経営者ならお金の有事にこう備えるべし!
「大変です!(同業者の情報で)今月末の大口取引先からの入金がなくなる可能性がでてきました。今月だけでなく、来月以降の入金予定分もどうなるかわかりません。資金繰りについては、この大口先を当てにしていましたので、入金がないと手形の決済ができません・・・どうしたらいいかわかりません。何か良い方法はないでしょうか?」──運送下請業を経営されている方からのご相談です。
長引く感染症拡大や景気低迷だけでなく、原油高騰、人件費高騰、円安などの影響もあり、運送業界では中小企業だけでなく、大企業・中堅企業も厳しい経営状況が続いています。
また、この業界では、下請構造が発達しており、多層構造で7次下請まである状況です。
元請けでさえも採算悪化している状況下、下請業者の利益はほとんどありません。何とか食い繋いでいるという自転車操業の状況が続いており、大口取引先の入金がストップしてしまったら・・・
この経営者の方の場合も、10年くらい前は手元資金が潤沢にあったが、年々採算が悪化してきたことから、手元資金を取り崩さざるを得ず、昨年くらいから自転車操業に陥ってしまっているとのこと。
このような状況下での、元請けである大口取引先からの入金待ちとなると、居ても立っても居られないのはよく理解できます。ただし、手形決済日は待ってくれません。決済できなければ1回目の不渡となり、2回目の不渡となれば銀行取引停止処分で「倒産」は避けられません。
結論から申し上げると、「予め資金化できるもののリストを整備しておき、有事の際には全て資金化すること」に尽きます。
今月末の入金がなされないという状況を想定すると、とにかく「資金化できるものは全て資金化すること」でしか対応できないのです。
(信用保証協会の保証付き)売掛資産担保融資制度利用、棚卸資産の現金化、車両や機械のリースバック、土地・建物の売却・流動化、ゴルフクラブ・レジャークラブの会員権の売却、取引保証金の返却、保険の解約返戻金見合いの融資、倒産防止共済の解約などで内部留保を資金化しましょう。
単純な売却・解約を先行させ、融資制度やリースバック、取引保証金の返却などの時間がかかるものも同時並行して手続きを開始してください。そうすることで、五月雨式に資金化していくことができます。
会社の内部留保を資金化しても不足する場合には、経営者であるあなたの「私財の投入」も検討・実践しなければなりません。中小企業オーナーである以上、最後の手段として私財を投入して危機を突破しなければなりません。
経営者であるあなたの報酬カット、個人年金保険や生命保険の解約返戻金見合いの融資、株式や会員権などの売却・・・
大変厳しい状況ですが、オーナー経営者である以上、会社を潰すわけにはいきません。あなたを信じてついてきてくれている従業員やその家族を路頭に迷わせる訳にはいかないのです。
今回のご相談事例ではなく、手形などの資金決済までに2ケ月程度の余裕があるのであれば、対応も違ってきます。取引銀行による「緊急融資」、信用保証協会の「セーフティネット保証2号・5号」などでの融資も検討が可能となるのです。
また、(今回の場合では当てはまりませんが)大口取引先が民事再生手続開始の申立等を行った場合であれば、中小企業事業団の「中小企業倒産防止共済」、信用保証協会の「セーフティネット保証1号」などを活用したいところです。
これらの融資実行が間に合わない・難しい場合には、取引銀行の返済リスケジュールでの対応も効果的です。毎月の返済額を一定期間猶予してもらうことで、足元の資金流出を抑えることができます。
銀行での自社の信用がなくなると考える経営者の方が多いですが、背に腹はかえられませんし、状況が状況ですので取引銀行に説明しておいた方が今後の対応に困らなくなりますので、早めに説明される方が賢明です。
私の過去の経験からも、状況が発覚してすぐにご相談いただいていた場合には、銀行としてもさまざまな対応が検討できるのですが、ある程度の時間が経過した後に切羽詰まってご相談されてもどうにも出来ない場合が多かったので、どうするかも含めて銀行にご相談されることをお勧めします。
これまで永年経営されてきたのであれば、内部留保が相当積み上がっているはずですので、リスト化すると結構な金額になるはずです。これらを資金化すれば当座の資金繰りは対応可能な場合が多いと思います。
予め資金化できるもののリストを整備して、その金額を把握しておき、有事の際には全て資金化することができるようになると、通常時の資金繰りにおいて手元資金残高を極限までに少なくすることで経営効率を高めることはできるのですが、個人的にはお勧めしません。
上場企業などは株主に経営についての説明責任がありますし、手元資金を潤沢にしておくとM&Aの標的にされてしまいますが、我々中小企業オーナーにはそのような心配はありません。混沌とした外部環境などに備えるためにも、手元資金を潤沢にするのが経営安定性を確保する上で重要なことになるのです。
極論すると、「どのようにしてお金を会社に残すか」ということに尽きます。
手元資金として、できれば1年間入金がなくても持ち堪えられるだけのお金を持っておきたいものです。そうすることで、お金の有事に準備できるだけでなく、M&A買いなどで時間を買うことによる成長戦略も描けますし、財務基盤がしっかりすることで前向きな施策も検討・実践することが可能になるのです。
このことは、従業員やその家族にどれだけの安心感をもたらすことか計り知れませんし、採算の悪い案件を仕方なく受けることもありません。取引先を逆選別して、稼がせてもらえない取引先との取引を解消することも可能になってくるのです。
従業員が安心してイキイキと働き、稼がせてくれる取引先としか取引をしなくていい。
景気が悪くなっても、1年間は売上がなくても会社を継続できる手元資金があるとしたら、あんたは経営者としてどう思われるでしょうか?
さらに、キャッシュフロー経営を実践していただければ鬼に金棒の状況になれます。
「出ていくお金を減らし、入ってくるお金を増やす」ことに集中してください。無駄な支出・経費があれば削減することで出ていくお金を減らし、既存取引先で売上を増加・新規取引先で売上を獲得することで入ってくるお金を増やすことに注力しましょう。
会社は永続しなければなりません。
そのために、経営者としてお金の有事に備えるとともに、キャッシュフロー経営を実践して手元資金を潤沢にしましょう。そうすることで強い会社に生まれ変わることができます。
あなたは経営者として、大口受注先の入金が止まった際、どのように対処されますか?
お金の有事に備える経営で、あなたの会社の財務基盤を盤石なものにしていきましょう!
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