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『三宅雪嶺人生訓』二四

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/933730/1/23

〇軽きもの、重きもの
 軽薄なるものは愉快に感ぜらる、帽子は軽(かろ)くして薄きを快とし、衣服も軽くして薄きを快とし、寝巻も軽くして薄きを快とし、荷物は猶ほ更ら軽くして薄きを快とす、凡そ膚(はだへ)に接触する、軽薄なるより快なるあらんや。然れども霜気森々(そうきしんしん)、風稜戚々(ふうりょうせきせき)たる夜、着る所は重きを厭(いと)はず、纏ふ所は厚きを厭はず、弥(い)やが上に弥やに衣類を着重ねんと欲するなり。荷物も価(あたひ)あるを欲せば、決して重きを厭ふべからず。

『小泡十種』、『三宅雪嶺人生訓』一一~一二頁

【現代語訳】
〇軽いもの、重いもの
 軽くて薄いものは愉快に感じられる。帽子は軽くて薄いものを心地よいとし、衣服も軽くて薄いものを心地よいとし、寝巻も軽くて薄いものを心地よいとし、荷物はなおさら軽くて薄いものをよしとする。およそ肌に接するものは、軽くて薄いものより心地よいものはあろうか。しかしながら霜が降りるようなしんしんとした、風吹く寒さの夜は、着る服の重さは気にならず、纏う服の厚さも気にならず、いやがうえにも重ね着をしようとする。荷物も価値があるものが欲しければ、決して重いのを嫌うことはできない。

【補説】
雪嶺は『真善美日本人』において、日本人の美的特徴を軽妙に求めた。
身につけるもの、持つものの重きを厭わずというのは、人間性あるいは言葉にも応用できる。
君子の交わり然り、軽妙なユーモア然り、である。

ただ、寒い日は伊達の薄着ではやってられない。
同じく、時に濃密な交際も必要、ということだろうか。


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