「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の投資行動への影響
■はじめに
前稿では、基本情報を確認した。本稿では、投資行動への影響として
投資家としての対応を検討する。(※2024年1月15日以前)
なお、1/15に新たな情報が出てきたら、それについて別途検討します。
■前稿のざっくり要約
・「PBR1倍割れ」「ROE8%以下」を東証が問題視。
・東証が上場企業(プライム/スタンダード)に対策を要請
・要請に従い企業が、「現状分析」「計画策定・開示」「取組みの実行」の対応
➡これにより、企業価値の増加=株価の上昇の「期待」
(現状は、期待先行で、株価が上昇しているように見えます。)
■投資家は、どうすればよいか?
・この取り組みにより、株価が上昇しそうな会社を見つける。
どうすればよいか?
・「現状分析」により、
・企業価値に対して、不当に株価が低く評価されている企業
・企業価値が現状は低いが、取組みにより向上が見込まれる企業
など、株価上昇の可能性のある企業を特定する。
・「計画策定・開示」により
・企業の株価上昇のための取組みの蓋然性を検証する。
具体的に、どうすればよいか?
(「開示企業一覧表」の確認と投資対象の抽出)
・「開示企業一覧表」やその他の東証のリリースする情報を精査し、投資対象候補を特定する。
※現時点では未開示。開示が開始され次第、具体的なやり方を検討する。
(個別企業の評価)
・目を付けた会社の、コーポレート・ガバナンス報告書を確認
・そこから、開示資料を特定し、開示内容を確認し評価する。
■個別企業の評価(事例:三菱商事)
ここでは、三菱商事のHPから、コーポレートガバナンス報告書を参照します。
2023年3月31日の東証の要請に対し、
2023年6月23日の更新時点で三菱商事は対応しています
(CG報告書のPDFの6頁目に記載)
記載内容を要約すると、
・中期計画に記載済
・中期計画の定量目標(=ROE二桁水準維持)を達成できれば、東証の要請をクリアできると分析
・中期計画で定量目標を掲げ、その達成に向けた経営管理体制を導入済
・詳細は中期計画参照(10~11頁)
とのことで、対応済とのこと。
なので、中期計画を確認します。
三菱商事の中期計画の公表日は2022年5月10日で、
東証の要請より前の日付です。あれ?って思う人もいると思いますが、
東証に言われるまでもなく既に対応済みということなんですね。
適時開示で「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」について、というタイトルのIRを見かけることは多いですが、
既に中計等に記載済みであれば、その参照で問題ないわけです。
中期計画の11頁に、「ROE二桁水準」と記載があります。
ROE8%はクリアできるという記載です。
「PBR1倍割れ」について記載が無い、というのが突っ込み所ですね
この記載で足りるというのが会社の判断なわけですが、それで納得できるかどうかを判断するのは投資家ということでしょうか。
23年の年初から株価は上昇しており、CG報告書の更新時点で、PBR1倍割れは解消されていたのかもしれません。
一方で、東証の資料には、以下のような指摘もあります。
PBRが1倍を超えていれば問題がない、と経営者が東証の要請の趣旨を誤解
という指摘。個人的には、この中計の記載で会社が「株価を意識した経営」をしているかは良く分かりませんでした。
ただ、株価は上がっていますから、結果で判断すれば良いという考え方もあるかもしれませんが、よく分かりません。
■投資家行動への影響
・個別企業評価にあたり、BSをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営をしているかという切り口が明確になりました。
・切り口が明確になったことで、複数企業の横断的な分析が、今後行われると想定されます。
具体的には、1月15日に予定される東証の公表資料が注目されるし、各種情報媒体などの分析資料の公表が期待されます。まずは、ここを確認する所からでしょうか。