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こども新聞に込める想い
10月よりビハール州にて配布を開始した、子ども新聞プロジェクト。今回は本プロジェクトの目的や、背景、実際の子ども達の反応について紹介いたします。
リテラシーの向上と外部情報へのアクセス増加
インターネットに様々な情報があふれる現代では、スマートフォンを持ち、インターネットにアクセスでき、文字を読むことができる場合、瞬時に情報にアクセスすることができます。しかし、結び手が活動を行う、インドの貧困地域に暮らす人々はリテラシーの低さやアクセスの制限などの理由から、教材や情報へのアクセスが制約されています。特に子供たちは外部の世界についての知識を十分に持っていないのが現状です。
例えば、日本の首都といえば東京ということは、有名なことのようで知らない子ども達も多いのです。「日本のどこから来たの?」との質問に対して、東京なら知っているであろうと思い「near Tokyo」と答えると、「知らない」と言ったり、分からないため愛想笑いが返ってきたりします。いや、「日本」をはっきりと知らないことも多々あります。
また、ある学校の英語の授業では、将来の夢を尋ねられた際、ほとんどの子供たちが教師や医師など、同じ回答をしていました。彼らの回答に関して一概に言えることではありませんが、情報へのアクセスが制約されていることから、将来の選択肢が制限されてしまう可能性もあるかもしれません。
このような背景から、子ども新聞はこうした子供たちに教育的なコンテンツを提供し読解力やリテラシーの向上に寄与するだけでなく、世界の出来事や知識等、多様な情報に触れる機会を提供することを目指しています。そして、文字を読むのが難しい子供たちでも理解できるように、豊富な写真やイラストを取り入れ、簡潔な文章を使用しています。子供たちだけでなく、その家族もリテラシー向上と外部の情報に触れる機会を増加させるために、配布の際に「友達や家族ともシェアしてね」と、情報の共有を奨励しています。
高齢者の知恵から生まれた子ども新聞プロジェクト
この子ども新聞プロジェクトは、実は日本の高齢者の方との対話から生まれました。日本がまだ貧しかった時代、そして経済的に成長してきた時代を知っているのが今の高齢世代の方々です。インドの課題解決にも、こうした方々の経験と知恵を活用できるのではないか、ということで結び手が探究授業を行っている高校の学生が高齢者入居施設にて聞き取りを行いました。
そこで浮かび上がったのが子ども向け新聞のアイデアでした。日本の高齢者は幼少時代、新聞からすべての情報を得ていたそうです。そこで、インドで情報にアクセスできていない人々にとっても、新聞の配布は有効なのではないかという発想に至りました。こうして着想を得た本プロジェクトは7月に始動し、コンテンツ制作、翻訳、印刷、各活動地からのフィードバック収集を経て、10月にビハール州にて配布を開始しました。
世界の出来事からアートまで
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第一号に掲載した、実際の新聞のページを以下に紹介します。まずは試験的に内容的に平易で、文字量もかなり少なめに発刊しています。
1ページ目: インドの月探査機の月面着陸
このページは、インドの月探査機である「Chandrayaan-3」の月面着陸に関する記事となっていて、子供たちが世界で何が起きているのかを知ることで、外の世界への興味を持つきっかけを提供することを目指しています。
2ページ目: "アートとは何か?"
このページでは、アートについての考えや感情を探求します。子供たちに自分の感情やアートについての考えを共有する機会を与えることで、豊かな内面をはぐくむ場を提供します。
3ページ目: アートとクリエイティブ
学校では触れられることの少ない、アートに関わるコンテンツです。子供たちは手を動かしながら楽しむことができて、自分のアート作品を作成することができます。こちらは、現場の先生方からも好評をいただいたコンテンツです。
4ページ目: モラルストーリー
最終ページでは、「千里の道も一歩より」という有名な格言を紹介するストーリーから教訓を学び、人間性や良い行動について考えるきっかけを提供します。
子ども新聞を受け取った子供たちの反応
結び手が教育活動を行っているビハール州の8つの村にて、ヒンディー語版と英語版の2つのバージョンを配布しました。実際に配布して驚いたのは、4ページ目の文字量の多いモラルストーリーを積極的に子供たちが読んでいたことでした。最初は文字量が多いため、他のページに比べて、4ページ目にはあまり興味を示さないかもしれないと心配していました。
しかし、どの村でも子ども達が熱心に読んでいて、近くに行くと音読してくれる子どももいました。すべての子供がスラスラと読めているというわけではありませんでしたが、その学習意欲の高さに驚かされました。
教育×サステナビリティ×雇用の創出
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配布した子ども新聞は2週間を目途に回収し、その新聞を再利用してペーパーバッグを製作し、販売する予定です。あるNPOでは、お母さんたちが職業訓練としてプロックプリント技術を駆使してペーパーバッグを製作しています。しかし、これらの製品は単なる訓練用として作成され、活用されずに無駄になっていました。そこで、子ども新聞から作られたペーパーバッグを販売することで、新たな雇用機会が創出されると同時に、環境への配慮も実現していきます。
今後の展望
毎月1号の発行を継続し、また、結び手が活動を行っている他の州でも新聞の配布を開始し、より多くの子供たちが知識と情報に触れられる機会を提供しく予定です。
日本の先人たちから得た貴重なアイデアを形にし、少しでも子どもたちが広く情報に触れることや知識を得ることでほんの少しでも人生が豊かになればと願います。
Written by Arisa