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【私小説】今日の一人ゆるごはん@鍋
久しぶりの一人ご飯。さて、何を食べようか。
内心つぶやきながら、冷蔵庫を開ける。
自分だけしか食べない。ということで、料理のハードルはぐんと下がるのはうれしいが、一人だけだとどうしても適当になってしまう。
だけど今日は風邪気味だし、栄養があるほうが良いだろうから、あまりに適当な料理だとなぁ、なんて自分に対してわがままを言っていると。
野菜室の片隅に小さくなった白菜を見つけた。
そうだ、鍋にしよう。
鍋というと、大勢で囲んで食べるイメージを持っている私。
そんな私が一人鍋。
言葉の響きからしてもう、なんだかちょっと特別な感じがしてきた。
すこしワクワクしながら、冷蔵庫に入っている食材を取り出していく。
白菜、人参、しいたけ、えのき、豆腐に……この際だ、すこし残っていた豚肉も投入してしまおう。
そしてこれらを食べやすい大きさに切るだけで、立派な鍋の具の完成である。
ただ、調子に乗ってちょっと切りすぎてしまったらしい。
切ったものを用意していた小さめの土鍋に入れてみたら、結構いっぱいになってしまった。
……まぁ、火を入れたら嵩が減るから大丈夫だろう。きっと、多分。
お次は鍋のつゆである。
具材は切ったので、正直つゆぐらいは楽がしたい。
どうしようかと考えたときに、ふと床下収納に鍋つゆの元があったのを思いだす。
記憶をたどりつつ、冷たい風を感じながら床下の中を探せば、見つかったのは岐阜のタンメン味。
実物は一回も食べたことがないが、きっと食べ応えがあるだろう。
よし、これにしよう。
2人分と書いてある袋はずっしりと重たい。
裏面を確認してみれば、有難いことにどうやら水を足さなくていいタイプのようだ。
本当は面倒なので全部入れたいところだが、さすがに溢れてしまうだろう。
残り半分は、また別の機会に使わせてもらおう。
大体こんなもんかと感覚で鍋に注ぎ、火をつけた。
沸騰する鍋をたまにつつきながら、ふと思いつく。
これに麺をいれたら、きっとおいしい。
そう思って探してみれば、見つかったのは少し残っていた焼きそばの麵。
焼きそばの麵かぁ。
焼きそば、鍋に入れたことがないのだけれど、おいしいんだろうか。中華麺なのだから別にいいのだろうけど。なんてグダグダ思いつつも、手は麺を袋から取り出して、くたくたになってきた野菜の隙間に埋め込んでいる。
こういう一瞬躊躇してしまうようなことでも、自分が食べるだけの料理ならできてしまうから不思議なものである。
見た目がそう変わるわけでもないから、これはどのくらい火を入れればいいのだろうか、と悩みながらもくつくつ煮て数分。
一人鍋、完成。
先ほどまでぐつぐつと沸騰していた鍋をテーブルへと運び、私は手を合わせる。
「いただきます。」
まずはくたくたになった白菜を一口。
好き嫌いはあるだろうけれど、このぐらい火が通ってやわらかくなっている方が個人的には好きである。
お次は少し躊躇していた焼きそばの麺。
少し時間をおいてもスープを吸っているような感じはなかったけれど、どうなんだろう。
そう思い口に入れれば、当たり前ではあるが普通の麺のように難なく食べれた。
ただ、噛めばぷちっと切れる食感は、いつものラーメンの麺となんだか違うきがしたが。
でも、これはこれであり。だ。
今日の一人ご飯は大成功である。
体が温まっていくのを感じながら、どんどん食べ進んでいく。
やっぱり量が少し多かったが、初めてのタンメン、悪くなかった。
今度は鼻が通って、味がよくわかるときに食べたいな。
そう思いながら私は手を合わせたのだった。
「ごちそうさまでした。」