ひょうご部落解放・人権問題研究所に対し文書の撤回と謝罪を求めました
一般社団法人ひょうご部落解放・人権問題研究所(以下、人権研と略記)は、研究所のHP http://blrhyg.org/で、「2023年度ひょうご人権総合講座「ジェンダー①(総論)」中止に関する経緯と見解)と題した、わたくし牟田について「トランス差別者」等と誹謗する文書をトップページで公開しています(http://blrhyg.org/sogokenkai20240312/sogokenkai20240312.html 。事実に基づかず私を誹謗中傷する文書で、非常に腹立たしく思っていますが、説明の便宜上URLを貼り付けます)。これについて私は代理人を通じて人権研に正式に強く抗議し、撤回と謝罪を求めました(4月12日付け)。本稿では、事態について詳しく記し、人権研が誠意ある対応をされることを願います。
1.事実経過
人権研は、牟田に対し、同所主催の2023年度人権総合講座の「ジェンダー①(総論)」(2023年11月2日)の講師を依頼し牟田はこれを承諾しました(2023年春ころ)。ところが2023年9月初めに、牟田が公開していた文書「トランス問題と女性の安全は無関係か---『LGBTQ+への差別・憎悪に抗議するフェミニストからの緊急声明』についてフェミニストからの疑問と批判」(https://note.com/mutakazue/n/n38c390f8d59c 2023年7月6日公開)について問題があるとして、講師を降りてほしい旨を告げられました。
牟田は納得がいかず説明を求めましたが、話し合いが進まないまま、「すでに講座受講者に中止を連絡したから」と、講座は一方的にキャンセルされました。その後11月9日に面談の機会を得、キャンセルの理由は牟田記事がトランス差別であるからということでしたので、どの部分がトランス差別にあたるのか具体的に指摘してほしいと説明を求め、文書で回答すると約束を得ました。それから実質的なやり取りはないまま時間が経過し、24年3月12日になって人権研からの回答文書が牟田へメールで届くとともに、人権研HPに公開掲載され(3月12日)、SNS(牟田の把握している範囲ではTwitter(現X。URL はここでは省略))に公開されました。その内容は、人権研のトランス差別に反対する主張が連ねられており、その上に、該当牟田文書が「トランスジェンダー女性差別を助長するものであり人権侵害行為」「間違った認識と憶測で…トランス女性への恐怖を煽る」などと、牟田記事を曲解して事実に基づくことなく牟田を差別者と繰り返し断じて誹謗し牟田の人格と名誉を傷つけるものでした。
この内容自体、看過しがたいものですが、しかもそれをインターネットを通じて社会的に広く公開した人権研の行為は、責任ある社団法人として許されるものではありません。
2.人権研回答文書について
【「差別」の結論ありきのこじつけ】
人権研文書の内容は、焦点とされている牟田の記事内容の範囲を超えて、各所で発言されていると人権研が考えるトランス差別の言説に牽強付会に結び付けて、「ゆえに牟田は差別者である」と結論ありきでこじつけるものです。
そもそも該当牟田記事は、LGBT理解増進法について「トランス差別をあおっているフェミニストの動きがある」と問題視するWAN(ウィメンズアクションネットワーク)サイト記事「LGBTQ+への差別・憎悪に抗議するフェミニストからの緊急声明」が一方的な見方をしていることを問題として書いたもので、一部のフェミニストが懸念しているのは女性の安全であってそれはトランス当事者を排除したりトランスの権利を軽視したりすることとはまったく違う、ということを記したものです。牟田はもともと女性の権利のみならずトランスの権利含む人権擁護を信念としておりますが、該当牟田記事については、この記事を書いた経緯からも、トランス排除・トランス差別と受け取られることのないように慎重に記述しました。人権研回答文書による牟田記事批判はきわめて不合理であり、納得がいくものではありません。
【牟田への悪質な名誉棄損】
人権研回答文書が、女性の安全や全体としての公共の福祉よりも、トランスの権利を最大限に擁護する人権研の思想・立場からのものであることは明らかでしょう。そうした人権研の思想や立場については、牟田個人として全面的に賛同はできませんが、ご自由であろうと考えます。しかし人権研回答文書は、自らのその立場を明らかにすることよりも、その立場に固執して、牟田記事をこじつけて牟田を差別者と断じ、しかも、それを社会的に公言流布したものです。つまり、人権研回答文書は、自らの立場や思想を表明することを越えて、根拠なく牟田を差別者として糾弾し、しかもSNSによって不特定多数の人々に広めているのです。これは許されがたい悪質さと言わざるをえません。とくに、牟田は、社会学・ジェンダー研究者として長年大学で教育研究に携わり多数の著書もあります。2022年3月の大阪大学大学院人間科学研究科定年退職に際しては、名誉教授号を授与されてもいます。こうした事実を考慮するとなおさらに、人権研の行った牟田への攻撃は、牟田への深刻な名誉棄損です。
【女性差別の視点の欠如】
前項に、人権研がトランスの権利を絶対的に擁護する立場を取ることは自由と書きました。しかし、人権研文書からは、現代もなお守られるべき人権、解消されるべき差別の重要要素であるところの女性差別についての認識が大きく欠如していることが明らかで、これはまったく看過しがたいです。性暴力が「性」の属性とは無縁であるとか、ジェンダーの講座で女性差別は焦点としなくてよい、等、人権研文書に述べられている認識には驚愕せざるを得ません。該当牟田文書は、女性差別に抗し女性の安全と権利を擁護する観点から書かれているのに、人権研が女性差別視点を全く欠いた認識の上で該当牟田文書を解釈し差別と断じていることは、まったく不適切で、人権研文書の冒頭にある「それが出された背景や文脈」を含めて判断する、という言葉がいかに見当外れであるかを露呈しています。人権研には、今回の文書で牟田記事を「差別」と断じるその内実に、女性差別が厳然としてあることを真摯に反省していただきたいです。
【人権研の社会的使命は?】
そもそも人権研は、正式名称「一般社団法人ひょうご部落解放・人権研究所」であり、HPの冒頭には、「ひょうご部落解放・人権研究所は、すべての人間は自由で平等であり、等しく人間としての尊厳をもっているという理念のもと、部落の完全解放をはじめ一切の差別撤廃を実現するため、部落問題と人権問題の歴史や文化、教育に関する調査研究並びに教育啓発活動を行い、部落問題と人権問題のすみやかな解決に寄与することを目的としています。」とあり、すべての人々の人権と尊厳を擁護することを掲げ活動をしていると宣言しています。そのような立場でありながら、今回のように個人に対する名誉棄損・人権侵害を行ったことの事実ははなはだ重いと考えます。
人権研にあっては、すみやかに、文書を撤回するとともに、牟田に対し今回の一連の経緯によって牟田の人格と名誉を傷つけたことについて反省し深謝することを求めます。
3.「差別」「差別者」と安易に断罪することの重さ
残念ながらここ数年来、とくにトランスの権利問題について、根拠を示さないまま、あるいは曖昧な根拠で、「トランス差別」「トランス差別者」と他者を断罪し誹謗する発言が少なからず見られます。
何びとも思想信条の自由があるのは言うまでもなく、またさまざまな立場からの発言や意見が交わされることは望ましいことですが、事実に基づくことなく他者をみだりに誹謗したり発言を抑圧したりすることは、人権擁護・推進の観点からはむしろ逆行しているのではないでしょうか。女性の権利もそうですが、トランスジェンダーの権利も、具体的内容が社会的に広く共有され実現されているとはいまだ言えない、権利確立の過程段階にあります。その状況を踏まえるとなおさらに、軽率な発言や失当な発言はじゅうぶんに抑制しながらも、多様な意見や疑問が活発に交わされることに意義があるのではないでしょうか。一般社会全体においてもですが、とくにアカデミアやジャーナリズム、人権擁護を旨とする組織団体においてはとりわけ、自らの信ずるところを活発に発言し行動しつつも、言論の自由が抑圧されたり他者の名誉が棄損されたりすることのないよう努めていく社会的使命があるのではないでしょうか。トランス問題について言及するだけで差別と断罪され、発言や、出版までもが、抑圧されるような状況はもう終わりにするべきではないでしょうか。
今回のような目に遭い差別者呼ばわりされているのは私だけではありません。今回のことは私個人としては非常に遺憾でしたが、これが一つのきっかけになって、言論の自由・学問の自由が少しでも取り戻せることにつながれば幸いです。
上記掲載の他の参考記事
牟田和恵「「キャンセル」が危うくするもの:ひょうご人権総合講座からの講演取り消し依頼を受けて」https://note.com/mutakazue/n/n0bc107aa2c15
(2023年9月29日公開)