「病院師長から訪問診療クリニックへ」在宅医療における看護師のやりがいとは
-musubi Groupに入社される前のご経歴を教えてください。
3 次救急を選んだ理由は看護学校を卒業して、早く一人前の看護師になりたいと思っていました。なので2次救急ではなく、3次の救急センターから就業先を選定するようにしました。当時は三島救命救急センターさんが救急センター単独の病院でしたので、救急のスペシャリストになれるのではないかと思い、そこを選ばせていただきました。
-2次ではなく、3次を選ばれた理由はなんだったのでしょうか?
幅広い症例を見れることや、重症患者に対応できるスキルを身につけたいと思い、3次救命救急を選びました。看護学とかを学ぶうちに 1 年目から重症患者に対応できるスキル・知識を身につけておくことで、どこに就職したとしても活躍できるのではないかと思い、3 次救命救急を選びました。
-その後、スキルを身につけられていく中で転職をされて 、2次救急の医誠会病院さんを選ばれると思うんですけど、選ばれた理由を教えていただけますか?
3 次救急は本当に超重症から重症までの方がいらっしゃるんですけれども、その後転院する方が多かったんですね。転院後どういう流れになって、患者様は自宅に退院していくのか、または施設に入っていくのか、どのような治療・看護がなされているのかが気になるようになりました。そこを知ることが看護師としてもスキルアップできるのではないかと思い、医誠会病院さんを選ばせていただきました。
-医誠会病院では、どういった流れでそこまでのキャリアになったのでしょうか?あとは統括師長時代の仕事への想いだったり、大変だったこと・やりがいとかはありましたか?
副師長になるまでは、ICUにて現場教育をさせていただきました。その後救急外来と ICU というところを統合していった方がいいんじゃないかという意向や、コミュニケーションをもっと円滑にした方がスムーズにできるんじゃないかということで、救急外来に配属されました。そこで救急搬送件数を増やすという目標を掲げ、当時の上司である師長と話し合いであったり、自分の目標を達成する中で、副師長まで任命していただけたと思っております。
統括師長の時は、ちょうどコロナの時期だったこともあり、救急外来の役割がとても増えたことが一番思い出に残っていることですね。例えば救急外来でしたら、救急外来業務に加えてカテーテル業務、コロナ禍でしたら検査場の運営、または隔離部屋の運営、そういったところで、やはり最前線で戦っていかけないといけないというところで、スタッフとかなりぶつかったことを覚えてますし、大変だったと思っております。またその時は、スタッフの想いに寄り添えていなかったり、運営をしていかないといけない想いだったり。あとは組織としての意見も、どうのようにスタッフに落とし込もうかっていうところで、たくさん悩みました。一時は 20 人ぐらいいたスタッフが 7 人ぐらいまで減ったのを今でも鮮明に覚えています。
そこからスタッフと向き合わないといけないと強く感じるようになりました。スタッフがどんな想いをもっているのか、組織はどういう方向性なのかをすり合わせないといけないと思いました。1on1を通して話し合う機会をたくさん作ることで理解していただいたり、スタッフの辛い想いを理解することで、いい流れになったと思っております。
-スタッフとの1on1で何を大切にされていますか?
昔はとても聞くのが苦手でした。結論を最初に欲しくて、その過程とか流れっていうのをあまり聞くようにはしてなかったんです。けれども、やはりスタッフの想いというのは、たくさん時間を聞いてほしい・どういった苦労がある・どういった不満がある・システムを変えてほしいなど、たくさんの想いがあることに気づき、そこを大切にするようにしました。
-musubi Groupに入社されたきっかけを教えてください。
musubi Groupには『最後まで自分らしく生活できる地域を創る』という理念があるのですが、働く上でのvisionに共感したのが入社をしたきっかけですね。私はこれまで急性期で働く中で、治療のことばかりに注目してしまい、いつの間にかその人を診るってことを忘れていたような気がします。病院では治療が優先され、在宅での生活やその人の想いへ結びつかないことが多かったです。結果として病院に何回もリターンされ、最期は病院で亡くなるっていうケースを多く見てきました。その時に実感したことが、ご家族の想いを表出する間もなく、最期のお見送りする方が多かったように思います。
管理者としても働く中で看護師としての人生を振り返る中で、今動かないとこのままではダメだなって思ったのが大きなきっかけでもあります。
採用までには面談や同行見学がありますが、実際に働いている現場を見ることで私が実際に働いてる姿のイメージも付きやすく、また医療者が患者様と関わる時に、とても丁寧で気持ちのこもった診療の場面を体験することで、私はここで看護師の再出発をすると決めました。
-入社前後でのギャップは感じましたか?
入社前は看護師として再出発をする覚悟もあり高揚感がありましたが、その反対に正直なところ、不安も大きかったです。急性期領域しか経験してこなかった為に自が描くイメージと、実際の在宅で自分がどこまでできるんだろう?とか、この分野は自分が目指すものなのかっていう不安が前日までありました。実際に初日はオリエンテーションのはずが、私は同行からの幕開けでした。何もわからないまま車に乗り込み現場で雰囲気を感じる。それが逆にとても良かったです。初日から地域における医療の話を移動中に聞くことが出来、こちらからも質問が行いやすい雰囲気がありアットホームな職場であることがすぐに伝わりました。入社前に抱いてた不安は今では解消され毎日が勉強でワクワクドキドキの毎日です。
-リーダーとして入職されましたが、どういったことに取り組まれていますか?
最初は自分も初めてのことばかりで、現在もですがチームメンバーが困った際は教えてくれます。リーダーとして入職しましたが私も新しい事への挑戦であり自分が全てを引っ張っているわけではありません。私が出来る範囲で雰囲気作りを大切にしています。全員が発言しやすい空気だったり質問がしやすい雰囲気作りを大切にして、相手に対してアドバイスする際は柔らかく噛み砕いて伝える事を大切にしています。今までの管理者を行ってきた経験の中で失敗も沢山した結果、自分の中で伝え方や相手の変化に気付けるように配慮しています。自分がリーダーだからと主張しすぎず、musubiの方向性にもあるように3つのバランスを意識して日々取り組んでいます。
-訪問診療看護師の仕事内容について教えてください
訪問診療の同行看護師として、毎朝ミーティングの後、その日のスケジュールを再構築しカルテから患者様の状態をアセスメントし見通しを立てることで必要になりうる物品や検査の準備が重要な役割です。また連絡・調整も重要な役割としてあります。訪問前には必ず他事業所の関連職種と情報共有しているツールの確認を行い、詳しい情報が必要な場合や同行をする場合などは、訪問看護師・ケアマネジャーへ連絡を行い、情報の細かい部分の確認やスケジュール調整を行います。その情報をもとに事前に患者様やご家族の想いの変化や、前回の診療から変わった状態を把握した上で、診療するまでに先生に橋渡しをするということも、とても大きな役割だと思います。
-訪問診療看護師としてアセスメントをする上でどういうところが一番難しいとか、気をつけているところはありますか?
例えば病院だったら検査データをもとに治療につなげるっていうアセスメントをしたらいいんですけれども、地域で暮らすところに念頭を置くと、患者様の想いだったり、ご家族の想いだったり、どう生きていきたいだとか、人生のバックヤードを考えることがとても大事になってくると思います。
-そのバックヤードを汲んだ上でも出来ない・でもこうした方がいいんじゃないかというモヤモヤがあったときにはどのように解消されていますか?
この半年でも、大きな壁にぶつかったことは何度もありました。やっぱり自分たちだけがしてあげたいっていう想いだけでは中々うまくいかなかったんですね。なのでご家族がどうしたいか、患者様がどう想っているか、一番何を大事にしているかっていうところを、最初の診療から先生が聞き出したりすることがあるので、そこにしっかりキーワードというものを決めて、関わるようにしています。
-多職種との情報とか、ご家族の想いといった情報はどのようにして集めているのでしょうか?
訪問診療や在宅ならではだと思うんですけれども、自分からどんどん情報を集めていこうと思わないと、なかなか詳しい情報までは集まってこないです。MCS(※1)とかの共有ツールはあるんですけれども、そこだけでは読み取れない部分が大きくあるんですね。
そういった時には、朝一から関係各所にご連絡させていただいたり、訪問診療を行う日にケアマネジャーさんに同席していただいたり、訪問看護師さんと時間をずらして外で会う機会を作ることがありますので、そこでお話を聞くことで情報を集めています。
-実際にそういう情報を集めたからこそできた。アプローチとかってあったりしますか?
私自身、緊急時はまだ病院で働いていた感覚もあり救急搬送した方がいいっていう先入観が残っています。しかし、実際はご家族や患者様は家で看取りたい・最期まで家で過ごしたいって想いが強く、そこで出来る事は何だろうと考えることが重要です。自分だけの情報では足りないことも多く、ケアマネジャーさんに今まで関わった経緯や本人の性格や習慣を伺ったり訪問看護師さんの想いを聞くことで自分自身の考え方が少しずつ変化したように思います。この半年の中で結果として、最期まで自宅で看れた経験がありました。その時は患者様も最期は穏やかな顔をされていましたし、ご家族もとても表情が穏やかで、ありがとうございましたと言われたことがあったので、たくさんの情報を集める事が大事だなということに気づきました。
-仕事への考え方や、大切にしてるもの、こだわりについて教えてください。
ずっと大切にしていることは、いかに周りをつなぐかっていうことを大事にしています。それが結新会ホームケアクリニックに入ったきっかけでもあるので、そこを一番大事にしております。
-いかに周りをつなぐかっていうのは患者様とドクターだったり、他職種だったりとかですか?
そうですね。患者様とドクターはもちろん、患者様とケアマネジャーさん。あとはそれに関わる福祉用具だったり、病院につなげたり。あとは想いに寄り添うっていうこともつなぐということに入ると思うので、想いをしっかり読み取れるように気をつけてます。
-普通に働いているだけだと、その視点は中々持てないと思うんです。どちらかというと、目の前の患者様や症状・疾患に集中するじゃないですか?どうやって視点が多角的になっていったかという背景はありますか?
訪問診療で同行する中で、先生とペアを組んで行うんですけれども、移動時間にご家族のこと、病状のこと、あとは自分が訪問診療が初めてということもありますので、そこの訪問診療の同行に対するアドバイスを的確にいただけるので、いろんな多角的な視野だったり、訪問看護師さんはこう思ってるんじゃないかとか、医療的にはこうだけど、地域で暮らすってこういうことだよ。っていうのを根拠や理論を使って教えていただけるので、すごく勉強になっています。そこが多角的視野につながってると思います。
訪問診療看護師のやりがいについて
-業務の具体的な詳細を教えていただけないでしょうか?
あと、多職種連携とはどういうお仕事なのかとか、それ以外に何の仕事をしているのかとか教えていただけますか?
訪問診療看護師は、病院や訪問看護師さんと違って、プレイヤーにはなれないってことをはじめにアドバイス頂きました。その中で自分が出来る事はなんなのかということを探す中で、みなさんがイメージしているような運転を行うという業務も出てきます。しかし訪問診療の中で患者様のバイタルを測って異常の早期発見をしたり、訪問看護師さんに情報を伝えたり、地域で暮らす人をサポートするために周りを繋ぐことは同行する看護師としてはとても重要なことだと思います。生活状況を把握することで福祉用具を変更した方がいいのではと提案したり、薬局からの疑義に対応できるのも同行している大事な役割だと思っています。
-訪問看護からのオンコール電話の初期対応をすることが重要な役割だと思いますが、ただ医師に繋ぐだけじゃ意味がないと思っております。でも現場に出ていない中で、判断しないといけないのが難しいポイントだとは思うんですけど、実際にどう難しいのか・どうやっているのかとか教えていただけますか?
訪問看護と違って看護師がメインで訪問するわけではなく、診療という中から看護を見いださないといけないのが、とても重要になってくると私は感じております。その中で緊急対応となった時に、やはりご家族や患者様本人や訪問看護の看護師さんも先生とお話ししたいと思っておられます。先生からのご指示をいただきたいというのが、もちろん重要になってくると思います。その中で私が気をつけていることは、どういった想いでそういう連絡をしていただけたのか、どういった状況が起きているのかっていうのを、たくさんキーワードを集めながら考えることがとても大変であり、重要なことだと思っております。
-その判断をしていく中で実際にどういったものをポイントにされてますか?
今まで培ってきた救急経験だったり、集中看護の経験はありますので、その中でこれは大変だな・これは危険だなっていう、トリアージの概念において、意識しながら対応していくようにしています。
-オンコール対応の中で、聞いていた状況とは違う状況が起きていたりとかして、目の前で見えない状況があるじゃないですか?そこでの判断とかもいかがですか?
目の前で見えないことがオンコールの場合は数多くあると思うんですけれども、今まで同じ事象に至った経験だったり、あとはカルテからどういった診療をしてるのかっていうことを汲み取っています。あとは医師ともコンタクトを取りながら必要時は訪問看護師さんに指示をして、実際現場に行ってもらって見てもらうことで、現場と我々医療者をつないでいただくという形を取らせていただいてます。
-では、事前にカルテをしっかりと頭の中に入れていないと結構難しいですか?
カルテを全て頭に入れることは私たちは難しいんですけれども、カルテからどういう人かっていうのを読み取る力があれば、すごく自分の判断には役立つと思います。
-なるほど、そこに関してはアドバイスだったりとか、ノウハウはございますか?
結新会ホームケアクリニックでは、医師と同行中も、同行から帰ってきてからも模擬の患者様を使ったりして、どういったことが起こり得るか・どういった場合だと報告は必要かというシミュレーションを適宜でやってますので、その中でトリアージ能力だったりというのを培っております。
スキルアップやサポート体制について
-看護師のキャリアステップの中で、資格を取ってどんどん専門性を高めるようなプロフェッショナルになる方が比較的多い印象があります。高須賀さんのように、役職を上げていきたいと思っている方は珍しいというか、少ない印象です。その中で、前職では統括師長まで役職があがりましたが、元々目指していたキャリアなのでしょうか?
今とは違って、その当時はすごい野心っていうものが強かったと思っています。やはりスタッフのしんどい想い・頑張ってるスタッフの成果が出てくる中で、自分が上に上がって、スタッフの想いを汲み取った方が、スムーズに運営も行くんじゃないかと思っていました。あとはスタッフの離職率っていうところの改善についても、やりがいをもっと生み出せるんじゃないかと思って、そこの野心があって上り詰めたと思います。
-ちなみに現在のメンバーに対して、どういう風にキャリアを歩んでいってほしいとか、これから入社される看護師さんがどういうキャリアを歩めるとか、どんなことがサポートできるとかあったりしますか?
病院自体もそうなんですけれども、専門職に進むのか、それともキャリアアップに進むのか、様々な働き方がある中で、スタッフ一人一人にあった道筋といいますか、やりがいというものに寄り添ってサポートできたらいいなと思っております。
-病院での臨床経験しかない方への教育体制とか、スキルアップやサポートの体制っていうのはどうなってますか?
教育体制においては、日々、自分がどうなりたいかを意識できるように面談・情報共有を行っています。最初のうちは同行する先輩看護師がサポートする体制にしています。本人ができるっていうところまで成長したら、自立して同行に行ってもらうようにしています。
事業所内のサポート体制も厚く、医師をはじめ看護師の他にMSWや事務員含めいろんな立場で話を聞いて振り返りを行ってくれます。私たちが分からない専門分野のところは、それぞれの専門職が親身になって教えてくれます。
あとは週に 1回、時間を見つけてみんなで勉強会をすることで、知識を深めて自分に足りない知識の充足や知ってることを共有することで、より吸収できるような体制をとっています。
-今後、高須賀さんが看護師としてどういうキャリアアップをしていきたいかっていうのはありますか?
私自身、訪問診療や在宅・地域に出てきて半年しか経っていなので、もっと訪問診療のことも知りたいと思ってますし、また訪問診療をする中では、やっぱり訪問看護師さんの意見とか立場も知りたいなということもありますので、より広く地域で活躍する看護者として目指せたらなと思っております。
今後の事業所の目標やについて
-リーダーとして事業所をどのようにしていきたいと思いはありますか?
やっぱり私自身の知識がなかったり、経験がないとメンバーを引っ張ることができませんので、今はプライマリケア認定看護師(※2)も目指しておりますので、そこの取得をした後、後輩育成だったり、自分のスキルアップに力を注いでいきたいと思っております。
-最後に訪問診療がまだ選択肢にない看護師さんだったり、挑戦してみようかな?どうしようかなと思ってる人たちに背中を押してほしいんですけど、うちの魅力はなんでしょうか?
やっぱり病院から出るって、なかなか勇気のいることで、その中で訪問診療クリニックに行こうとか思う方が少ないと思うんですけれども、訪問診療クリニックっていうのはとてもアットホームな組織で、誰もが顔を知って誰もが相談相手になって、もう一つの家族みたいな存在ですので、ぜひ勇気を持って飛び込んできてほしいなと思ってます。
-どんな人と一緒に働きたいですか?
地域に根付くクリニックを目指していますので、想いやりがあって明るくやる気のあるスタッフの方と働けたらいいなと思っています。