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東京と八戸圏域の架け橋に。人と人がつながり縁を生むアンテナショップ「8base」
突然ですが、あなたは青森県といえば何を思い浮かべますか? 誰もが知る県の顔ともいえるりんごやねぶた祭、大間のまぐろなどではないでしょうか。これらの有名な特産品や文化は、主に県の西部や北東部に集中しています。しかし実は、知る人ぞ知る青森の名スポットがあります。それは南東部のエリア「八戸圏域」です。八戸市を中心に8市町村で構成されており、海の幸と山の恵みを受け、多様な食文化や伝統が発展しています。
そんな地域の魅力を東京で体験できるのがアンテナショップ「八戸都市圏交流プラザ 8base(エイトベース、以下8base)」。料理や地酒、特産品を通じて、新しい青森の魅力を発信しています。今回は8baseの魅力に迫るべく、お店を訪ねてみました。
豊かな食文化が魅力!「八戸圏域」とは?
八戸圏域が位置するのは、青森県南東部。八戸市を中心とした8市町村で構成されるこの地域は、江戸時代南部氏が治めていたことから「南部地方」とも呼ばれています。
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八戸圏域は豊かな食文化がある地域です。北三陸の海の恵みをはじめ、果物や野菜、肉や乳製品などバラエティに富んだ名産の数々。その一方で、米の成長を阻害するやませ(夏に吹く北東風)による飢饉を乗り越えるために、南部せんべいに代表される、小麦粉やそば粉を使った粉食文化が広まりました。さらに、毎年夏には27台もの豪華絢爛な山車が街を練り歩く、八戸三社大祭が催されます。
このような多彩な食と文化が根付く八戸圏域の魅力を東京で感じられるショップが8baseなのです。
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八戸圏域と首都圏をつなぐ 懐深い交流拠点「8base」
JR新橋駅とJR有楽町駅からいずれも徒歩6分。商業施設「日比谷OKUROJI」内に、八戸圏域の料理や地酒、特産品に特化したアンテナショップ「8base」があります。
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大人向けのこだわりの店が集まり、東京の中心部に近いことから、サラリーマンから観光客まで訪問客はさまざま。全体的に洗練された雰囲気のお店が多い日比谷OKUROJIの中、黒を基調とした外観の奥に、どこか素朴さを感じる佇まいです。
8baseは、八戸圏域と首都圏をつなぐ交流拠点ですが、ただの名産品販売店ではありません。観光情報を得られたり、移住相談もできたりする案内所としても機能しています。さらに、スタッフとお客さん、お客さん同士などの交流も生まれる懐の深いスポットです。
来店者の顔ぶれを見ると、約3割が八戸圏域に由縁がある方々。働くスタッフの多くは八戸圏域出身者で、強い郷土愛で日々お客さんを迎えています。
女将の髙橋さん推薦!8baseで絶対買うべき商品
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「いらっしゃいませ」と優しい笑顔で迎え入れてくれたのは、8baseで女将を務める髙橋泰恵さんです。このお店では、“八戸圏域の旨いもんを提供する飲食店”になぞらえ、店長ではなく「女将」という呼び方を採用しています。八戸市出身の髙橋さんは、8baseがオープンした2020年から女将としてお客様に接しています。
「8baseの売れ筋といえば、やっぱり南部せんべいです」と髙橋さん。特に売上1位の「チョコQ助」は発売以来の人気商品だといいます。
「『チョコQ助』は、せんべい屋さんが『割れたせんべいにチョコレートをかけてみよう』と思いついて生まれた商品なんです。それまで南部せんべいはゴマや豆などのアレンジしか無かったので、チョコレートをかけるという発想に驚きました。初めて試食したとき、今までにない新しい美味しさが衝撃でこれはヒット商品になると確信しました」
髙橋さんのその予感は的中し、現在では火曜・土曜の入荷当日に完売してしまうほどの人気商品となっています。また、チョコQ助以外では、薄く焼いた南部せんべいに焼きチーズや揚げチーズを合わせた商品も好評なのだそうです。
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「8baseでおすすめしたい商品はまだまだあります!」と髙橋さん。イチオシ品を教えてくれました。
「特に海の幸は自信を持っておすすめできます。しめさばやほやの塩辛、のしいかとチーズを組み合わせた『なかよし』も昔から根強い人気ですね」
そのほか、地元産のブルーベリーとクリームチーズをたっぷり詰めた大福『紫福の時』、雑貨では南部弁の方言缶バッジなどが好評だそうです。また、8baseオリジナルの「いかの肝塩」は熟練の技を持った1人しか作れない商品。イカの肝が醸し出す深い旨みとコクを感じる至高の一品は自信作とのことでした。
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8baseは食堂も備えており、ランチやスイーツ、ディナーを楽しむこともできます。特に土日祝日は通し営業でアルコールの提供もしていることもあり、一日中お客さんでにぎわっています。
「日本酒の人気商品は八戸酒造の 『陸奥八仙』です。そのほか、八鶴や桃川も好評をいただいております。イカの刺身やしめさばは、全テーブルで注文をいただいた記録があるほど人気なんですよ。魚介が苦手な方にも楽しんでいただけるように、田子牛や青森シャモロックの鶏肉など、八戸圏域ならではの肉料理も充実しています」
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女将として八戸圏域の素晴らしさを伝える決意をするまで
8baseは今年でオープン5年目を迎えます。開店当初から女将を務めてきた髙橋さんは、なぜ東京で「八戸の食の魅力」を伝える道を選んだのでしょうか。いまに至るまでの経緯を伺いました。
「私は生まれも育ちも八戸です。実家が割烹で、幼いころから地元ならではの旬食材を見て育ち、八戸の食が豊かだという感覚は持っていました。そして、この地を誇りに感じていました。
ところが、大学進学を機に上京してみると、私の南部弁の訛りが都会では浮いていたんです。会話のたびに田舎者だと気づかされました」
柔らかく、イントネーションが特徴の南部弁。例えば「おはよう」の発音で関東出身ではないことがすぐに分かり、関東圏では目立ってしまいます。しだいに髙橋さんはそんな南部弁を話すことにためらいが生じ、八戸出身であることを知られるのが恥ずかしいと思うようになりました。
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その後、大学を卒業した髙橋さんは、八戸に戻り家業である割烹のサポートを始めました。両親が営む割烹は地元客はもちろん、観光や出張などで全国からお客さんが来店します。そこでは、地元近海で揚がる魚の料理や、いちご煮などの郷土料理に舌鼓を打つ姿がありました。「最高に美味しかったよ!」と笑顔になりお店を後にするお客さんたち――その背中を見送る中で、「八戸の味は特別に美味しいんだ!やっぱりこのまちの魅力は私の誇りだ」と再認識したそうです。その数年後、実家の割烹グループが、東京の8baseの経営委託を受けるという縁があり、髙橋さんは女将を引き受けることになりました。
現在、髙橋さんは、八戸圏域を「最高の地と胸を張って言える」そうです。豊かな食文化はもちろん、当時は恥ずかしかった南部弁も、素朴で飾らない雰囲気だからこそ素敵だと思うようになりました。髙橋さんにとって八戸圏域の素晴らしさを多くの人々に伝えていくことは、単なる仕事を超え、使命となっています。
郷土愛あふれるスタッフとの何気ない会話に心温まる
8baseには、八戸圏域出身の郷土愛あふれるスタッフが集まっています。その想いは店内のいたる所で感じることができ、手書きのPOPや、お客さんとの会話など、「八戸圏域への愛」が表れています。また、おすすめ商品については、8baseとしての答えはありません。お客さんからの「おすすめはどれ?」という質問には、スタッフそれぞれが違う商品を紹介することも。この多様な提案こそが8baseの魅力です。
また、8baseには、八戸圏域との縁を持つ人々も多く訪れます。髙橋さんは、遠く離れた東京でも八戸圏域との絆を大切にしている人々との出会いに心が躍るそうです。
「『八戸は祖父の故郷なんです』『子どもの頃家族で遊びに行きました』と話しかけてくださるお客様も多く、思い出の場所や食べ物の話に花が咲くこともあります」
髙橋さんが大切にしているのは、お客さんとの何気ない会話です。そのため、「会話が生まれやすい雰囲気づくり」を意識しています。洗練された空間の日比谷OKUROJIの中にお店がありますが、8baseはあえて素朴な、心がふっと和む空間を目指しています。天井から吊るされた「いかねぶた」は通りがかる人の目を惹きつけ、入荷したままのダンボールに直書きされたPOPから、ラフでカジュアルな親しみやすさが伝わってきます。店の雰囲気に惹かれて、8baseがどんなお店なのか分からないまま入店するお客さんもいるそうです。
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イベントや日常的に楽しめる仕掛けがいっぱい
数多くのイベントを楽しめるのも8baseの魅力です。ファンミーティングや食事会など、人と人とが交流できる催しをを定期的に開催しています。
特に人気なのが、日本酒と料理のペアリングイベント。昨年秋に開催した「陸奥八仙と八戸ご馳走夜会」は、チケットが即日完売になるほどの人気。八戸酒造の日本酒「陸奥八仙」と八戸圏域の美味しい食材のペアリングを楽しみました。また、毎年恒例となっている「八戸圏域マルシェ」は圏域内8市町村が一堂に会する一大イベント。各市町村の紹介ブースや、普段の品ぞろえを超える多彩な特産品が来場者を魅了し、前回の開催では通常の2倍を超えるにぎわいを見せました。
「イベントをきっかけに八戸圏域に興味を持っていただいて、実際に観光に行かれたお客様もいらっしゃるんですよ」と髙橋さん。8baseで開催されるイベントは八戸圏域への玄関口になっています。
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イベントだけでなく、日常的に楽しめる仕掛けもあります。その一つが「高校ファイル」というユニークな取り組みです。店内の一角には、八戸圏域の公立・私立高校などのファイル21冊、高専と大学のファイル3冊、計24冊が並んでいます。卒業生であれば誰でも、現在の状況や在学中の思い出などを自由に綴ることが可能。すべてのファイルは自由に閲覧できるので、母校のファイルを開いて懐かしさに浸ったり、在学経験がない学校の様子を知ったりすることができます。
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このファイルがつないだ縁は、思いがけない出会いも生んでいます。妹が来店していたことを知って驚くお兄さん、恩師の近況を知り楽しそうにしている教え子さんなど――そんな光景を目にするたびに、髙橋さんは「この取り組みを始めて良かった」としみじみ感じるそうです。さらには、全国区のニュースで自身の高校ファイルへの書き込みが紹介されていることを友人から聞き、それをきっかけに8baseでアルバイトを始めた学生さんもいるのだとか。8baseは八戸圏域と人々をつなげる不思議な縁を育んでいます。
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人と人との縁をつなぎながら、八戸圏域のファンを増やしたい
2025年で5年目を迎える8base。今後チャレンジしたいことを、髙橋さんに伺いました。
「八戸圏域が誇るイベントをライブ中継したいと思っています。八戸三社大祭の山車の鮮やかな色彩や威勢のよいお囃子、南郷サマージャズフェスティバルの開放感あふれる雰囲気を、そのまま東京の8baseでも感じてほしいんです。これからもこの地域の魅力をもっと感じられる仕掛けを考えていきたいです 」
そんな新たな挑戦への意欲を語りながら、髙橋さんは8baseの存在意義についてこう続けます。
「8baseの魅力はあくまでも八戸圏域の一部、ほんの少しです。私たちは、店の繁盛だけを目指しているわけではありません。より多くの方に八戸圏域に興味を持っていただき、実際に足を運ぶ人を増やしたいと思っています」
柔らかな南部弁で語る髙橋さんの瞳は、故郷への強い意志と未来へのわくわくした気持ちを宿していて、その表情が印象的でした。
八戸圏域の東京の玄関口、8base。人と地域、そして人と人との縁をつなぎながら、この地の魅力を多くの人に伝えていくために、髙橋さんの挑戦はこれからも続きます。
八戸都市圏交流プラザ 8 base(エイトベース)
住所 :〒100-0011 東京都千代田区内幸町1丁目7-1
電話番号 :03-6807-5611
営業時間 :11:00 - 22:00
公式HP :https://8base.jp/
Instagram:8base_okuroji/