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【物語に見る信じ込み】竜とそばかすの姫①

2021年7月に公開された「竜とそばかすの姫」。美女と野獣へのオマージュが多く、内容についての賛否も分かれていますが、人間の痛み、信じ込みがどうやって形成されていくのかを見るのに非常に分かりやすい作品だったのでご紹介したいと思います。今回は主人公の鈴についてです。

✹ネタバレを含むので、作品を観た後でご覧になることをおすすめします。

ーあらすじー
自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・内藤鈴(すず)は、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。
母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。
曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。<U>では、「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。
数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。
                                  ーーーー公式サイトよりーーーー

心を閉ざした鈴

人の信じ込みを形成するのに最も影響するのが、幼少期に起こった出来事によるトラウマです。鈴にとっては、自分の母親が事故で亡くなってしまったことがそれに当たります。

増水した川の中州に取り残された子どもを助けようとして、鈴の手を振りほどいて救助に向かった母。結果は母帰らぬ人となり、その後の鈴は母を失った痛みを抱えて生きています。

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欠けたカップや片足を失った犬がその喪失感を象徴していますが、落書きした紙を散らかしまくって最後はごみ箱に捨てるシーンに、鈴のやるせなさが強く表れています。

母がいないことへの悲しみや寂しさと共に、何で見ず知らずの子どもを助けて母が死ななければならなかったのかというセリフに見られるように、恨みめいたものも見え隠れしています。

学校では、臆病で積極性がなく、引っ込み思案な様子が描かれます。理解者の親友のヒロちゃん以外の人との関係性を築こうとせず、一人でいることが多いのには、母を失った喪失感、失う怖れが暗い影を落としています。

一緒に住んでいる父との関係もギクシャクしたものとなっていて、気遣う父に素っ気ない態度で返したり、逃げて自分の部屋に籠ったりと、事故前と性格がまるで違っていますね。

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こうやって形成された信じ込みというのは、自分の性格や行動に大きな影響を及ぼし、○○な人、○○な行動パターンとして、その人本来ではないにも関わらずその人と同化してしまうことになります。

もうひとりの自分という虚構

素朴なタッチの田舎町という現実世界とは違って、「もうひとりの自分」になれる仮想空間の「U」はカラフルで煌びやかに描かれています。本当は大人しい女子高生に過ぎない鈴が、歌手として全世界の注目を浴びる存在になっていく様は、Youtuberに代表される今の世界の様子をよく表しています。

この仮想空間におけるアバターであるAsは、ある種の仮面です。正体が分からないアノニマスな世界では、一体オリジン(本人)は誰なのかという噂が日々飛び交っています。問題を起こした竜や、鈴のAsであるBell (Belle)が誰なのかというのは大きな話題として取り上げられます。

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鈴は意図して人気者になろうと思ったわけではないですが、「もうひとりの自分」というのは、実際とヴァーチャルとのギャップを表しています。その裏に潜むのは虚栄心と嫉妬、そして比較の意識です。

現実世界では、スタイルが良く美人で人気者のルカちゃんに羨望の眼差しを向ける鈴ですが、仮想空間では物凄い人気を誇る歌姫。しのぶくんに手を掴まれたのを見られて嫉妬され大炎上している現実に対して、Uではペギースーが突然人気者になったBellに嫉妬しています。

虚栄心の領域は、今までは綺麗な服を着てメイクをしたり整形したりとかでしたが、ネット上に広がったそれはフォトショップ(加工した写真)や美肌機能・美人補正のカメラ、インスタ映えとして、ヴァーチャルに魅せる≒「見せかける」ことに重きが置かれるようになっています。

それを加速させるのが比較の意識です。あの人よりも○○になりたいという欲望がその行動に駆り立てるのですが、そこには平安さはありません。常に他の人と競争し、人気を維持しなければならない状態に置かれます。

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その裏にあるのは、多くの場合幼少期に親から見てもらえなかった、構ってもらえなかった、認めてもらえなかったという痛みです。頑張れば認めてもらえるはず、美人になれば見てもらえるはず、人気が出れば構ってもらえるはず、という痛みで行動している人が非常に多い世の中になっていますね。

そばかすの意味

タイトルにも入っているそばかすですが、これが意味するものはなんでしょうか。一つには、上で述べたような信じ込みが実体化したものと見ることができます。

怪我や病気というのは、生活習慣や何らかの活動の結果起こると通常考えられていますが、実際にはその人が抱えた痛みがそれを引き起こす大元の原因になっています。

鈴にとっては、母を失ったトラウマは明るく元気だった性格を変えてしまう程のものだったので、何かが欠けたまま自分の本来性で生きていない状態というのは潜在的に非常に大きなストレスになっています。その痛みが身体的に発現したものがそばかすというわけです。

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大怪我や大病した人の性格が変わるというのは、今まで全く違った方向に突っ走ってきたのを強制的にストップさせられたことで、自分の内面を観る機会を得たからです。体の不調や良くない出来事というのは、自分の身体が発してくれているサインだったりします。

鈴の本来性としての歌

鈴が失ったもう一つのものが歌ですね。お母さんと一緒に楽しんでいた歌がその喪失感を思い出させるからなのか、通学の途中で頑張って口ずさもうとして吐いてしまう場面が出てきます。

カラオケで爆発し、合唱隊でも隠れて囁くようにしか出来なくなってしまっていた歌を歌うという本来性を、Bellという仮面を被ったUの中では発揮することができた。現実世界では歌えないという抑圧があったからこそ、多くの人が感動し支持する歌を歌えたわけです。

Uの中で厄介者として登場した竜と出会い、次第に心を寄せるようになっていく鈴は、竜も自分と同じように痛みを抱えた存在であることに気付いていきます(竜の痛みについては別の機会に)。

現実で竜と思われる人が配信している動画を見て直接連絡をした鈴ですが、自分がBellであることを信じてもらえません。動画では竜は父親に弟と共に暴力を受けていました。彼に信じてもらうには、自分のオリジンをUで明かす必要があると感じた鈴は、ジャスティンの持つアイテムを使って自分をアンヴェイル(ベールを取る、つまり身バレ)します。

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こうして、Asではなく鈴の姿でU上に立ち現れたことにはどんな意味があるのでしょうか。これは、そばかすがあって見た目に自信がなく、勇気がなく、おどおどして隠れまわっていた傷ついた自分と向き合い、Bellという仮面を捨てて本来の自分で生きていく覚悟を決めたということを表しています。

そして、鈴の姿でU上で歌を歌い始めます。そこにあるのは、50億のユーザーの中にいるはずの竜本人に寄り添って、その痛みを何とかしてあげたいという慈しみの波長です。その本来性のエネルギーに触れた人達には鈴の光が伝播し、Uの中に光が溢れていきます。

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これは、人の意識というのは伝播していくことを表しています。鈴の持つ切なる願いをのせた歌に心を打たれた人達にその慈しみが広がっていくことで、U全体に対立がなく慈しみが満ちている状態です。これはジョンレノンのイマジンを彷彿とさせるところがありますね。

信じ込みの消化と本来性への回帰

Bellという仮面ではなく鈴として衆目にさらされることによって、自分と向き合うことが出来たことで、鈴の行動は明らかに変わります。東京にいることが分かった竜のオリジンの元へ単身乗り込んでいき、息子たちに暴力を振るおうとした父親と真っ向から対峙します。

自分の弱さと怖れから、子どもに暴力を振るってきたこの父親にとって、怒りや対立心ではなく慈しみの心から間に立ちはだかった鈴は本当に恐ろしい存在だったのでしょう。怯えて逃げていきます。

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この行動は、自分の身を顧みず溺れそうになっている子どもを助けた鈴の母の姿に重なります。母から受け継いだその優しさを取り戻した鈴は、地元に戻った時に迎えに来た父親の言葉にしっかりと答えられるようになっていました。

そして、現実でも歌を歌えるようになり、ずっと母親の代わりに自分のことを気にかけてくれていたしのぶ君との関係も変化します。自分の信じ込みを消化(昇華)することは、目の前で起こる現実を実際に変えていきます。

まとめ

全体のまとめです。
・鈴は母の死が大きなトラウマ(痛み)となり、性格まで変容した。
・虚構の世界Uには、虚栄心、嫉妬、比較の意識が溢れている。
・鈴はUで自分をアンヴェイルすることで、本来性の慈しみを取り戻した。
恐怖は慈しみの前では存在することが出来ない。
・信じ込み、痛みが消化されると、現実の出来事も変化する。

この物語で起こっている信じ込みや痛みに基づく出来事はただのフィクションではなく、現実の世界で日常生活の中で自分が実際に引き起こしているものだったりします。もしその痛みを手放して幸せに生きていきたいと思われたらそのお手伝いをさせていただきます。

お問い合わせは下記まで
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もう一人のメインキャラクターである竜と、他のキャラクターの信じ込みについてはこちらをご覧ください。

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最後まで読んでいただいてありがとうございます!







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