ギフト
ある晩、僕には勿体ないほどの美女と食事にいくことになりました。
約束が取れた瞬間、
グルメ情報を集めることしかしてなかった日々が、ようやく報われたと胸を撫で下ろしました。
しかし、安心している場合ではありません。
食事が決まったその日から、約束の当日まで緊張が体中を巡り巡っておりました。
決戦の日。
駅で待ち合わせし、予約していたスペインバルに入店。
こんなお綺麗な方とカウンターに並んで座る日が来るなんて、夢か幻のどちらかだと思いました。
しかしそれは、確かな現実でした。
まずは2人ともスパークリングワインを注文しました。乾杯。
正直、スパークリングワインなどという横文字な飲み物を飲む習慣はありませんが、ここは無難に合わせました。
ひと口飲んだ後、
美女から驚くべき一言が発せられました。
美女「楽しみ過ぎて、あなたの夢を見ました(キラキラ)」
僕は、完全に舞い上がりました。
心臓が破裂(スパーク)したかと思いました。
もしこの瞬間に昇天したら、悔いのない人生だったと言えるのは間違いありません。
しかし、正気を取り戻した僕は目を見開き、気合いで現世に踏み留まることに成功しました。
スタートしたばかりの序盤戦。
昇天している場合ではありません。
余談になりますが、このような際に自分が舞い上がっていることを女性に悟られてはいけません。
爽やかイケメンさんの場合、舞い上がると、「カワイイ‼︎」となりますが、
非モテの令和童貞が舞い上がると、こちらサイドは舞い上がってるつもりでも、女性サイドからはきょどってて気持ち悪く思われるからです。
(非モテ男子は、舞い上がる=きょどるに強制変換されてしまう不思議)
女性に、楽しく美味しくご飯やお酒を召し上がって頂くには「キモい」などという感情は排除されるべきなのです。
僕は必死に、平静を装いました。
その時、心の中ではこんな事を考えていました。
(ちょwwボクが夢にでてきた?まじでww人の夢に出るってムズいwまじでw出ようと思って出れへんしwwこれは完全に、僕と会ってない時間も僕のこと考えてくれてるwウヒョーww)
こんな心の声は顔には出さず、僕は答えました。
僕「(笑)へー。そうなんですねー。」
全く気の利いた返しができませんでした。しかし、意中の女性の夢に出演できたことを知れたのは、幸先のいいスタートだと思いました。
デート前日、イメトレと準備をしておいて良かったと心から思いました。
というのも、僕は食事に行く当日に何か間違いがあってはいけないので、前日は休みを取っていました。
体調を整えることも重要でしたが、メインは、部屋を掃除することが目的です。
何か間違いがあってはいけないので。ひとまず見える範囲を片付け、キレイにしました。
部屋の中だけじゃ飽き足らず、外に出てドアも拭きました。
インターホンにはずいぶん埃がたまっていたものです。
長年拭かれなかったドアは、心なしか笑っているようでした。
心配しなくて大丈夫です。
もちろん幻覚です。
翌日が楽しみ過ぎて、ドアのような無機物も生命を宿しているようでした。
まるで、ディズニーアニメのキャラクター達のようでしたし、ワンピースでいうとビックマムの島の感じでした。
伝わるかどうかわかりませんが、全てが生きているあの感じです。
ドアは笑う。
インターホンは鳴る。
あ、インターホンはいつでも鳴りますね(自嘲気味な笑い)
とにかく、美女との食事が大きな希望となり、前日ともなると僕は幻覚を見るまでになっていたのです。
もちろん、やましいことなど1ミリも考えていません。
決してないことも思い描いてしまうのが、男性の性(さが)というものなんだと思います。
盛り上がり過ぎて終電を逃してしまった。こんなことは決して起こってはいけません。
万に一つもないことですが、億に一つがあった場合には、暖かい場所が必要となるのです。
仮にそれが僕の家だった場合に限りますが、
屋根もある。
エアコンもある。
退屈しのぎのDVD(実写版カイジ。藤原竜也くん主演。お金の為にすごいとこ綱渡りしたりするやつ)もある。
そんな起こり得ないことさえも想定して行動するのが自称ジェントルマンのツトメではないでしょうか。
僕はこんな考えのもと、丹念に準備を進めていたのです。
すいません、あまりにも脱線してしまいました。
話は戻ってスペインバル。僕は美女との会食を楽しんでいました。
聞き上手はモテると、恋愛体育教師・水野敬也さんの本に書いてあったので、散々聞こうとしました。
しかし、無口な女性でなかなか効果が出なさそうだったので質問する形に切り替えました。
クローズドクエッションではなく、オープンクエッションにする所がポイントだと、心理学の分厚い本に書かれてた気がしたので、実践してみました。
※はい、いいえなど答えが限定される質問が前者で、なんでモロッコ行こうと思ったの?など、答えが限定的でないのが後者です。なぜという質問は相手への興味も伝わるのでよりいいみたいってどこかのエロい人が言ってました。
順調です。しかし、この調子で質問ばかりしていると、まるで面接官あるいは取調室の警官のようになってしまうので、次は僕のターンです。
自分のトーク力が試される場面を迎えました。
僕は、過去に体験したり聞いた全てのすべらない話を会話の要所要所に放り込みました。
もちろん、ひたすらすべらない話をしていては不自然ですし、それはTV番組がやってくれてるので、僕は精一杯の工夫をしながら話しました。
具体的にはこうです。
自分の持ちネタに繋げれそうなキーワードを会話の中で拾いあげ、そのキーワードと自分の持ちネタの間の空白を、突貫工事よろしくその場で繋ぎ合わせるのです。
突貫工事といっても、つなぎ目は見えないようにコーティングしますので、油断して聞いてる限りは自然だと思います。
あくまで重要なのは自然な流れであることなのです。
すべらない話に持っていこうとしてる感がでてしまうと、笑いに対する警戒レベルが引き上げられ、ウケにくくなります。
油断している時に笑える話をした方が、笑いに繋がりやすいのです。緊張と緩和の法則です。
こないだ面白いことがあってんけどなって導入が最悪な理由はこれなんだと僕は分析しています。
まぁ実際にはさんまさんとか島田紳助さんが言ってたことの受け売りだというのは内緒にしておいてください。
いくつかですが、僕はさりげなくこんな話をしたと思います。
・唐揚げにレモンを搾ろうとしたら、酔っ払い過ぎてた上にノールックだったので、唐揚げに唐揚げを搾ってしまい大火傷した話
・小学生のとき、後藤くんがスーパーサイヤ人になろうと本気だしたけど結局なれなかった話
・タイに卒業旅行(1人で)行った時、寂しくてようやくできたインド人の友だちを食事に誘った。イスラム教のRamaḍān(断食月)が理由で断られたので結局1人でメシ食って寂しかった話
とにかく僕は美女の笑いを取ろうと孤軍奮闘していました。
自分なりに頑張って喋った結果、この後もう一軒いけたので、ひとまず一次試験はパスしたんだと思いました。
2軒目(二次試験)について同じように書くと、おそらく司馬遼太郎の長編小説くらいの長さになってしまうので、思いっ切り割愛します。
帰り道。
僕は思い切って、想いを伝えることにしました。もう会って貰えないかもしれないですから。
もうね、バクバクですよ。
すごいバクバクしてるんですね、僕の心臓が。
自律神経系の臓器である心臓は、自分が意識せずとも動いてくれています。
なので、僕たちは心臓を動かすことを意識しながら寝るってことをせずに済んでるわけです。
でも、この時ばかりは自分の意識が心臓を動かしてるとしか思えない程のバクバクっぷりでした。
あー!緊張する。
でも伝えねばなるまい、この想いを。
伝えました。
沈黙となりました。
どっちだ、どっちなんだ。
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