ゲームソフトが違う、恋とビジネスの話
「でね。結局あの男、詐欺師だったのよ。」
地元に帰省していた日曜日の夕暮れ時。
コメダ珈琲の甘すぎるコーヒーをすすりながら、久しぶりに会った旧友の恋の話に耳を傾けてた。
「詐欺師ってね、はなしが全然通じないのよね。」
その男を擁護するつもりはないが、詐欺師とは言いすぎだ。
「ネットワークビジネス(NB)」という一応合法な仕組みのビジネスである。
去年の12月に出会った男性に恋をし、デートを重ねてきた彼女。
LINEやデートでも「あなたが好きだよ」と積極的に想いを伝えつづけてきたが、思わせぶりな態度だけとられて上手にはぐらかされていた。
そんなもどかしい日々を重ねていたある日「今日は大事な話があります」と呼び出されたマンションの一室。そこには、いわゆる「ぼくの大事な仲間たち」が待っており、「人生を謳歌する選ばれし者のパーティー」が催されていたのだった。
━ と、ここまできいた。
「それでどうしたの?」
「それでね。その場の空気に耐えきれなくなって、一緒に付添いで来てくれた友だちと一緒にこっそり帰ろうとしたの。
それを察したのか彼が遠くから『どうしたん?...なんか気づいたん?』って詰め寄ってきたの。顔もみたことない色してた。ほんとこわかったの。急にエセ関西弁だし。」
「おぉ、、それでそれで?」
「コロナこわいから帰ります。って言って出てきた。」
なるほど。それは誰も止められない。
新宿区の成人式も中止になるのだから、選ばれしパーティーを欠席するには十分な理由だ。
「帰り道は、悔しくて泣いちゃったな。
ネットワークがだめって話じゃないの。こっちは”恋のかけひき”をしていたのに、向こうは”ビジネスゲーム”をしていたんだって思うと辛いじゃない。」
なんせ昨日の話だ。彼女の傷はまだ癒えていないに違いなかった。
「エセ関西弁を聞くまではね、わたしほんとに好きだったのよ。優しかったし、いつもわたしを肯定してくれたし。いつも前向きで、すごく映画のイエスマンのようだった。」
「でも!あんなイエスマン。まじノーサンキュー。」
怒ったり笑ったり、少し泣きながら、彼女はすべて吐き出していた。
悪いものを出した分、コメダの甘すぎるコーヒーが彼女の体に染み込んでいくようだった。
「話したらスッキリした。ありがとうね!」
彼女はまだ興奮気味なまま「きいてくれたお礼に」といって、コーヒーについてくる豆をわたしにくれた。
「わたし今回のことで改めて思ったんだ。
やっぱりわたしはいつも神様に守っていただいているんだって。」
彼女の行き着いた結論に一抹の不安を覚えながら
「豆、ありがとう。」と言ってコーヒーを飲みほした。
別れ際、彼女は思い出したように言う。
「動物占いって知ってる?ってきかれたら気をつけて。動物占いの結果に応じてアプローチを変えてくるみたいだよ」
え、まじ。なにそれ、すごく面白そう。
最後にわたしにすごく興味をもたせて、彼女をのせた軽自動車は田舎の暗闇に溶けていった。
(おわり)
【ご参考】
ネットワークビジネスと対処法について知り合い方はこの記事をどうぞ。