13 アイル・オブ・スカイ 背中④
「面影を追い続ける男」 13 アイル・オブ・スカイ ー背中④ー
俺たちは積み木のような色合いの家が並ぶポートリーの街まで歩き、辺りで一番広そうな平屋建てのホテルに入った。
フロントで流れるような言語で話しかけられ(多分ゲーリック語だ)、なんとか意志の疎通をして二部屋取ることが出来た。
寒い日だった。部屋の暖房を強にしてもなかなか効かなかった。
カーテンを開けると、中庭は広くて、四方がどぎついピンク色の壁に囲まれていた。驚いて窓から降り立ってぐるりと歩いてみる。
屋上にはアメリカの田舎町のモーテルかと錯覚するようなネオンが光っている。入口からは見えなかった、表の顔からは想像できないものに唖然とする。
中央に奇妙なものが置いてある。
それはサボテンの形をした石だった。
計算されたオブジェとも、ただ無造作に置いたとも思える石たちは、新しいものに挑戦して失敗に終わり、どうにも手をつけられないもののように見えた。
*
窓の外から睦月の部屋の窓を叩いた。彼女は目を擦りながら窓を開けた。
寝ていたのか、と話しかけようとして、彼女の目を覗き込んだ。
「泣いていたのか」
指先で一生懸命、涙を拭っている。
「あなたはきっと来ないと思っていたの。また会えて本当に嬉しかった」
彼女の頭を腕で軽く抱えるように引き寄せた。低い庭に立っている俺と、部屋の中にいる睦月は同じ背になった。
彼女はしばらく俺の肩に顎を乗せて静かにしていた。
くすくすと睦月が笑った。この庭を見て真面目な顔はできないな。
「めちゃくちゃ変な庭ね」と笑顔を取り戻してから、彼女は俺の手を取って部屋の中へ招いた。
「どこかの城より謎かもしれないな」
「悪くないわ」
まだ笑いながら、彼女は七つ道具のうちの一つという沸騰棒を取り出した。これで湯を沸かし、ホットウィスキーを作っているらしい。
熱いとより一層スコッチの香りが立つ。
テレビの音を消すタイミングを探しながら、でもこの邪魔な音だけが、こうして少し離れて座っている俺たちの距離を保っているように思えて、なかなか手が伸ばせなかった。
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いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。