見出し画像

#今日の映画 『ステイ・ホーム』(2020)

#今日の映画 2本目は『ステイ・ホーム』(The Nest/IL NIDO)(2019伊118)です。
 コロナ渦に乗っかったネタ映画かと思いきや、ちゃんとした良質イタリアンスリラーでした。しっかり面白かったです。
 というか、原題は全く関係ないですね。(ストーリを鑑みればこのタイトルでもあながち間違いでもない)
 森の中の古城のような洋館で、19世紀末のような古風な暮らしをする一族の末裔、一人息子のサムエルが主人公の物語です。


登場人物

サムエル・・・美少年。11歳ぐらい?幼いころの交通事故で父親と歩行能力を失う。ピアノが上手な良きショタ。イタリア版ジョンコナー。
エレーナ・・・サムエルの母。表情はまるで蛇だが、過保護で実に息子思いなことは分かる。手段は択ばないタイプ。
デニーズ・・・ある日謎の老人と共にこの家に訪れた15歳の美少女。今作のヒロイン。ベッラ。
クリスチャン・・・イタリア版香川照之。サムエルの主治医であり、その他なんでもやる。
フィリッポ・・・愛すべき良きイタリア親父。


※この記事は規定値を超えるネタバレと筆者の過剰な妄想を含みます。


感想

 主人公サムエルの一族はこの地方の領主という設定で、毎日母親からマンツーマンで領地の経営法の授業を受けており、ピアノで月光やノクターンを弾いて誕生日にはミルトンの『失楽園』を贈られる。一見19世紀末から20世紀初頭の地方貴族のような暮らしですが、そんな観客の先入観はある日訪れた少女、デニーズの持っていたipodによって打ち砕かれます。
 成長と共に屋敷の外様子が気になって仕方がないサムエルと、そんなサムエルに必死で何かをひた隠しにしている一族。
 だんだんとその”何か”を隠し切れなくなったとき、外から訪れた訳知り気なよそ者であるデニーズとの出会いを通し、サムエルはこの軟禁生活に疑問を覚えます。
 何か出ない方がおかしい洋館と、夜な夜な森で行われる謎の儀式、エレーナを頂点とした異常なまでのヒエラルキーに途中までオカルト的な匂いがプンプンしていたこの映画ですが、だんだんと垣間見えるこの世界の構造がラストで一点に帰結します。


得体のしれないものへの恐怖

 何かしらの恐怖の存在を感じながら、最後までその正体が明確に描写されない辺りがA24の『イット・カムズ・アット・ナイト』っぽかったですね。こういう観客ですら一体何が怖いのか分からないミステリー要素を備えたホラーって最近増えてる気がしますよね。

この物語は失楽園そのもの

 他レビューで観たんですけど、今いる世界が至上で最も幸福であると教えられていたサミュエル(アダム)がデニーズ(エヴァ)によって異性の存在と、ipod(知恵の実=リンゴ)を知り、現在の世界に疑問を覚え、その結果二人でその楽園から出る(追放される)構造は、創世記の失楽園そのものなんですね。この映画はミステリーホラーでありながら、サミュエルの性意識と自我の芽生えも描写されるので実質青春映画ですよね(?)
 関係ないけど、ラストで二人がバスで走り、その後の不安を孕んだ展開を暗示させる感じは(まったく毛色は違うけど)『卒業』(1967)っぽいですよね。

いいなと思ったら応援しよう!