無意識の優越感
娘が国語の授業で、海外の猫缶(猫の餌の缶詰)を作ってる女性についてのエッセイを読んだと熱く語ってくれた。
筆者の猫様はずいぶんかわいがられているらしく、1缶250円以上などの高い餌を当たり前に毎日食べているという。
しかし猫缶工場では手で魚の骨を取り分けるなどの工程を立ったまま何時間も行って、賃金は暮らしていくのがやっとらしい。猫は美味しい餌を食べるが、それを作った人間は『食べられるもの』を食べるのだ。
このエッセイでは最後に工場の女性に「自分が猫の餌を作っていることについてどう思うのか?」というような質問をして、相手を怒らせてしまったということだ。
つまりその質問には日本人ならではの驕りがあり、それを筆者は『無意識の優越感』と呼んだ。まぁ要するに上から目線、ていうことですよね。
誰だって猫の餌を毎日作ったりしたくない。魚臭い工場で。でも食べるためには仕方ない。聞くまでもないことだ。
わたしにも同じような覚えがある。
10年ほど前、友人に誘われて内職を始めた。当時、流行していた『ツケマ』をパッケージングする仕事だ。
まず1メートル四方程度のダンボール箱1ないし2箱が運ばれてくる。(この内職の良いところは自分では運んだりする必要が無いところだった)
その中からまず台紙と透明なプラスチックケース(これがまつ毛の入る入れ物になる)、各種シールを出す。
1回に1,000セット送られてくるので、とりあえず隙を見て台紙を折ってしまう。
ちなみに、午前中に前回の引取りと今回の引渡しがあって、中1日置いて、翌日午前中に1,000セット引き取りになる。その繰り返し。
台紙を折ったらテーブルの上にやりやすい数(わたしは10枚だった)のプラスチックケースを広げて台紙をセットしていく。あのツヤツヤした大体黒っぽい厚紙だ。
特別に箱の中にシールを貼る指示がなければまつ毛をセットしていくのだが。
中国製のまつ毛は品番が同じでも製品のバラツキが多い。まるで違う品番のものが混じったんじゃないかというくらい。そこでどうするかと言うと、まつ毛をひとつずつ出してきて似たまつ毛同士で1パックに組んでいくのだ。
これは初心者には難しくて目が慣れている人じゃないと効率よくできない。
バラツキがない真っ直ぐなだけのまつ毛もあり、そっちはただ詰めていくだけでお金になる。
しかしバラツキがある製品は決まって不良も多く、1,000セットに満たない数しかできないことが多い。出来高制なのでその分、給料を引かれる。
まつ毛を詰めて、パッケージを閉じて、付属のシールを指定された位置にずれないように貼る。それを1,000セット、正味1日半で完成させる。
きゃりーぱみゅぱみゅの歌が流行って、若い子はみんなツケマをつけていた。
わたしたち子育て世代(子供は幼稚園と小学生、未就学児だった)はツケマなんてつけずに、トレーナーとデニムで幼稚園の送迎をして、子供の以内時間にツケマを作る。
小さい子がいる家庭ではお昼寝の時間と、夜寝た後にツケマを作る。もちろん自分の寝る時間を削ってだ。
もしそんな時に「あなたは若い子の間で流行ってるツケマを作っていることについてどう思いますか?」と聞かれたら「ふざけるな」と思ったと思う。1セット4円。不良品が出なければ4,000円。それでも内職にしては割がいい方だ。
しかし仕事に貴賎はない。
エッセイストのあなたの方が偉いんですか? 手を汚して働くことは貧しいですか?
わたしの仕事はバカらしいですか?
もしみんながその『無意識の優越感』を持っているなら世の中の格差はひどい広がりを見せるだろう。
お医者様はキレイだけど、介護職は汚い。
例えばそういうことですよね?
みんな、自分の生活のためにできることの中から仕事を探している。それは他人にとやかく言われることではない。
――ツケマを作っている時、涙がこぼれることがあった。猫缶工場の女性もなにも考えずに毎日働いているわけじゃないんだろう。
それでも、自分が毎日働いているということにプライドを持っているのではないだろうか?
わたしも猫を飼っている。安い餌は病気になりやすいと聞いたので、小さい時から少し高い固形のフードを食べさせている。それを食べて猫は毎日元気に過ごしている。猫なりに、餌を作ってくれる人に感謝をしているのではないか、そんな気さえしてくる······。
✂--------------- キ リ ト リ ---------------✂
角川の小説投稿サイトカクヨム主催の『Web小説大賞7(カクヨムコン)』に参加しています。このコンテストは読まれて評価されると予選通過になるという変わったシステムになっています。
もしちらっとお時間がおありでしたら小説はいかがでしょうか?
地球滅亡3年前、離れ離れになった恋人たち。勇気を出して彼女が会いに行けば彼氏には新しい彼女がいる。別れた時の約束のようにふたりは一緒に最後までいられるのだろうか――?
というSFの入った物語です。よかったら1頁だけでも読んでいただけると作者、喜びます。よろしくお願いします!!!
書いていて切なくなってくる物語です。
読むと切ないと思います。
それではまたよろしくお願いします。