しりとりエッセイ な なまこ
>>> な なまこ
学生時代の友達に ナマコの酢の物が好きな女の子がいた。
僕の住んでいた部屋は、大学から徒歩3分。駅から2分。
そこそこ広かったのもあり、サークルの仲間がよく集まって飲み会をしたのでした。
そのなまこ女子が
なまこ を買ってきた。
あれはヌルヌルしてて切りにくい
僕の安物の包丁じゃうまくいかん。
「あのコリコリがたまらないよ」と、その女の子は言うが
料理はからっきしで
僕に切れというのだ。
「こういうのは男の仕事だよ」「君、喫茶店でバイトしてたから調理とかできるでしょ」と女の子たちがやっかいな仕事を僕に押し付けようとする。
いやいや、それとこれとは違いますよ。
和食はできませんよ。
そいつは生きていた。
動いていたんだ。
形状が原始生物のようできもい
イボイボみたいなのがあり触るのにも抵抗があった。
仕方ないので照明落として
なるべく形状を直視しないようにした。
それからビニール手袋はめて
直接は触る勇気がなかった。
あかん動くどうにもならん
他の人が持ってきた蟹が近くにいたので
その爪を引きちぎり
なまこを突き刺した。ぐさっ。黄色の液体がどろっ。
「おい、押さえてろ」と僕は叫ぶ。
「ひぇーー」と言いながら、なまこ女子は蟹の爪で押さえる。
ヤクザが子分の指を切るシーンみたいになった。
どうにか、こうにか悪戦苦闘の末
切った。だが、でかい。一口サイズにならなかった。
それで「あちょー」と叫びながら
僕はそれをぶち斬りにした。切りまくった。
その段階になると、もう、僕の行為はなまこイジメになっていた。
オレンジ色の内臓まで一緒くたに切ってしまって
ナマコが変な色になってた。
だから、笊に入れて洗っていたら
その なまこ女子が、そっと「洗剤」を出してきたのだ。
非常識にもほどがある。
食い物を洗剤で洗うって・・・
こいつは、ひつこい油汚れなのかと思わず叫びたくなった
そんなことをしたら食えない
料理本通り味付けをし
酢の物として、どんぶりにぶちまけた。
なまこは計3匹いたのだった。
味は悪くなかったのだが、切り方が変と皆が言って
僕の料理センスのなさを非難し
何か、コレ食べると内臓が腐りそうと
ディスるのだった
と言うか、僕がなまこと格闘していたシーンを撮影しなかったことを皆が後悔してた。
「君、きっと殺人鬼になるよ」と勝手に僕の未来予想図を酒を飲みながら語り
「うん、こいつはヤバい。あの包丁さばきは人を殺す人の手つきやった」とか好き放題に言ったくせに
僕の調理したなまこを完食したのである。
見た目はまずいが味は悪くない。
レシピを考案した人は天才だと思うよ。
2020 11/12