言葉も多いよな。
がんばれーは、「ばんがれー」。
くっついちゃったは、「つっくいちゃった」という具合に。
きっと各家庭に、その家だけの言葉があるんだろうな。
そういうのって、小石のカタチをした宝石なんじゃないかな。
うちでは、牛乳は「モーモー」
電車ずきの君は
クッキーのクリームがはみ出してると「だっせん!」だって。
自動販売機を「じどうはんバイキン」って呼ぶのは
アンパンマンの見すぎだな。
*
雨の中を、君に乞われて散歩に出る。
お気に入りの傘をさして、水玉模様の長靴で、水たまりに入りたいらしい。
ああ、桜が、雨で散りはじめたね。儚いな。
でも僕は、満開に咲いている時よりも、はらはら散って
川面を流れてゆく、うす桃色の花びらがすきだ。
ちょっと感傷的になっていたら
「パパ、おんぼりー」と、君がぼんぼりを指さした。