「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」のポイント確認
■はじめに
2023年の株式市場のテーマの一つに「PBR1倍割れの解消」がありました。
その始まりは、2023年3月31日公表に公表された東証の
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請にあります。その後もフォローアップ会議の文書が公表されています。
これらの文書を改めて確認(本記事)し、投資行動への影響を考察(次の記事)します。
※24年1月15日に開示企業一覧表の公表など追加のリリースが予定されており、それまでの現状を整理してみました。
■関連リンク
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/02.html
・資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について(2023年3月31日公表)
・上場会社の対応状況(2023年7月時点、2023年8月29日公表)
・今後の取組み(2023年10月時点、2023年10月11日公表)
・開示企業一覧表の公表の詳細および要請の留意点(2023年10月26日公表)
■2023年3月31日公表資料のスライドタイトル/(小見出し):要約
★背景・趣旨
(背景):ROE8%未満、PBR1倍割れと、資本収益性や成長性といった
観点で課題
:資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて重要と考え
られる対応をまとめたものであり、上場会社の皆様に積極的
な実施をお願いするもの
(趣旨):BSをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営を
実践
:経営層が主体となり、資本コストや資本収益性を十分に意識
・持続的な成長の実現に向けた知財・無形資産創出につながる
研究開発投資
・人的資本への投資や設備投資、
・事業ポートフォリオの見直し
等の取組みを推進し、経営資源の適切な配分を実現
していくことが期待
:その方針や目標、具体的な内容を投資者にわかりやすく示し
~(中略)~取組みをブラッシュアップ
★資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の要請内容
(対象):プライム市場・スタンダード市場の全上場会社が対象
(対応):「現状分析」「計画策定・開示」「取組みの実行」
:毎年(年1回以上)、進捗状況に関する分析を行い、
開示をアップデート
(開始時期):できる限り速やかな対応
★「現状分析」にあたってのポイント・留意事項
(現状分析に用いる指標の例)
:資本コスト(WACC・株主資本コスト)
:資本収益性(ROIC・ROE)
:市場評価(株価・時価総額・PBR・PER)
(分析・評価の観点とポイント)
:資本コストを上回る資本収益性を達成できているか、
達成できていない場合には、その要因
:資本コストを上回る資本収益性を達成できていても、例えば
PBRが1倍を割れているなど、十分な市場評価を得られて
いない場合には、その要因
★「計画策定・開示」にあたってのポイント・留意事項①②
(開示が期待される項目)
:現状評価
:方針・目標
:取組み・実施時期
(開示の形式)
:開示を行う書類・フォーマットの定めはありません。
:コーポレート・ガバナンスに関する報告書の「コーポレート
ガバナンス・コードの各原則に基づく開示」の記載欄への記載
※ 詳細については、別添の「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」
記載要領(改訂版)
★「取組みの実行」「アップデート」にあたってのポイント・留意事項
(投資者との積極的な対話)
:開示をベースとして、海外投資家を含む投資者との積極的な
対話を実施
:「株主との対話の推進と開示について」のとおり、開示を
行うことが期待(プライム市場)
(継続的なアップデート)
:毎年(年1回以上) これまでの取組みや成果の状況に関する分析
:・これまでの取組みの状況や目標の達成に向けた進捗状況、
・投資者との対話の状況、
・目標や取組みに変更がある場合にはその内容
:開示のアップデートの時期
(一律の定めなし。大きな変更=速やかな開示)
・【参考】資本効率等に関する目標に関連した原則
(コーポレートガバナンス・コード・投資家と企業の対話ガイドライン)
・【参考】グロース市場における事業計画及び成長可能性に関する事項の開示
(開示項目・主な記載内容)
■2023年8月29日公表資料のスライドタイトル/(小見出し):要約
・「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況
(プライム市場:1235社/スタンダード市場:887社)
:取組み等を開示:20%(242社)/4%(32社)
:検討中と開示:11%(137社)/10%(88社)
:記載なし:69%(856社)/86%(767社)
・PBR/時価総額水準別の開示状況(プライム市場)
(PBR):~0.5/ 0.5~1 /1~2 /2~
(時価総額):~250億円/250億円~1000億円/1000億円~
・開⽰書類/取組みの内容(プライム市場)
(主な開示を行っている書類)
(PBR1倍未満の改善に向けた取組み内容)
★企業が感じている取組みを進めるうえでの課題
・(参考)業種別の開⽰状況(プライム市場)
・(参考)ROE水準別、株式所有状況別の開⽰状況(プライム市場)
(ROE水準別):8%未満、8%以上
(株式所有状況別):支配株主あり、20%以上株主あり、その他
★投資家等からのフィードバック(1)(2)(3)
<今般の要請への評価>
<企業の対応状況へのポジティブなリアクション>
<課題、フォローアップの必要性>
<改善に向けた取組み内容について>
<開示について>
<分析・評価・目標設定に用いる指標について>
★今後のフォローアップ
(現状評価・課題)
(今後のフォローアップ)
:今後も継続的にフォローアップを実施し、企業や投資家等の
市場関係者に周知
:全てのプライム市場・スタンダード市場上場会社が対象である
ことの周知
:投資者の視点を踏まえた対応のポイントや望ましい取組みの事例
について、取りまとめ・周知
■2023年10月11日公表資料のスライドタイトル/(小見出し):要約
・第11回フォローアップ会議(8月29日)での議論
(上場会社の対応状況への評価)
:迅速対応をポジティブに評価。一方でPBR1倍超の企業の低開示率
に課題。
(今後のフォローアップ)
:「①要請を機に社内改革を試みる企業」
「②リソース不⾜や他社の出⽅を様⼦⾒する企業」、
「③要請に取り組む意義に疑問を抱く企業」
という3類型に合わせた施策の実施や環境作り
➡開示した企業の一覧表を公表
➡「投資者の視点を踏まえた対応ポイントの取りまとめ・周知」
は企業のニーズに合った施策
➡要請の趣旨を継続して周知することに加え、一層かみ砕いた
ガイダンスを⾏う
:PBRが1倍を超えていれば、今般の要請は関係ないという誤解
(その他)
:CG報告書で開示している旨を記載すべきということを改めて周知
:「検討中」の場合、いつまでに、どういうことを開示するのか、
具体的な工程や時間軸を開示
★今後の取り組み
(開示企業一覧表の公表、趣旨・留意点の再周知)
:キーワードを記載している企業を抽出・リスト化
※ 今回の要請では、開示の形式・書類は一律に定めていないものの、いずれの形式でも開示した場合には、投資家がその閲覧方法がわかるよう、CG報告書において、開示している旨や閲覧方法(開示書類のリンク)の記載をお願いしている
(対応のポイント・取り組み事例の公表)
:投資者の視点を踏まえた対応のポイントや、投資者の高い支持が
得られた取組みの事例について、
企業の規模や状況に応じていくつかのパターンを取りまとめ、公表
(対応状況の集計・周知)
:企業の開示状況や投資家等からのフィードバック等を概ね半年に
1回程度集計
■2023年10月26日公表資料のスライドタイトル/(小見出し):要約
・「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する今後の取り組み
(開示企業一覧表の公表、趣旨・留意点の再周知):本資料でご案内
(対応のポイント・取り組み事例の公表):2024年1月目途
(対応状況の集計・周知):2024年1月目途
★開示企業一覧表の公表について
(掲載項目):証券コード、企業名、市場区分、業種、要請に基づく開示
状況(開示済/検討中の別) 、英文開示
(開示状況の集計方法):直近開示のCG報告書からキーワードで抽出
(公表方法):日本取引所グループ ウェブサイトに、Excelファイル(日・英)を掲載
【日本語】https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/02.html
【英語】https://www.jpx.co.jp/english/equities/follow-up/02.html
(公表開始時期・更新頻度):初回2024年1月15日
(その後は、月末の状況を翌15日を目途に公表)
★今般の要請、一覧表に関する留意事項①/②
(要請の対象):全てのプライム市場・スタンダード市場上場会社
(コーポレート・ガバナンス報告書への記載)
:CG報告書において、「【資本コストや株価を意識した経営の実現
に向けた対応】」というキーワードとともに、開示している旨や
閲覧方法について記載
(「検討中」という開示を⾏う場合の留意事項)
(英文開示)
★参考︓一覧表掲載項目、CG報告書での開示のイメージ
※参考資料(上場会社の開示状況、投資家等からのフィードバック)
スライド4枚+3枚
■キーワード/まとめ
(背景・趣旨)
・「ROE8%未満」、「PBR1倍割れ」など「資本収益性や成長性といった観点で課題」がある企業に対し、
・「BSをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営」を実践することの要請
(対象・具体的な要請内容)
・プライム市場・スタンダード市場の全上場会社が対象
・「現状分析」「計画策定・開示」「取組みの実行」について開示と実行
・現状分析の指標
:資本コスト(WACC・株主資本コスト)
:資本収益性(ROIC・ROE)
:市場評価(株価・時価総額・PBR・PER)
・資本コストを上回る資本収益性を達成できていない場合には、その要因
・十分な市場評価を得られていない場合(「PBR1倍割れ」)、その要因
(開示の形式)
:具体的な書式なし
:コーポレート・ガバナンスに関する報告書に、開示している旨
や閲覧方法について記載
(要請を促進するため施策)
・東証による「開示企業一覧表の公表」(毎月更新。24年1月15日が初回。以降、各月15日。)
・対応のポイント、取り組み事例の公表
■所感
・企業にとっては、「開示企業一覧表の公表」は、かなりのプレッシャー。
・投資家としては企業調査にあたり、
・コーポレート・ガバナンスに関する報告書を参照。
・【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】を
キーワード検索し、開示している旨や閲覧方法を確認。
・該当文書を確認
の手順により、企業の状況や取り組みを確認できる。