僕と君 7 かじられた絵本
君にはじめて買った絵本は
せなけいこさんの「いやだいやだ」の連作だった。
貼り絵で作られたやわらかい絵は、どこか僕をほっとさせる。
正方形の形と、頁数のちょうどよさで
生まれた頃からママが読み聞かせてる大切な絵本。
あかちゃんに気に入られた絵本は、ページがぼろぼろになる運命。
あちこちテープを貼った、痛々しい勲章つき。
*
お気に入りの3冊。
まずは「にんじん」 にんじんすきなこ、だあれ。
ある日、にんじんのページのまん中が、まあるく食いちぎられていた。
まだ離乳食も初期の初期。君はちゃんと消化したのかな。
やぎさんだって紙たべるんだから、きっと大丈夫だよね。
はらぺこの、あのあおむしさんと君は、気が合いそうだ。
まあるく穴のあいてしまった絵本。
つぎは「ふうせんねこ」
片づけるのいやー。ごはんはいやー。
あれもいや、これもいやといっているうちに、どんどんふくらむねこ。
ねこはいつしか風船のようにふくらんで、お空に飛んで行っちゃった。
まるで君だね。わがままぐあいも、イヤイヤ期のこどもそのまま。
さいごは「ねないこだれだ」
いつまでも起きているこどもは、おばけにさらわれちゃうぞー。
ああ、君なら確実にさらわれてしまうな。
ちょっと脅かすような声で読んでみても
あかちゃんの君はちっともこわがらなくて。
ふくろうさんがホーホーいう場面で、いつもくすくすわらってる。
*
おしゃべりができるようになった君は
今はおばけがちょっとこわくなったようす。
この前の晩、あんまりわからないことばかり言うから
あたま冷やしなさいって、廊下にすこしだけ出したんだよ。
そうしたら大泣きになってしまって。
あわてて抱きしめたら
「パパ、おばけでた」って、涙いっぱいで。
すごく気になってちょっと聞いてみた。
「ね、おばけってどんなだったの」
そしたら「ちっちゃかった」って。
ちっちゃいおばけか。ほんとにいたのかもしれないね。
ごめん、こわがらせて。
ね、ふうせんねこも、ねないこだれだも
絵本のおわりは、みんな遠くに消えちゃうんだよ。
悲劇的なんだよ。いいのかい?
僕はもう、君のいない世界は考えられないよ。