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アルチュール・オネゲル『クリスマス・カンタータ』を聴く

12月24日である……が、普通に夜は仕事である。

さて。クリスマスっぽいことができないクリスマスが続いて久しい私であるが、ほぼ毎年、12月24日(の夜)に、聴くと決めている楽曲がある。

それが、オネゲルの『クリスマス・カンタータ』だ。

フランスの作曲家、アルチュール・オネゲル(Honegger, Arthur)は、1892年に生まれ、1955年に亡くなっている。プーランクやミヨーと共に「フランス6人組」の一人であり、と蒸気機関車の牽引する列車の躍動感を表現した管弦楽曲『パシフィック231』で特によく知られている。

オネゲルはまた、自身の著作などで作曲家という仕事や西洋文明の未来についてかなり悲観的な予見を残している。第二次世界大戦という未曾有の厄災を目の当たりにしたオネゲルならではだろう。その辺、短歌の界隈でいえば、折口信夫(釈迢空)の思考に近いかもしれない(期せずしてオネゲルと折口信夫の生没年はかなり近い)。

そんなオネゲルが最晩年の1953年、生涯最後に完成させた作品が、『クリスマス・カンタータ(Une Cantate de Noël)』である。

前半は不協和音の鳴る暗く悲痛な音響、しかし中間部で一転、児童合唱の美しい響き、そして『きよしこの夜』をはじめとするクリスマスにちなんだ有名な楽曲の旋律が、フランス語やドイツ語の歌詞を伴って引用される。ラストは神を称える「アーメン」の合唱が繰り返されれ、そしてトランペットとオルガンの音響で静かに静かに曲は閉じてゆく。

全体で25分前後の、(クラシック音楽の中では)尺が短めな楽曲だが、その音響の豊かさや込められた祈りの深さは、古今東西の宗教楽曲の中でも屈指のものだと思う。

私は大学生の時に聴いて以来、この楽曲を大変愛している。

晦渋なサウンドから一転して親しみ深い旋律が流れてくるところは、シンプルに感動的だし、ラストの「アーメン」の合唱のところの和音が、近現代音楽特有の気持ち良さがある。

そして、それらの音響に導かれて、この楽曲から聴こえてくるのは、遠く遥かな祈りだ。戦争の傷跡もまだ残っていたであろう(そしてそれから40年近く続く冷戦時代の始まりでもある)1950年代のヨーロッパの人々の祈りだ。

宗教が違えば文化も祈りも異なる。しかしそれでも、この楽曲には、そういったものを超えた普遍的なものがある。そう信じたくなる。

「地に平和を 全ての人に恩寵を」

多くの人に聴いてもらいたい楽曲です。


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