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はじまりのひとこと~絵におこり絵にほれる君に~【ショートショート】
ひょんなことから、梨緒は高校のクラスメイトである真二に誘われ二人だけで外出をすることになった。
(これはデートということになるのかな?)と梨緒は少し戸惑いつつも、とある美術館にて真二と絵画を見て回るのだった。
そんな中、ある絵の前で真二は顔つきをこわばらせて立ち止まった。梨緒は疑問を感じて問いかけた。
「この絵はどう思うの?」
「うん……。実にふざけた絵だ」
「えっ? ふざけたって?」
「ふざけている。正直、人をバカにするのもいい加減にしろって感じ」
「なっ、なにを言っているの? どうしたの?」
「こんなにふざけた腹の立つ絵は初めて見た」
「どうしたっていうの? こんなに素敵な絵を見て」
「僕は率直な感想を言っているんだ。実に腹立たしい」
「どうしちゃったの? なんてこと言うの?」
「どう思うっていうから思ったことを言ったまでだ。こんなにムカムカする絵は見たことないね」
「どうしたっていうの? いつも冷静なあんたって人が? この絵とその作者に失礼じゃない? 立派で有名な画家の描いた絵のはずだよ」
「そんなの関係ないね。立派だとか有名だとかなんて、まったくどうでもいい。この絵を見て、僕の感想を言っているんだ。ほんと腹立つ」
「まったくどうにかしちゃったんだね……。もう帰るとする?」
「ごめん。気分が悪くなっただけだよ。……ん? おっ? ちょっと待って、こっ、これは……」
「なに? 今度は?」
「となりのこの絵はなんてすばらしいんだ! すごく気持ちがいい。すがすがしさにあふれてる。気品もあって、誠実さを感じる。見ていてなにか救われた感じがする。ほれぼれするよ」
「同じ画家の、同じ時期の、同じ作風の絵だと思うけど……」
「そんなことは関係ないね。ああ、この絵は実にすばらしい!」
絵に見入っている真二の姿に梨緒は思うのだった。
(この人はウソや冗談を言っているのではない。なにか二枚の絵の違いを見破ってしまったのだ。わたしには同じような絵にしか見えないけれど。
ていうか、本音を言うと、わたしにはどちらの絵もたいしていいだなんて思わない。何を表しているのかわからないし。確かに綺麗な絵だとは思うけど……。
この二枚の絵に、ここまで怒ったり、感動したりできるなんて、この人変わってる。いつも落ち着いていて感情をおもてに出さないんだと思っていたけど、ほんとは自分に素直なんだな。
……うん、この人、少しいいとこあるかも)
そして一瞬ためらったが、二枚目の絵をいまだ飽きることなく眺めている真二を驚かすように、大きくひとこと声にするのだった。
「今日は素敵な日!」