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懐かしい黄金時代の記憶③ Free Energy

手の中にあるコップをもてあそびながら、一気に蒸し暑さが増す前のわずかな涼を楽しんでいると、黒い球体がまた飛んできて膨大な情報を投影し始める。

凄いスピードで流れていく情報の中で、あるニュースに目が留まる。そう言えば今日は大東亜戦争と呼ばれた世界大戦の終結から丁度150年目だった。淡路島をはじめとして、世界に13か所ある霊場でセレモニーと儀式が行われるそうだ。

見えない戦争、と呼ばれた2020年頃からのパンデミック詐欺事件を第三次世界大戦と呼ぶ歴史学者もいたが、物理的な世界大戦という意味では20世紀が最後となっている。

2020年代前半から起こった大量の情報開示によって、地球の人類がそれまで教わってきたことが根底から覆ることになり、しばらくの混乱期を経て宇宙文明時代に突入した。

先ほど西瓜を運んできた「カプセル」の反重力推進は、後の方で開示された技術だが、それに先立って公表されたのがフリーエネルギーだった。

フリーエネルギー技術は、エジソンと覇を競ったニコラ・テスラが19世紀には既に構想していたもので、実験用の設備も造られたのだが、当時資源の売買で儲けたいと思っていた人々によって葬り去られた。

その後も、何人もの発明家や企業がフリーエネルギーを世に出そうとしてきたがその度に闇に葬られ、約120年に渡って旧来型のエネルギー資源によって運営される社会が続いた。

火力発電V.S原子力発電&非効率な自然エネルギーのように、対立構造の中でお互いに争うように仕向けられ、その地下資源収奪のために南米や中東、アフリカなど多くの国々で紛争が絶えない時代でもあった。

今となっては笑い話だが、当時の指導者たちというのは、それが人々のためなのだと言って、不毛なエネルギー戦争を繰り返していたのだった。今では、この120年のことを振り返って「エネルギー分野の暗黒時代」と呼んでいる。

フリーエネルギーに先立って世に出てきたのが、葉緑素発電だった。クレジットカードサイズのパネルで家1軒分の電力を賄えるという超高効率の太陽光発電で、1か月分ぐらいの電力を蓄えられる電子レンジサイズの高効率蓄電池とセットで登場した。

面白いことに、この技術は世界の最貧国の田舎に住む家庭から無償配布が始まり、工場がその最貧国にあったこともあり、数年のうちに「最貧国」のイメージを一気に書き換える程の影響を国全体に及ぼした。

こうした大きな変化を目の当たりにし、先進国と呼ばれている国の人々も、他の開発途上国の人も格差の問題に目を向けるようになり、次なる最貧国での事業開始には、世界中から膨大な額の寄付が集まった。

出資ではなく寄付となったのは、世界中の企業からの出資の申し出をこの会社がすべて断っていたからだった。しかも、貧しい国から順に配布するということが公言されていたので、早く恩恵に預かりたい先進国からの寄付がその大半を占めていた。

スローガンは「貧しい国を支援して皆で豊かに!」。段々とこの意図に賛同する企業なども増えたが、最初の頃は圧倒的に個人からの寄付が多かった。こうして、自分達だけ良ければというのではなく、皆で豊かになっていこうというのが一大ムーブメントとなって世界を席巻し、結果として経済格差というものがどんどん小さくなっていった。

そして、この葉緑素発電が世界に行き渡るのに、わずか15年しかかからなかった。20年後には、整備が最後になった元先進国で送電線の撤去が完了した。

最初の頃に設置された国々の葉緑素発電は、GPSと連動したトラッキング機能が搭載されていて、1㎞以上移動させると機械そのものが壊れて溶けるという機構が組み込まれていた。これは他国からの盗難などを防止するためのものだった。

しかし、普及開始から8年ほど経った頃には世界中への供給がほぼ確実となったため、この機能は停止されることになった。それと前後して、都市に住んでいた人達の多くが田舎に移動するという現象が顕著になった。

住みたい場所で必要なエネルギーが無料で得られるというのは非常に大きく、リモートワークなどを通じて都市で働くということが既に形骸化していたこともあって、山の中や海の傍など様々な場所に人は移り住んでいった。

葉緑素発電の普及完了少し前に、満を持して登場してきたのがフリーエネルギーだった。当初は様々な仕組みのものがあったが、使い勝手がよく小型化しやすい3種類ぐらいに集約されていくことになった。

これにより、フリーエネルギーの発電機と先の蓄電池が接続され、葉緑素発電はバックアップ的な役割に落ち着くことになった。いずれにしても、エネルギーを発生させ続けるので、蓄電という仕組み自体がサブ的な位置づけになったのだが。

更には、世界中のあらゆる場所にエネルギーを届けるためのグリッドシステムとして、テスラの提唱した世界システムが登場することになる。このシステムは世界電力網(Global Energy Grid)と呼ばれ、完全に稼働するまでにフリーエネルギーの登場から10年ぐらいしかかからなかったから驚きだ。それぐらい新しい技術の普及速度は早まっていった。

これによって、後に登場することになる「カプセル」などの移動型のユニットに対しても、遠隔でエネルギーを供給できるようになった。これが、蓄電池を必要としなくなっていく時代を後押しした。

淡路島など13か所の霊場は、GEGのエネルギーグリッドの中心の一つにもなっている。宇宙と繋がる重要な場所でもあり、物理的に宇宙に出るための宇宙港の機能も備えている。

この他にも、グリッドのエネルギーを中継するための施設が世界各地にある。主に西洋や中東に見られるドーム型の天井を持った教会や寺院、城などは、フリーエネルギーを中継するための場所だったことが分かり、宗教施設として使用されていたものがエネルギー中継の場所を兼ねるようになった。

寺などの五重塔や、世界各地にあるピラミッド構造の建物も同じように機能することが分かり、あちこちに同様の施設が建設、もしくは既存のものを改修する形で整備されていった。

最初は業務用大型冷蔵庫ぐらいの大きさだったフリーエネルギー装置も、段々と小型化され一人暮らし用冷蔵庫サイズ、電子レンジサイズ、ルービックキューブサイズ、そして今では3cm程のサイコロサイズまで小さくなっている。

重要なのは、フリーエネルギーが突然登場したわけではなく、その前段階として葉緑素発電が普及したということかもしれない。このプロセスの中で、分かち合いによって皆で良くなっていこうというのが世界的なテーマとなり、実際にそれが世界中の個人の寄付を通じて行われたというのが大きい。

人々の意識の変容の結果として、フリーエネルギーが出てくる頃には、世界人類の中から不足感や欠乏感といったものがほぼなくなっていた。本当の意味で自由になれることの喜びを、世界に広げていこうという人類に広がった大きな意志のうねりが、わずか10年でのGEG完成という偉業に繋がった。

そこからさらに反重力推進や、他の宇宙テクノロジーの開発と利用が飛躍的に進み、地球連合から太陽系連合となった今では、時空間を超える領域まで人類は足を踏み出そうとしている。

葉緑素発電を世に出した会社は、その後のフリーエネルギー普及とGEG整備にも多大な貢献をし、GEGの完成と共に解散した。何という会社で、いったい誰が代表なのか、どこの会社なのか、誰が資金提供していたのかなど全て謎とされているが、淡路島を拠点とするSUMERAという会社らしいという噂が一時期流れていたそうだ。

つづく

新しい意識が、新しい時代を紡ぐ




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