『書きたい人のためのミステリ入門』
新井久幸さんの『書きたい人のためのミステリ入門』を読み始める。
新潮新書の本は初めてなのだけれど、文字がいささか大きめなのか、それとも例の新潮フォント(?)のせいなのかわからないが、とても読みやすい。難しい言葉を小難しく並べられると線がのたうち回るようにしか見えないけれど、フォントの美しい本は素晴らしい。
実は学生の頃、まだ読書に貪欲で積読ではなく乱読していた時代、本屋で色々な文庫を見比べてみていちばん読みやすかったのが新潮文庫だった。もちろん中身は皆さんもご存知のように正統派の小説でちっとも簡単ではないけれど、紙質、フォントの大きさや太さがいちばんわたしによく合ったものが新潮文庫だった。
(関係ないが、最近みんな『積読』をしている。わたしもしている。でもいま思い出せば学生時代は乱読していて、積読なんかなかったように思う。自分だけの時間が余りあるうちにやはり読書貯金をしておくべきだと思う。逃してしまった時間は戻らない。)
で、話は戻って『ミステリ入門』。
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実はこの新井さんという方はわたしが通っていた講座の別の講義を担当していた方で、その講義の説明をたまたま聞く機会がありずっと頭から離れなかった方なのだ。
というのも、おかしいと思われた方もいたかもしれないがわたしはミステリは書かない。でも実はけっこう読む。海外物にまで手を広げていないが、生まれて初めてのミステリは『シャーロック・ホームズ』シリーズだと思う。小学校六年生の頃。
それで、わたしの先生が新井さんの紹介をしてくださったんだけども興味を引いたのは「ミステリ界で知らない人はいない」という点と「京大ミステリ研出身」だということ。
聞いてみたことは無いけど、日本のミステリを読む人の多くは「京大ミステリ研」に憧れるのではないかと。わたしの読む中では綾辻行人さん、小野不由美さんが出身者だ。もしいま受験生なら京大を目指したい。それくらいキラキラした場所。ほかにも有名作家さんが何人もいるはず。
(作家の辻村深月さんは綾辻行人さんの大ファンで、京大に入れないなら同じミステリ研があるからという理由で千葉大に進学したという話があるくらい)
そんなところを出て、ミステリ担当の編集をずっと続けてきた新井さん。いいなぁ、お金と夫の許しがあれば講座を受けたいな、なんて思っていたのはコロナが流行る前のこと。わたしが最初の講座で打ちのめされて、次の講座で選択ミスを悔やんでるうちにコロナで教室まで通えなくなってしまった。それはいまも続いている。
しかしある日Twitterでこの本の紹介を見つけて、俄然読みたくなってしまった。といっても、ミステリは書かないけど。講座の方は「読む人」も歓迎だったので。それでミステリを書く人はこの本を知った方がいいんじゃなかろうか、と思ってRTしたらご本人からリプいただき感激。もうほんと、コロナなかったら絶対通ってる。
というわけでミステリを読む人におすすめ、書く人は読んだ方がいい。
というのもWebで書いていると編集者を知っているというのはまるでズルをしているかのような目で見られるのだけども、そういう人こそこういう有名編集者さんの本をまず手に取るべきだろう。顔を合わせられるわけではないけど、話は聞ける。なんなら感想を送ることもできる。チャンスは自分で掴むものだし、チャンスの芽を拾うことも大切だと思う。
そしてちょっと、ほんのちょっとの触りだけ読んでみようと隙間時間に開いたら、書く人はとりあえず13章(新人賞等についての章)を読んでもいいとありがたいお言葉があったので、気兼ねせず、そこを広げた。すると最近思っていたことがずばり。
書いているとだんだん自信がなくなって、作品をなにかの傾向等に寄せようとする。自分の作品は間違ってると思うようになる。だんだん、自分らしさがなくなる。
うん、その通り。
わたしは普段は物書きの教科書的なものは村上春樹さんの本以外読まない(つまり村上さんのも読み物として読んでいる)のだけども、講座でも、YouTubeでもmonokakiでも、こういう、
賞取りのために文章が萎縮してしまう
ことについて触れられていたことは無いと思う。大体、書き始めたばかりの人向けなのか、「傾向と対策」みたいなものが多くて、そんなマニュアルは重複しているものだ。
それに比べると、本書は書く人に向けての飾らない真実を突きつけてくれたように思う。本当にそう。もう何が正しいのか? ウケるのか? 読んでもらえるのか? ガチガチのマニュアルに蹲って正座で答案用紙に答えを書くように小説を書いていたことに気づいた。
プロットが立派に書けなくちゃいいものは書けない。構成が良くないとストーリーが映えない。他の人とは違う物語を生み出さなくてはならない。テーマを中心に軸として据えろ。
確かにそうなんだけど、じゃあ「書きたい!」って衝動はどれくらいの順位に入れてあげたらいいんだろう? 「語りたい」って気持ちを隅に押しやってしまってはないだろうか? ぺちゃくちゃと喋り始めるキャラクターたちを少し黙らせて、まずはルールに則るべきなの?
なんだかわたしは段々、賞取りに夢中になって、自分の思うところを曲げてマニュアルに沿った小説を作ることに時間をうんと割いていたようだ。通りで長いスランプ。賞取りに向くか向かないかの前に面白くなければ意味が無いし、作者の自分が書いていてこの上なく楽しいと思えなかったら······。
たった800円でこんなことを教えてくださった新井さんに感謝です。これは読んでいただかないとわからないと思うのだけど、お言葉が暖かい。蹴落とすためにこの人は下読みをしていないんだなと思う。まだ講座は受けていないけど「先生」と呼ばせてもらいたいです。
実は新井さんはわたしのすきな本のうちの一冊、米澤穂信さんの『ボトルネック』に関わったのだそうです。いろんな小説を読んだけれど、あの小説の空気感は、澱みは独特。どうしてあんな話になっちゃったんだろうといつも思う。それを支えた編集さんの話を聞ける日が来たらいいなぁと思うのです。
子供の、延期してきた修学旅行の中止が決定した。これでわたしも先々、1年ないし2年? 都内にふらふらと出かけられないんじゃないかと思う。子供の修学旅行に賛成し続けてきたので、なくなってかわいそうだなと本当に思ったのだけど、同時にわたしの旅立ちもなくなったわけだ。
大きな河を越えて都内に入るとそこにはまるでゾンビでもいるんじゃないかという警戒。マスクをして、除菌をして、忘年会はやめ、クリスマスは自宅で、小さなことをして社会にコロナが馴染むといいなというのはわたしの勝手な意見です。
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