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書のための茶室(九):蘇庵と宙庭
崇:今日は、茶室3案と茶庭2案を考えてきました。「白の茶室」「緑の茶室」そして、「墨の茶室」です。どれが「蘇庵」と「宙庭」のイメージに愛そうか、考えてみてくださいね
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1.白の茶室
崇:白の茶室は、白く、やわらかい空間をイメージした茶室です。根本さんとの対話から出来上がった、根本さんにふさわしい茶室だと考えています。
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躙り口を通って室内に入ると、お客さんは一面の白い空間に包まれるような印象を受けると思います。目線を留めないように空間の角を取り、床に置かれた花や同席した方々に視線が寄せられる効果を狙っています。待庵の室床に似たおさまりです。
全体は白いシラス壁の塗り壁、根本さんお手持ちの反古紙による暦張り、照明は光だけが下りてくる間接照明の空間です。畳は白い畳で全体の統一感を出しています。色を限定し空間の情報を減らすことで、意識を人や床の花に向わせ、コミュニケーションや思考へと導くような茶室を提案します。
外観まで真っ白なイメージで統一するのは、少しやりすぎかなと感じたので、外側は草庵茶室、内部に入って「はっ」とする空間、ということができればと思っています。
昌:繭玉に包まれたというか、赤ちゃんの清らかさというか・・
崇:そうですね。「胎内回帰」というイメージもありました。
2.緑の茶室
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崇:緑の茶室は伝統を継承しつつ、昔の方丈を彷彿とさせる天井高を持っています。天井の最高高は2800cm(大徳寺大仙院の方丈と同様)の、縦に長い空間です。基本的な平面構成は、又隠に習っていますが、高さの変化を加えたことで窓は3段となり、非常に明るく現代的な空間としました。
3.墨の茶室
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崇:以前真っ黒な空間もよいかも、というお話がありましたので先ほどご説明した「緑の茶室」を黒い設えにしてみるのはどうか、というご提案です。現代は何かと明るすぎますから、あえて墨染、黒畳など漆黒の空間を作って、集中する場としてはどうかと考えています。
4.苔の庭
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崇:庭については、2タイプの庭を考えてみました。「苔の庭」は、ふたつめのギャラリーとの境界の露地門を入り、右側の飛石でみっつめのギャラリーへ、もみじを見ながら振り返り窓側の腰掛へ移動します。腰掛で他の来訪者を待つようなイメージです。
庭中央の大きな庭石を中門に見立てて関守石を置き、亭主、正客はそこで向かい合います。小さな庭を広く見せつつ茶事の挨拶もできる仕様としています。
奥へ進むと四法仏の蹲があります。利休の時代は初座の席入り時には蹲を使わず、拝見がある後座前に使うという話も聞きますが、そこは来訪者に任せましょう。
貴人口を設ける場合はもみじ側に設置を想定しています。苔の中の浮島のような飛石を渡って茶室へいざないます。
5.石の庭
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崇:一転、こちらは緑を排した枯山水の庭園です。45度に振った敷石をメイン動線として、飛石により川の流れを表現しています。「蘇庵」は蘇り、水の循環や流れを意識しています。飛石に割れる水の流れを見ながら窓際を進みます。敷石付近ではさざ波を表現した石を配する想定です。
どちらも深山幽谷とは表現は違いますが、静かな深い(思考する場)に耐える庭になると考えています。
6.どんな茶室を?
知:イメージ画を拝見した印象では、「白の茶室」に心惹かれます。伝統的だけど天井高もある「緑の茶室」も魅力的ですが、白は紙のイメージにも通じるし、一度心を清める、というような意味合いも持たせられそうで。
崇:でしたら、「白の茶室」をイメージに作ってみましょうか。
知:そうなると、苔庭がいいかなぁ。生徒さんにもいつもお話しているのですが、僕は書を書く時、常に植物のように書きたい、と考えているんです。ですから、やはり瑞々しい植物の感じは欲しいような気がします。
崇:なるほど。では、「白の茶室」と「苔庭」で起こし絵を作ってみますね。ですが対比のために、「緑の茶室」と「石の庭」の組み合わせも、起こし絵にしてみようと思います。
昌:楽しみですね!
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三尋木 崇(みひろぎ たかし)
「五感を刺激する空間」をテーマに、建築と茶の湯で得た経験を基に多様な専門家と共同しながら、「場所・時間・環境」を観察し、“そこに”根ざした人、モノ、思想、風習を材料に“感じる空間体験”を作り出す。 普段は海外の大型建築計画を仕事としているため、日本を意識する機会が多く、そこから日本の文化に意識が向き、建築と茶の湯を足掛かりに自然観を持った空間を発信したいと思うようになり、活動を開始した。 2009年ツリーハウスの制作に関わり、2011年細川三斎流のお茶を学び始めてから、野点のインスタレーションを各地で行う。 ツリーハウスやタイニーハウスといった小さな空間の制作やWSへの参加を通して、茶室との共通性や空間体験・制作のノウハウを蓄積している。
お正月には、新幹線で宇都宮へ。ベビーカーの置ける拾い場所(1番か20番)を予約したのに、テーブルが固定式で入れられず残念でした。
根本 知(ねもと さとし)
かな文字を専門とする書家。本阿弥光悦の研究者でもある。2021年2月、「書の風流 ー 近代藝術家の美学 ー」を上梓。
お正月には、お酒をたくさん飲みました。
山平 敦史(やまひら あつし)
鹿児島県出身。フリーランスカメラマンとして雑誌を中心に活動中。
お正月には、書初めをしました。
山平 昌子(やまひら まさこ)
茶道を始めたばかりの会社員。「ひとうたの茶席」発起人。
お正月には、「雪の宿」を食べました。
(文:三尋木 崇/ 山平 昌子・資料:三尋木 崇・写真:山平 敦史)