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ずんだもんのMVを同志と作った話(後編)【ずんだもんだわんだーらんど解説④】

はじめに

前回の記事はこちら

NEUTRINOずんだもんの配布ページはこちら

この音源を使用して制作した楽曲がこちら(よろしくお願い致します)

こちらの楽曲を中心に、使用ツール実際に動画が完成するまでを解説していきます。

2022/9/4 RAOさんとEach of Voice(合成音声キャラの同人イベント)に行ってきました。確保OK。

下準備

今回はミュージックビデオのため、Aメロ、Bメロ、サビ等のパートごとにアニメーションを作り、それをつなぎ合わせていく方法でいきます。
そのために各パートの長さ分、空の編集データを作っていきます。

使用ソフトはAdobe After Effectsを使用していますが、AviUtlでもシーン機能が扱えれば同様の事ができます。

シーンとは簡単に言えば映像を細かく分解したパーツのようなもので、これを繋げたり同時再生させて組み立てていく事で動画が完成します。
(イラストを描く人はフォルダ分けされたレイヤーみたいなものだと思って頂ければおおむね合っています。)
After Effectsではシーンに相当するものをコンポジションと呼びますので、以下もコンポジションで統一していきます。

手順としては、まずは曲をこのように分割し…

※flpはFL Studioという作曲ソフト(DAW)のプロジェクトファイル

それぞれの長さ+(保険で)1〜2フレーム程度長さのコンポジションを作っていきます。

After Effectsの素材管理ウィンドウ。ここでイラストデータやコンポジションが管理されている。
(完成データのスクショなのでごちゃっとしている)

これで下準備はおおむね完了です。

これから行う事としては、この中に歌詞やキャラのアニメーションを入れて…

After Effectsのタイムライン画面。青い線が通っている所が上部でプレビューされている場面。
画像はBメロの歌詞アニメーションのコンポジションの中身。

最終的にこんな感じで組み合わせていきます。

青い線がかかっている長方形のうち上が歌詞のコンポジション、下がキャラアニメのコンポジション。

この時用意するコンポジションは主に3種類に分けられます。

  1. 歌詞をアニメーションさせたコンポジション

  2. 背景・キャラクターをアニメーションさせたコンポジション

  3. 1と2を合成するコンポジション(Master)

例えばサビの箇所では【サビの歌詞のコンポジション】と【背景・キャラアニメーションのコンポジション】が同時再生されてサビの映像として成立している、といった感じですね。

素材制作について

ここからは実際にコンポジションに入れる素材を作っていきます。

今回はRAO先生をお呼びした関係で分業が行えるので、以下のようなワークフローとなりました。

  1. RAO先生からイラストのラフを頂く。

  2. それを元にアニメーションをつけたり歌詞や背景を合わせるなどの合成作業(コンポジット)を行う。

  3. RAO先生のイラストが完成したら差し替える

キャラクターアニメーション

今回の動画では静止画のイラストを編集で動かし、キャラクターがふわふわ浮いているかのような演出を行っています。

このようなアニメーションを作る際、多くの場合は髪や腕などパーツ分けをした上で各部分を動かしますが(Live2DやSpineなど)、今回のように一枚絵からLive2D風の効果を得る方法も存在します。
今回はMohoというソフトを使用しています。(After Effectsを持っている場合はパペットツールを使用する事で同様の事が出来ます。)

本来はベクター図形(直線や曲線のデータで作られた図形のこと)を作って動かすソフトですが、pngなどの普通の画像を使用してもOKです。

このように動かしたい位置と固定したい位置に合わせてボーン(骨)を入れていき…

Mohoのエディター画面。一枚絵の上にボーンを配置していく。
一つ一つのボーンが関節を支点として回転させることが出来、それに絵がどこまで追従するかを調節して下準備を行う。

どのボーンがどの時点でどのように動くかを指定していきます。
動かしたボーンの座標や角度はキーフレームというデータとして保存されます。

赤線で囲ったところがMohoのタイムライン。
どのボーンがどのフレームで動いたか等をキーフレームという白丸で記録している。

完成したアニメーションをアルファチャンネル(背景など何もない部分が透過して書き出される形式)付きの動画ファイルで書き出します。
この作業を使用するイラストの分繰り返し、キャラクターアニメーションの素材は完成です。

背景アニメーション

背景の一部はBlender(3DCG制作ソフト)を用いて制作しています。

このようにシンプルな模様の図形を作り、

Blenderの画面。筒状の3Dモデルにチェック模様をつけたもの

カメラ位置を調整して動画を書き出し、

筒の内側にカメラが入っており、撮影するとこのような画が撮れる。
実際にはスクロールして動いている。

After Effects上で色調を編集して…

先ほどの素材に「カラーオーバーレイ」という効果で色をつけ、
上から「調整レイヤー」+「色調/彩度」で淡さを調整する。
ややこしいのでAfter Effectsを持っていない人はここは読み飛ばしていいです。

上から図形を散らして(エフェクト→シミュレーション→CC Particle World)背景は完成です。

「平面」に「CC Particle World」を適用し、図形を散らす。
「Particle Type」を「Textured QuadPolygon」にし、「Texture Layer」を任意の図形にすれば
好きな形を散らす事が出来る。After Effectsを持ってない人は読み飛ばしていいですPart2

ここだけの話わざわざBlenderを使っているのは私がこの方法に慣れているというだけで多分After Effectsでも作れる疑惑がある

実写映像

まずレンタルスペースを予約します。

今回はこちらのスペースをお借りしました。
大変おしゃれな内装かつスタッフの方のご対応も丁寧でとても良い場所でした。撮影以外にもちょっとしたオフ会など、事前に用途を記入すれば多目的に利用する事が出来ます。

そこに各種材料と備品以外の調理器具(すり鉢など)、ビニール手袋などの衛生用品、撮影機材を持参します。
真上から撮影できるように三脚をセットし、調理過程ごとに動画を撮影します。(もっとうまいセッティング方法があったかも)

手前に三脚、右にPCを設置している。この台はキッチンではなく食卓。

ちなみにこのすり鉢は帰りに落とした衝撃で割れました。(すり鉢の遺影)

食べてる途中の箸をぼかす配慮褒めて

出来上がったずんだ餅は画面外のRAO先生と美味しく頂きました。

思ったより枝豆の香りが強くてびっくりしたのですが、砂糖を多めにまぶしたことでけっこう甘めの味に仕上がっていました。
枝豆の風味が苦手な方は甘々の味付けにすると美味しく食べられるかもしれません。

合成作業(コンポジット)

素材が出揃ったらいよいよ編集で合成していきます。
この作業をコンポジットと呼びます。コンポジションと名前がややこしいですが頑張ってください(?)

カメラを使って、3D空間に配置した素材を拡大縮小回転したり…

AviUtlで言うカメラ制御。

場面をなめらかに繋ぐ(トランジション)ためにエフェクトを挿入したり…

大きくズームアウトして次のコンポジションに繋ぐトランジションエフェクト。
こちらは標準搭載ではなく有償のサードプラグインを使用。

諸々調整が終わったら書き出して(レンダリング)完成です!

まとめ

今回は実際の動画制作の流れを解説しました。
作っている時はなかなか演出がうまくいかなかったりして大変ですが、だんだん完成していく映像を見るとモチベが上がってとても楽しいですね。

何よりいつもと違ってイラストがめちゃ可愛いのでこれを見てくれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!な演出を考えるのが大変楽しかったです。
ありがとうRAO先生。

ずんだもんだわんだーらんどの解説記事は今回でひとまずおしまい。
今シリーズのマガジンは以下からどうぞ。

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今後ともよろしくお願い致します。

おまけ:今シリーズの専門用語おさらい&詳細解説

After Effects…Adobe社が提供する映像編集ソフト。モーショングラフィックス(動く図形などのアニメーション)を得意とし、業界標準と言われるだけあって大体何でも作れる。年額約3万だがAdobe Fontのプランもついて地味に商用フォント使い放題なのがありがたい。

AviUtl…KENくん氏が提供する動画編集ソフト(Windows専用)。フリーながら自由度の高い編集機能が魅力。有志の拡張プラグインを入れればほぼ無敵のツールに化けるため、長年にわたり根強い人気を誇っている。本作品では未使用。

Blender…Blender Foundationにより開発されているオープンソースの3DCGソフト。フリーとは思えない強力な機能を備えており、個人制作はもちろん近年では映画『シン・エヴァンゲリオン』などの商業作品まで幅広く活用されている。

CC Particle World…After Effectsに標準搭載されているエフェクト。画面上にパーティクル(粒子)を発生させる事が出来、形状を指定すれば複雑な図形を散らすことも出来る。「平面」オブジェクトにエフェクトとして追加する使い方が一般的。

CeVIO AI…株式会社テクノスピーチが開発する合成音声エンジンを用いたソフト。テキストを読み上げる「トークボイス」と歌を歌う「ソングボイス」があり、そのどちらも高い品質であるのが特長。東北きりたんなどNEUTRINOに存在する一部東北家の声もCeVIO AI用に制作されている。本作品では未使用。

Live2D…株式会社Live2Dが開発したアニメーションソフト。パーツごとに分けられたイラストからアニメーションを作る事ができる。Animaze(Facerigの後継)やVTube Studioなどのソフトを用いればモーションキャプチャで動かす事も出来、2D絵で動いているVTuberの多くがこのソフトを用いている。本作品では未使用。

Moho…Smith Micro Software社が開発・ソースネクスト株式会社が販売するアニメーションソフト。買い切りで一万強ぐらい。ベクター図形や画像などを直感的な操作で変形して動かす事ができる。自主制作アニメから映画まで、主に映像作品の分野で利用されている。

NEUTRINO(NEUTRINO-Electron)…SHACHI氏によって開発されたフリーの合成音声ソフト。楽譜データ(musicxml形式)を読み込ませるだけでリアルな歌唱データを生成してくれるのが特長。有志による調声支援ツールも存在し、今回のずんだもんはこのエンジンを使用して歌っている。

Spine…Esoteric Software社が開発するアニメーションソフト。Live2Dのようにキャラクターをパーツごとに分けて動かす事ができる。特にゲーム分野でよく用いられており、最近(2022/9)話題の『Cult of the Lamb』などはこのソフトでキャラが動いている。本作品では未使用。

UTAU…飴屋プロジェクトが開発するフリーの合成音声ソフト。ボカロ黎明期から存在する老舗ソフトであり、重音テトをはじめとする様々な音声ライブラリが有志によって制作されている。UTAU版ずんだもんが2017年頃に公式から発表されており、本作品の仮歌デモ音源にも使用した。

VOICEVOX…ヒホ氏によって開発されたフリーのテキスト読み上げソフト。中品質と謳いつつ非常にクリアで滑らかな発音で読み上げてくれるのが特長。ずんだもん実況の動画などはこれで制作されており、NEUTRINOずんだもん登場以前からこれで歌を歌わせる変態クリエイターもいる。本作品では未使用。

アルファチャンネル…動画における透過部分の事。これを書き出せるフォーマットでレンダリングすると背景などが透過した動画素材が作れる。書き出し設定にRGBA(レッド、グリーン、ブルー、アルファ)などと書いていたらアルファチャンネル対応の目印。

エレクトロニカ…音楽の一ジャンル。広義にはシンセを用いた音楽全般を、狭義にはグリッチ(壊れたようなノイズ)サウンドや電子音を主体としたどこか落ち着いた雰囲気の音楽を指す。後者の代表的なアーティストにI am Robot and Proud氏やWorld's End Girlfriend氏などがいる。

仮歌…音楽制作において、メインのボーカリストの歌唱を乗せる前にあらかじめ参考として録っておく歌のこと。細かいニュアンスを伝える目的があるため生歌である事が多いが、近年はボカロで作る人もいる。本楽曲においてはNEUTRINOずんだもん完成前に仮で制作したUTAUずんだもんのボーカルの事を指す。

キーフレーム…動画内の何がどのタイミングでどのように変化したかを記録したデータのこと。上記ではMohoの項で登場したがAfter EffectsやBlenderなど多くの動画編集ソフトに存在する概念。たいてい点のような見た目で表示され、これを時間軸に沿って並べていく事でアニメーションが作られる。

コンポジション…After Effectsにおいて背景やアニメーションなどをまとめた箱のようなもの。これを繋ぎ合わせたり同時再生させる事で映像を組み立てていく。解像度やフレームレートを個別に設定でき、1920x1080pxの動画のために3000x3000pxのコンポジションを用意する事もある。

コンポジット…映像制作において素材を組み合わせたり編集を行ったりして最終形を仕上げること。これが終わればあとは大抵書き出しを行うのみとなる。

シーン(Scene)…AviUtlにおけるコンポジションのほぼ同義語。拡張編集画面の左上にある「root」は現在の画面がメインのシーンである事を意味しており、クリックすると別で空のシーンが大量に用意されているのが確認出来る。

ずん虐…ずんだもんが可哀想な目に遭う展開およびそのような動画の総称。元々の不憫属性も手伝ってそこに萌えを見出すファンもいれば全く受け付けないファンもおり、界隈ではその在り方について賛否が激しく分かれているので扱いには注意が必要。

ずんだもん…後述する東北ずん子プロジェクトの一員として2013年10月に誕生。CVは伊藤ゆいな氏。当初は萌えキャラが使いづらい人のためにゆるキャラ的な立ち位置で登場し、2021年に読唇データベースの発表に伴い公式擬人化され爆発的に人気が出た。我々マスコット勢の敗北である。

トイトロニカ…上述のエレクトロニカのサブジャンルのひとつ。トイピアノや鍵盤ハーモニカなどの楽器を多用したおもちゃのような可愛らしいサウンドが特徴。代表的なアーティストにLullatoneなどがいる。

東北きりたん…後述する東北ずん子プロジェクトの一員。東北ずん子、東北イタコを含む東北三姉妹の末っ子という設定。CVは茜屋日海夏氏。VOICEROID等の読み上げソフト化の他、NEUTRINOでは発表直後から歌唱音源(AIきりたん)として歌声が用意され、そのリアルさに衝撃を受ける人が続出した。本作品では仮歌に使いかけたが未使用となった。

東北ずん子プロジェクト…SSS合同会社が展開するキャラクタープロジェクト。2011年の東日本大震災をきっかけに復興支援の意味合いを込めて発表され、現在までに東北イタコや東北きりたんなど多数のキャラクターが誕生している。上記のずんだもんもその一員。

トランジション…2つ以上の動画素材を繋げる時にかける特殊効果のこと。アニメなどでよく見るちびキャラが画面左から右へ流れて場面が変わる演出も広義にトランジションの一種。PowerDirectorやWindowsムービーメーカーなど、既存の動画の編集に特化したソフトにとっては主力機能となる。

ビデオコンテ(Vコン)…映像の大まかな完成イメージを可視化するため、ラフ画や絵コンテを完成形と同じように編集で動かして作った動画のこと。映画やテレビアニメなどの場合は仮のセリフや効果音入れが行われたりもする。今回は作成していない。

ベクター図形…直線や曲線のデータで作られた図形のこと。拡大しても画質が劣化しないので主にロゴデザインなどに用いられる。Adobe Illustratorなどベクター図形を主に扱うツールをドローソフトと呼び、逆にAdobe Photoshopなどピクセルで画像を扱うツールをペイントソフトと呼ぶ。

ボーン…主にアニメーション制作において、イラストや3Dモデルを動かすために入れられる骨・関節のデータのこと。このボーンがどのぐらい変形に影響するかを決定するパラメーターを「ウェイト」と呼ぶ事もある。

ラグタイムコア…トラックメイカーのTsubusare BOZZ氏によって提唱されている音楽の一ジャンル。50年代のカートゥーンの劇伴のような音楽に攻撃的なクラブサウンドが組み合わさっているのが特徴。本楽曲はこのジャンルを参考にして制作した。

リファレンス…いわゆる参考資料のこと。実際の作品が参考にされる事が多い。個人で探す事もあれば、依頼主と制作者のイメージのより合わせを行うために用意される事もある。

レンダリング…作業データをファイルとして書き出すこと。書き出すフォーマット(mp4,movなど)によって保存される情報が異なり、それに伴ってデータサイズも大きく変わる。上記のアルファチャンネルが含まれるフォーマットは含まれないフォーマットより情報量が多いのでサイズも大きくなる。