劇団四季ウィキッド を好き勝手に振り返る
善も悪も、人によって生み出される。
私利私欲のためであったり、ひとときの快楽のためであったり、支配・服従のためであったり。
良かれと思って起こしたアクションが、意図せず強大な悪を生んだり、はたまた、この世界を救うような善を生むことだって、あり得るのだ。
「wicked」という単語には、「ひどく悪い、不道徳な」という意味がある。
オズの人々にとってエルファバは、不道徳極まりない、排除すべき者。
無論、彼女をそのような存在に仕立て上げたのは、オズの人々である。
グリンダという美しく女性的な存在があったからこそ、その最も対極なところに、エルファバを位置付けようとしたのだろう。
共通の敵がいれば、結束がより固いものになる、みたいなことも言うし。
さて、ここからはキャストについて。
ウィキッド初見の劇団四季オタクとして、感想をつらつらと書いていく。
まず、グリンダが思っていたよりコメディエンヌだった。
私のお気に入りは、
グリ「キラキラッキラキラッ…ハイッ」
エル「キ”ラ”キ”ラ”- キ”ラ”キ”ラ”-」
である。
うん、確かにあなたは良い人だよ、グリンダ。
竜巻のシーン、走って板付いて、溶明した時には優雅にお手振りしてるの、シュールで面白かった。
カテコも割と好き放題やって笑いをかっさらっていった。
演じている中山理沙さんのセンスの良さと素晴らしい歌唱力が、グリンダの愛らしさを引き立てている。
初見なので比較対象はないけれど。
長年のご贔屓様・山本紗衣さんが演じるグリンダも見てみたい。
紗衣ちゃんのグリンダ見るまでは四季オタやめないことを誓います。
エルファバは江畑晶慧さん。アンマスクド以来3年ぶり。
堂々たる振る舞い、声の深み、目の前の相手にスッと馴染む雰囲気。
人一倍風格がありながら、ちゃんと笑わせてくる。
中山グリンダとの掛け合いも軽妙で面白いので、他のグリンダとの組み合わせで、どのような化学反応が起こるか、気になって仕方ない。
「自由を求めて」は鳥肌モノだった。
信頼と実績の江畑さん。
エルファバの感情が段階的に変化していく様子を、しっかりと見せてくれた。
武藤洸次さんのフィエロ。
チャラい。1幕は若気の至り感が強い。
2幕からの姿が、彼の本来の姿なのだと私は思う。
全身全霊でエルファバを愛しているのがよく表現されていた。
八重沢真美さんのマダムモリブルは、さすがの貫禄。
いでたちが美しすぎる。
2階のセンターブロック、それもど真ん中の席(ドラゴン時計とずっと目が合っていた)で観劇したものの、初見なので全体を掴めたとは言い難い。
オペグラを使わなかったこともあり、アンサンブルはほぼ分からず。
場面によっては菱山さんだけ分かった。
これは後で調べたが、エルファバの母親役は、F2枠とのこと。
つまり石橋杏実さん。途轍もなく艶やかで、情熱的な踊り。
ずいぶん小柄な方?とは思っていたが、杏実さんだったか…
く〜〜〜 オペグラ使えばよかった…
エルファバの出生の秘密が明かされるあの場面で、母親に明確な台詞はない。
しかし、彼女の過ちと絶望は、誰の目にも明らかだった。
急にお腹が大きくなるのは、どういう仕掛け?錯覚じゃないよね?
コルセットを外した?よくわからなかった、あれも魔法かな…
とある原因でエルファバは緑色に生まれたが、妹のネッサローズは間違いなく母の遺伝子を継いでいると思った。
だって、可愛すぎるもん。
守山ちひろさんのネッサローズ。印象的だった。
1幕では、いたいけな少女。ピュアな彼女の恋は、綺麗だった。
2幕では父を継いで総督の椅子に座っているが、愛する人は自分に心を開いてくれない。名前すら、呼んでくれない。
それでも、手鏡やガラス戸に姿を映して、身だしなみに気を配る。彼の前では、総督ではなく、一人の女性でありたいから。
積年の夢だった「歩くこと」が叶い、愛する人と新たな運命を生きていけると確信したのも束の間、彼は「本当に愛する人」のもとへ行くと言う。
そんなことは許さない、と感情を露わにする彼女。
きっと、彼が本当に慕う女性がいること、勘づいていたのではないだろうか。
孤独な彼女は、その辺り、敏感だったに違いない。
不自由な生い立ちと、その家柄が、彼女を変えてしまったのだ。
黒いワンピースに身を包み、髪をひとつにまとめ、およそ飾り気のない彼女。
愛する人の変わり果てた姿に絶叫し、姉を捕えよと衛兵を呼びつける姿が、哀しく、痛ましかった。
ネッサ、いろんな場面でサンボとしても出ているはずなので、次回はそれも追いたいな。
エルファバとグリンダはぶつかり合いながらも、二人の間には確実に友愛の情が芽生え、それが互いを強くさせた。
しかし世界は残酷なもので、正義をもって「強さ」を貫こうとした者を「悪」、特別な力を持たない(言い換えれば、自分たちの言いなりにしやすい)者を「善」とした。
二人が別れを覚悟して歌う「あなたを忘れない」は、二人が過ごしてきた時間が輝く光の粒となって二人に降り注いでいるようで、美しかった。
限りなく落ち着いた曲調でありながら、互いを深く敬愛する熱い気持ちが顕れているようだった。
「オズの魔法使い」を今読み返せば、かかし・ライオン・ブリキ男に対する見方も変わりそうな気がするし、ウィキッドという作品の解像度も上がるように思える。
如何にして、悪い魔女と良い魔女が生まれたのか。
誰にとっての 良い魔女・悪い魔女だったのか?
さーてと、次回はいつ観に行こうか。
大阪公演は、あと半年。