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64.今後タワマン節税はできなくなる?令和4年4月19日マンション評価事件判例解説

皆様、こんにちは。
ルチノーです。

今回は「最判令和4年4月19日民集76巻4号411貢」の判例解説をします。
ざっというと過度なタワマン節税が認められなかったという事件です。


■事案

(ア)被相続人Aは、平成24年6月17日に94歳で死亡した。
Aの死亡により、Aの妻B、長女X1、長男X2、次男C、養子X3は、
Aの財産を相続した。(以下、原告等X1,X2、X3を「Xら」という)

(イ)Aの遺産には甲不動産と乙不動産が含まれており、Aの遺言により養子X3が相続した。甲不動産について、Aは平成21年1月30日(死亡約3年半前)に銀行から6億3000万円を借入れ、総額8億3700万円で購入した。また乙不動産について、Aは平成21年12月25日(死亡約2年半前)に銀行から3億7800万円と妻Bから4700万円を借入れ、総額5億5000万円で購入した。なお、銀行からの借入れの際、貸出稟議書に相続税対策の旨が記載されていて、この借入れと不動産購入がなければ相続税の課税価格の合計額は6億円超えとなり、相続税額が1億円超えとなる見込みであった。

(ウ)X3は平成25年3月7日に乙不動産を5億1500万円で売却した。

(エ)平成25年3月11日、Xらは各不動産の時価を「財産評価基本通達」(以下、「評価通達」という)に基づき、甲不動産を2億4万円、乙不動産を1億3366万円と評価した。この評価に基づくと相続税の課税価格の合計額は2826万1000円となり、基礎控除の結果、相続税額が0円となった。(相続税法22条、評価通達1項(2))

(オ)これに対し課税庁は、Xらの評価額を認めることは著しく不適当として、不動産鑑定士による鑑定評価に基づき、甲不動産を7億5400万円、乙不動産を5億1900万円と新たに評価し直した。この評価に基づくと相続税の課税価格の合計額は8億8874万9000円となり、結果、相続税額が2億4049万8600円として更正処分および過少申請申告加算税の賦課決定処分を行った。(評価通達6項)

(カ)Xらはこの更正処分を不服とし、取消しを求め提訴した。原審、控訴審、上告審ともにXらの敗訴となった。

■参考(事案を理解するために)

相続税法22条 
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
 
時価とは?
「時価」は「客観的交換価値(不特定多数の者の間で通常取引される価額)」であると解される。しかし、それだけだと具体的な評価方法が分からない。そのため、国税庁は様々な財産の具体的な評価方法を「財産評価基本通達」(以下「評価通達」という)に定めている。一般的に、納税者も課税庁もこの評価通達を参考に各財産を評価している。Xらもこの評価通達に基づいて各不動産の時価を評価した。ただし「評価通達」は「法律」ではないため法的拘束力はない。
 
評価通達1項(2) 
財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続財産取得時)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。
 
評価通達に基づく不動産の評価 
土地については路線価方式(国が定めた1平方メートルあたりの土地の価格×土地の面積)または倍率方式によって評価される。一般的に公示価格の8割相当額で計算される。
建物については原則、建物の固定資産税評価額と同じ額が適用される。一般的に建築費の5~7割相当額で計算される。このとき、高層マンションや賃貸物件であるとさらに評価額は下がる。実際、本件においてXらの評価額は購入価額の2割程度になっている。
 
相続税の計算と納税方法 
相続したプラスの財産(金銭、土地、建物など)と相続したマイナスの財産(借入金など)の差額に累進税率をかけて、相続税を決定する。このとき相続税を減らす方法としては、例えば、本件のように評価額が低くなること利用して現金を不動産に変えてプラスの財産(の評価額)を減らす、またはあえてお金を借り入れてマイナスの財産を増やすことなどが考えられる。相続税は申告納税制度が採られているため、納税者自身で税額を計算し申告する必要がある。その申告に不正な点があれば、課税庁から更正処分を受ける。

評価通達6項 
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

■当事者の主張

納税者(Xら)「他の納税者と同じように評価通達に基づいて各不動産の時価を評価したにもかかわらず、自分たちだけ更正処分を受けた。これは平等原則に反する。よって本件更正処分は違法だ。」

課税庁「Xらの申告した各不動産の評価額を認めると、他の納税者との間に著しい不公平が生じる。これは平等原則に反する。よって本件更正処分は正当な理由があり違法ではない。」

■争点

本件の事情の下で、「評価通達6項」を理由に課税庁が通達評価額(Xらの主張額)を上回る額で新たに各不動産の時価を評価し直し、更正処分および過少申請申告加算税の賦課決定処分をすることは適法か否か?

■判旨

1)「時価」の評価は必ず「評価通達」に基づかなければならないのか?

相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが、ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。そして、評価通達は、上記の意味における時価の評価方法を定めたものであるが、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが 国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。そうすると、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、同条に違反するものではなく、このことは、当該価額が評価通達の定める方法により評価した価額を上回るか否かによって左右されないというべきである。

最高裁判旨

相続税法22条のいう「時価」とは「客観的な交換価値」のことである解される。「評価通達」はその具体的な評価方法を定めたものであるが、それはあくまでも課税庁なりの解釈を示した「役所内部のルール」にすぎず、法的拘束力は無い。
したがって時価を「評価通達」以外の方法で評価しても、その評価額が「客観的な交換価値としての時価」を上回らない限り、相続税法22条違反にはならない。

(2)それならば「評価通達」は守らなくていいのか?

評価通達は相 続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。

最高裁判旨

しかし、実務上、課税庁が時価を「評価通達」に基づいて評価していることは公知の事実であることを考えると、納税者の平等取扱原則と予測可能性の保護の観点から、原則、課税庁は時価を「評価通達」に基づいて評価すべきである。
しかし、「合理的な理由」があれば例外(時価を「評価通達」以外の方法で評価すること)は認められる。「合理的な理由」がなければ、平等原則違反となり違法である。

(3)「合理的な理由」とは?

相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められる」

最高裁判旨

本件においては、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」が「合理的な理由」に該当する。

(4)「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」とは?

これを本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との 間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があると いうことはできない。 もっとも、本件購入・借入れが行われなければ本件相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、本件各不動産の価額を 評価通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になるというのであるから、上告人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。そして、被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。したがって、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を 上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない。

最高裁判旨

本件では、Xらの主張額と課税庁の主張額に大きな(約4倍の)乖離があるが、これだけで「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」とはいえない。
本件では、①Xらの相続税負担軽減を意図した行為(借入れ、不動産の購入)によって評価額に著しい乖離が生じ、②その結果、Xらの相続税負担が著しく軽減されたことから、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」があるといえる。
したがって、本件の課税庁の不動産鑑定に基づく評価額は、客観的な交換価値としての時価を上回ってはおらず(22条違反ではない)かつ合理的な理由もある(平等原則違反でもない)ため適法である。

■研究

(5)つまり租税回避の否認ってこと?
以上を踏まえると、一見、租税回避の否認のように思われるかもしれない。
しかし、本判決が重視しているのは「Xらの行為は租税回避か?」ということではなく、「Xらの主張額と課税庁の主張額どちらが本件不動産の時価としてよりふさわしいか?(より実質的な公平を守れるか?)」ということである。
したがって、本判決はXらの相続税負担軽減を意図した行為(借入れ、不動産購入)を「Xらの評価額を否認するための理由」としたわけでなく、「課税庁が時価を評価通達以外の方法で評価することを正当化するための理由」として位置付けたに過ぎない。

(6)この判決の意義は?従来と何が違う?
(従来)評価通達により評価した「時価」は、相続税法22条のいう「客観的な交換価値としての時価」を正しく解釈したものであり、同義である。
(1)原則、時価の評価は「評価通達」に基づいて評価すべき。
(2)「特別の事情」があるときに限り例外を認める。なければ相続税法22条違反。
(3)「特別の事情」とは評価額が著しく不適当であること(通達6項と同義)。

→「特別の事情」の定義が曖昧ではないか?
→そもそも時価を評価通達に基づいて評価をする以上、少なからず乖離は生じてしまう。乖離が仕方なく生じてしまった場合はどうなのか?
→「法律」ではない「評価通達6項」により、相続税法22条のいう「時価」を否認することは租税法律主義に反しないか?

(本判決)評価通達により評価した「時価」は、相続税法22条のいう「客観的な交換価値としての時価」を課税庁なりに解釈しただけのものにすぎず、同義ではない。
(1)「客観的な交換価値としての時価」を上回らない限り、時価をどんな方法で評価しても良い。上回った場合、相続税法22条違反。
(2)ただし、納税者の平等取扱原則と予測可能性の保護の観点から、課税庁は原則、時価を「評価通達」に基づいて評価すべきである。
(3)ただし、「合理的な理由」があるときは例外を認める。なければ平等原則違反。
(4)本件において「合理的な理由」とは、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」のこと。
(5)本件において「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」とは、納税者の相続税負担軽減を意図した行為によって評価額に著しい乖離が生じ、その結果、納税者の相続税負担が著しく軽減したこと。

→そもそも「特別の事情」などなくても時価を「評価通達」以外の方法で評価して良い。よって「特別の事情」の定義を考える必要は無い。ただし、課税庁においては「合理的な理由」(実質的な租税負担の公平に反するというべき事情)がないと平等原則違反になる。
→相続税減税を意図したことが要件となっているため、仕方なく生じてしまった乖離については問題としない。
→「評価通達6項」で否定したのはあくまで「評価通達」により評価された「時価」であり、相続税法22条のいう「時価」を否定したわけではない。したがって、租税法律主義には反しない。

(7)この判決の影響は?
令和5年に評価通達の見直しが行われた。
通達評価額が実勢価格の6割以下にならないように是正された。
あからさまな相続税対策が認められなくなった可能性が高くなった。

■批判

(1)「時価」の評価方法を、通達ではなく法律に明文化すべきだ。また、評価方法を1つに固定化すべきだ。
→「時価」は経済の流れとともに大きく変動するものであるため、例えばバブル崩壊のような突発的なイレギュラーに対応するためには、迅速に対応できる通達のほうがよい。また時価の評価方法を1つに固定化すべきという意見は、過去の判例より適切ではないことが証明されている。

(2)本件のような乖離を引き起こしてしまう評価通達がおかしい。また本件のような乖離が生じることを予測しているからこそ評価通達6項の規定があるのではないか?
→評価通達の見直しは必要かもしれないが、「時価」のような不確定要素が多いものに対して隙のない完璧なルールは作るのは難しい。従って6項のような例外規定は必要といえる。

(3)「合理的な理由」の定義が曖昧ではないか?
→本件においては「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」が「合理的な理由」に該当するとされたが、果たして他にも「合理的な理由」に該当しえる「事情」があるのかは言及されていない。
また「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」の要件においても、何を持って相続税負担軽減を意図したといえるのか?著しい乖離とはどの程度か?著しい相続税負担の軽減とはどの程度か?などは曖昧なままである。これからの判例の積み重ねによってより明確になっていくであろう。

最後に

授業で作ったやつをそのままコピペしました。
一学生が作ったものなので所々間違えてるかも。
割と有名な判例らしいのでご参考までに。
では、また。

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