ミッドナイトスワン を好き勝手に振り返る
凪沙に請われて、一果が砂浜で踊るクライマックスシーン。
2人が過ごしてきた時間の全てが、あの数十秒に詰まっていた。
葛藤、孤独、厭世を経て、共感、愛が生まれる。
あと、ハニージンジャーソテーも。
まず、長髪も短髪も、黒髪も茶髪も、何でも似合う草彅剛は何者なのだ。
自分らしさを貫きつつも、仲間に寄り添うことを忘れない凪沙は、哀しいほどに美しかった。
特に、食卓で、髪を短くしたことを恥ずかしそうに伝える場面は、グッときた。
綺麗に伸ばした髪を一思いに切ってしまうというのは、(女性にとっては特に)相当の勇気が要ることである。
それも、自分のためではなく、一果のために。
おそらく一果はあの時、凪沙の中に燃える覚悟を垣間見たのだと思う。
2人が夜の公園で踊る場面では、心の距離が近付いていくのが見てとれて、思わず頬が緩んだ。
真夜中の白鳥たち。
凪沙、一果。そして、りん。キャンディや洋子ママやアキナ、瑞貴も。
彼女らは、迫り来る朝を振り払うかのように、踊っていた。
ただ、公園で老人が言ったあの台詞は、りんに言わせても良かったのでは〜と思ってしまう。
あれ言うためだけに出てきたんだよね?
「あんた誰?」って、ちょっとだけ現実に引き戻された感があった。
コンクールで一果が母親に抱きしめられるのを目の当たりにした時に、凪沙の心は決まったのだと思う。
一刻も早く、本物の女になって、一果を育てたい。
きっと、不安や恐怖はなかった。
一果のために、変わろうとしているのだから。
大切な人への一途な思いは、人の背中を押し、勇気を与えるのだ。
ラストのひとコマ、颯爽と街を歩く後ろ姿は、成長した一果である。
ロングコートに、ピンヒール。
一果の中に凪沙が生きていることが、やさしく美しく描かれていた。
LGBTQ+という言葉が一人歩きしている現代。
こういった作品があることで、知るきっかけを得ることができる。
等身大の、ありのままの、社会の姿から目を逸らしてはいけない。
自分の大切な人が、その社会の波に押されて苦しんでいるのかもしれないのだから。
必要なのは、想像力。
そして、少しの優しさ。