14 ホーリー・アイランド②
「面影を追い続ける男」 14 ホーリー・アイランド ーツリー②ー
睦月を町が一望できる教会に連れて行った。
中ではたくさんの人々が忙しそうに物を運んだり、飾りつけをしたりしていた。
牧師をつかまえて、「今日は何か町のお祭りですか」と、ずっと疑問に思っていたことを訊ねた。
「何を言ってるんですか。ほら、今晩はクリスマス・イヴですよ」
彼はそう言って笑って、奥の小さなツリーを指さした。
旅をしているうちに日付の感覚が無くなっていた。睦月も忘れていたみたいだ。
「塔に登れますか。久し振りにここに来たから、町を眺めたいんです」
俺は皿にコインを入れながら、牧師が手招きしてくれるのを待った。
「急ですから、手すりにつかまって登って下さい」
塔の階段は急な上に、やっと人間一人が通れる程のスペースしかなかった。コブのように凹んでいるところで、相手を待ってすれ違わないといけない。
突然、上から子供が駆け下りて来た。
「クリストファー!」
やんちゃ坊主は、母親が上から呼んでも止まらない。下まで行ってからまた登って行くのを避けて通してやったが、また次の瞬間には走り落ちて来た。
睦月が体当たりされて、苦笑しながら子供を捕まえた時に、小さな女の子の手を繋いだ母親が降りて来た。
「すみません。元気過ぎて困ってしまうわ」
彼は厳重に手を繋がれて、渋々おとなしくなった。
展望台にはもう誰もいなかった。上から見ると、島はとても小さく見えた。
「島には修道院があって、干潮の時には島に渡れる道が現れるんだ。いかにも神聖な感じに、特別感を持って」
「ホーリー・アイランドを眺める聖夜なのね。偶然とはいえ、なかなか素敵ね」
彼女は伸びをして、爽やかにため息をついてみせた。
「妹さんはいなかったの?」
「ああ、ここには来てないみたいだ」
「夜、教会のミサに入れてもらえたら、見つかるかもしれないわ。きっと町中の人が来るもの」
今は真っ直ぐに目を見つめられるのは、君の方になってしまったな。
相変わらず何も答えを出せない自分が情けなく思えた。
*
海岸に行こうと言う睦月と、湾の方角へ歩いた。出会って間もないのに、彼女とはもう何度、水際を歩いただろう。水の音が静めてくれることがある。
高台から見える湾は、右の方へ鋭く切れていた。青い海にグレーの砂浜の二色のコントラストが、イルカの背中を思わせる。
近付いてみると、グレーは砂ではなく、丸い石だった。楕円形ですべすべした、字が書ける石。
子供の頃、まだ川で泳ぐことが出来た時分、たくさん河原に落ちていたような平凡な石と似ている。
どれを拾っても同じように見えてつまらないかと思うと、時折白いラインが入った個性的な石が見つかる。
嬉しくてポケットに入れて大切に家に持って帰った、そんな記憶が蘇る。
君といると、日本を思い出す。
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