【大学受験】過去問を"研究"せよ!【直前期】

 こんにちは、家庭教師のせむです。
 そろそろ過去問演習に取り掛かっている受験生も多いかと思います。
 今回は過去問演習について、巷でよく言われていることと、僕が独自に考えていることを、色々語っていこうと思います。
(上から下までバーーッと書いたらクソみたいな構成の記事になっちゃったけど、特に順番は変えません。我慢して読んでね)

1.過去問演習の意義

◆今後、二度と出題されない問題

 まず大前提となりますが、いちど出題された過去問が再度出題されるということは、基本的にありません。
 たま~~にまったく同じ問題が出るようですが、出たらちょっとしたニュースになるレベルの出来事です。

 こうした例外的な事象を除いて、過去問がそのまま用いられることは基本的にあり得ません。
(※※過去問が二度と出ないというのは入試に関する話です。資格試験などは話が別で、あちらは一定以上の知識がある受験者を全員合格にする仕組みであるため、過去問を数年分解けば全問題/話題が網羅できるようになっています)

 つまり、赤本とかいう分厚い紙の束は、「その大学では二度と出ない問題集」と言い換えることもできます。
 頻出分野では類題的な出題があるとはいえ、過去問演習が学力面での得点UPに直結するという甘い考えは持たないほうが良いです(本番の時間配分などの観点では得点アップにはなりますし、似たようなレベルの他大学の問題からドンピシャに近いレベルの類題が出ることは十分あり得ますが)。
 多くの子にとっては、過去問を解くよりも、一般的な問題集をきっちり仕上げたほうが、遥かに効率的&確実に学力を伸ばすことができます。

◆一般的には……

 それなのに何故ヒト(クソデカ主語)が過去問を解くのか?
 Googleの生成AIに聞いてみました。検索結果の要約をしてくれるAIです。
 尋ねるたびに微妙に内容が変わりますが、おおむね以下のようになります。

AI による概要
過去問演習を行うことで、次のような効果が期待できます。

・苦手や弱点を発見し、克服できる
・問題のパターンや出題傾向を理解できる
・知識が定着し、同じミスを繰り返さなくなる
・本番に自信を持って臨むことができる
・合格点までの距離(得点差)を知ることができる
・合格するために必要な課題をあぶり出すことができる
・学校ごとの入試傾向や形式をつかむことができる
・実戦的な時間配分の練習ができる

過去問演習では、解けない問題を自分の弱点と捉え、その問題を中心に復習することで、苦手をつぶしながら得点力を伸ばしていきます。また、過去問を繰り返し解くことで、知識の定着が図られ、同じミスを繰り返さないようになります。

過去問演習では、1年分につき3回は解き直すようにしましょう。「3年分を1回ずつ解く」よりも、「1年分を3回解く」ほうが学習効率と定着率がよいといわれています。

AI Overview(Google検索の生成AI)より

◆敗者のゲームを生き残れ

 じゃあ「お前の授業は過去問演習やってないんか?」という話になりますが、そういうことではありません。もちろん過去問演習はやります。
 ただし、僕の過去問演習に対する見解は、世間一般のソレとは微妙に異なります。思うに、過去問演習は「負けないための問題演習」なのです。

 過去問について注目すべき事実は、過去問は「その大学の受験生の(ほぼ)全員が解いたことがある問題である」ということです。
 よって、過去問の類題が出題されたとき、「これ見たことあるパターンかも!」となるか、「まったく分からん……」となるか、この2パターンの両極端に分かれます。合格者と不合格者、どっちがどのパターンに当てはまるかは、考えるまでもないでしょう。同様のことは、いわゆる頻出分野においても当てはまります。

 他の受験生(特に合格者)が全員解ける問題を、貴方は解けなかったとしましょう。
 この状況は非常に不利です。受験は勝負ですから、相手にリードを取られたら、相手が解けない問題を自分が解けない限り、その差を埋めることはできません。つまり、解くべき問題を1問落とした場合、(他のライバルが解けない問題を)1問解けば彼らに追いつき、もう1問解けば一歩抜きん出るというわけです。
 当然、これは現実的な話ではありません。合格者のほぼ全員が解ける問題を落とす受験生が、合格者でもなかなか解けない問題を2問も解けるわけがないからです。

 こうした状況を端的に表す言葉として、「敗者のゲーム」という言葉が用いられます。「相手を倒したら勝ち=勝者を決定するゲーム」ではなく「自分がミスしたら負け=敗者を決定するゲーム」、という意味です。

 巷で評価の高い先生/講師ほど「基礎を徹底的にやれ」と口を酸っぱくして言い、基礎的な鍛錬を徹底させます。その真意は、受験が敗者のゲームとしての性質を強く持つところにあります。
 先生の評価はおおむね人格面と学習面から為されると思いますが、特に学習面で高い評価を得ている先生は、基礎を習得する地道な作業を飽きさせずに/徹底的に実行させることができて、しかもそれらを入試問題に応用する術も身につけさせてくれる先生であると言えます。

2.「敗者のゲーム」と「勝者のゲーム」両方を同時に攻略できるような過去問演習はないんですか??

 さて、受験生の皆様におかれましては、本番も近づいてきて、徐々に焦りというものが芽生えてくる頃かと存じます。この頃の受験生は段々と余裕を失ってきて、アホで馬鹿で幼稚でワガママになるものです。ですので、僕らがどれだけ懇切丁寧理路整然単純明快に基礎の重要性を伝えても、口では「なるほど」と言いながら、行動は矛盾することが多々あります。

 例えば、入試本番の問題の中でも「難しい方」に焦点をあわせた学習に拘ってしまう子がいます。「受験が"勝者"のゲームである」という印象から抜け出せない子ですね。将来投資で一儲けしようとして、大失敗するでしょう。良い人生を。
 あるいは逆に、基礎の重要性を誇大認識して、あらゆる失敗の原因をすべて単語とか文法とか基本計算/立式のせいにして、無限に単語帳とかチャート例題ばっかりやってるような子もいます。「敗者のゲーム」の性質でビビりまくっている子です。給料の全額を貯金して死ぬまで独身を貫いてそう。良い人生を。

 どちらの側面が強く出るかは、その受験生の学力傾向によるところが大きそうです。
 例えば「勝者のゲーム」的な立ち回りは、得意科目がハッキリしている受験生に多いです。「数学極めて京大に行く!」と言っていた同級生が見事に爆死していたのを思い出します。

◆過去問を解くだけでなく、研究する

 第一志望の狭き門を巡る争いは熾烈を極めます。
 (ほぼ)すべての受験生が全力を尽くして、それでも勝者と敗者が生まれます。この闘いにおいて「敗者にならず、かつ勝者となる」ために僕が提案するのが、「過去問演習」ではなく「過去問研究」をしよう、ということです。

 ただ過去問を解くだけでなく、それを完璧に復習するだけでなく、過去問と似たような問題はどのようなものが考えられるか?この問題の本質はどこにあるか?というところまで押さえていくのが過去問研究です。
 すなわち、過去問研究は、「これ過去問でやったことある!」と感じられるような問題範囲を広げていく試みと言えます。そういった取り組みを、ここではカッコよく「アダプタビリティ」という横文字で表現してみましょう。

 これにより、過去問とソックリな問題が出題されれば勿論解けるハズですし、過去問とはやや見た目が異なる問題であっても、「これは結局アレと同じヤツだ!」と判断して解けるようになるわけです。
 上で述べたような「敗者のゲーム」に対する十全な対策になると同時に、過去問の頻出分野については他の受験生よりも高度で有機的な学力を得ることができるという点で、「勝者のゲーム」的な戦略の側面も併せ持つことになります。

 ちなみに、この研究が特に有効なのが数学・理科・社会です。
 国語と英語は「読めれば勝ち」みたいなところが強く、多くの問題に当たるほうが効率的っぽいです。

◆研究手順/類題へのアダプタビリティ

 ここで「類題」にどのようなものがあるか分析してみます。
 まずは分析はおもに4つの手順に分けられます。

  1. 問題の解法で用いている基本的な知識・計算を確認

  2. 似たような見た目の問題、同じ解法を用いる問題を確認

  3. 関連問題もできれば確認

  4. 全体像解きはじめから解答終了までの立ち回りや構成が似ている問題がないか確認(難しい)

 1~3は基本的なところなので、まずはここを押さえてください。
 4については、言語化が難しかったり、思わぬところで共通点があったりするので、見つけ出すのが難しいかもしれません。問題の見た目や分野だけでは判断がつかないものもありますので、多くの問題を解いてから改めて4に戻ってくる(入試直前)でも良いかも。ただやはり、類題としての受け皿を広く持つことが過去問研究の本質ですので、1~3だけでは最終的に物足りなくなります。4に対するアンテナも常に磨き続けておきましょう。

3.実際の分析例

 ほんの少しだけ…(一応これで給料貰ってるようなモンなので、あまり詳しくは書きませんが……実際の授業ではさらに2~4問くらい紹介しています)
 よければ実際に解いてみてください。難関大志望は題材→類題へ、普通の大学志望は題材の解説を軽く読んだ上で、類題→題材(解き直し)と進むのが良いかと思います。(著作権の問題上、解答は載せることができませんので、答えについては各自で調べてください)

◆分析例1.東大文系(対数)

 2024東大文系の問題を例に取ります。

過去問研究の題材
東大・2024(文系)

 常用対数を用いて桁数を考察する問題です。(1)は基本ですが、(2)で明暗が分かれました。
 解答は各自で調べて頂くとして、この問題の発想としては、(1)で$${n=28}$$ということがわかっていますので、「$${5^{28}}$$と比べて$${4^{28}}$$は豆粒程度に小さいから、結局$${m=28}$$が答えなのでは??」と見当をつけるところが肝要でした。
 つまり、解答の道筋を見つけるためには数の大きさに対する素朴な考察が要求されていたというわけです。

 さて、ここから問題の要素を分解していきましょう。
 まず、今回の問題のキーとなる基本事項として、チャート例題レベルの常用対数の問題を用意しました。
 今回は忘れがちな「最高位の桁数」に関する話題もセットで含まれた大問です。最高位の数については6月のマーク模試のⅡBで出題されていたような?気がしますが、皆さん解けましたかね?手薄なまま放置してませんか?

問題①
県立広島大・2016
基本事項の確認(周辺事項も添えて)

 今回の東大の出題では、logの値が不等式によって与えられています。
 文系数学では不等式評価は結構レアなため、いつもの具体的に代入して計算するやつとは違って戸惑った人も多そう(今回のやつはだいぶ基本的なやつではありましたが)。
 以下は、不等式評価の式変形が怪しい人向けの基本問題です。

問題②
新潟大・2012
不等式による評価の練習(超基本的な式変形ですが…)
無理数の証明もセット

 ここまでが(1)の問題についての類題です。
 もとの問題も常用対数を取るだけのシンプルな問題で、解法に迷う余地がないため、紹介できる問題もそう多くはありません。

 さて、東大対数(2)で決め手となったのは、数の大きさに対する感覚です。ここも類題で感覚を養っておきたいところです。一応、この東大の問題はオリジナルではなく、全く同じ問題(数字だけ異なる)が他大学でも出題されていますが……。
 過去問研究の目的として、「類題へのアダプタビリティの拡充」がありました。全く同じ問題だと、類題認識の受容性は鈍いままで、過去問を研究する甲斐がありません。
 そのあたりを意識して、ここでは以下の問題を類題として提示しておきましょう。

問題③
和歌山県立医科大・2023

(1)(2)ともに、「多分答えはこれだろうなあ」といった考察が決め手になるという点で、東大対数(2)に近い雰囲気を持った問題です。

(1)では、「最小値って1じゃね?→1になるか確かめてみよう」という、数に対する素朴な感覚が重要になってきます。
(2)では、「答えは絶対値の場合分けの分かれ目付近だな(kの関数がV字型になるため)」というふうに見当をつけることで、絶対値処理を省いて、k=0付近を具体的に調べるだけで済ませることが可能です。

◆2.模試の問題も

 模試の問題も、多くの受験生が触れているという点で、敗者のゲームの論理が強く働きます。当然、研究の成果が入試結果に強く現れるハズです。
 模試の問題を掲示するのは著作権上アレなので掲示しませんが、今回は2024夏の全統記述の数列の問題を例にとって研究してみましょう。

 $${a_n}$$と$${S_n}$$、$${b_n}$$と$${T_n}$$が入れ違いの形となった連立漸化式の問題です。覚えてますか?
 文理共通問題で、(2)以降の出来の差が大きかった問題です。解けた子は完答、解けなかったら(1)だけ解いて5点くらいかな?皆さんはどうでしたか?

 解法はシンプルで、結局のところは「$${S_n}$$の漸化式は、1項ズラした式を用意して両辺の差を取れ」という話でした。見た目では間違いなく初見ですが(少なくとも僕はこういう入れ違いの和の連立漸化式は見たことがないです)、解法の方針自体はわかりやすかったと思います。
 方針通りに手を動かせた子は(2)を完答し、そのまま(3)まで解きったことでしょう。(2)と(3)の成否がセットになっており、実質的に1問40点のクソデカ問題だったわけです。

 類題を用意してみます。特に悔しかった(2)について2問と、実際に連立漸化式を解く(3)について1問です。
 まずは(2)の類題から。

問題①
信州大・繊維(後)2023
問題②
横浜国立大・2016

 大事なのは、「漸化式で$${S_n}$$が見えたら$${S_{n+1}}$$から引いてみる!」という教訓と、それを実行する強い意志です。問題は"解く"のではなく"解き進める"という意識を強く持って、原則に従った式変形をする習慣をつけましょう。

 連立漸化式を実際に解く(3)でも、詰まった受験生がいるかもしれません。
 連立漸化式にも様々なパターンがありますが、今回は無理数のn乗がらみの問題で1問持ってきました。

問題②
昭和薬大・2013

 連立漸化式を立式し、実際に解くまでの問題です。
 無理数をn乗した値に関する問題で実際に漸化式を解かせるパターンは実は少し珍しい気もします。

◆こんな研究の仕方には要注意

 ここまで丹念に問題を研究し、類題演習の幅を広げることを語ってきました。
 最後に、逆効果となる研究の仕方にも触れておきましょう。結論から言ってしまえば、「高度すぎる研究」は個人的に逆効果だと考えています。

 例えば関数の性質や整数の話題などは、大学で学ぶ事実・定理を背景に持つものも少なくありません。実際、例えばただの数列の問題だと思ったら、調べてみたらよくわからない用語でカテゴライズされている、なんてことはよくあります。
 授業では問題の背景知識として大学数学の内容を教えてもらうことがあるかと思いますが、それはあくまで背景知識です。問題を解く上で必ずしも必要な知識ではありませんし、少なくとも入試数学においては、それらの知識を活用できる場面はけっこう限られていますので、無理に覚えなくても良いです。

 大事なのは、解法や発想を体系的に理解することと、基本事項を徹底的に理解することです。入試を突破するためには、数学オタクになるのではなく、数学が解ける人になれ、ということですね。

4.まとめ/何を研究したら良い?

 もう上の方でも色々言っていますが、何をどうやって研究していけばよいのか、繰り返しになる部分もありますが、まとめとして述べておきます。

 まず、過去問演習をする理由としては、入試では敗者のゲームの性質が強く出るから、ということでした。絶対に落とせない問題をもし落としたら、挽回するのが非常に難しい、という話でしたね。
 そして、過去問演習→過去問研究をする中で、類題に対する嗅覚=アダプタビリティを鍛えることとなり、その結果「絶対に落とせない問題」の解法の中に「解けたら嬉しい問題」に対する攻略法も見い出すことができるようになる、という話でした。

◆どの問題を研究する?

 こうした過去問研究が特に有効なのは、科目としては数学>理科・社会>英語>国語 です。
 数理社は過去問がそのまま出たら絶対に落とせませんので、研究は必須です。その上で関連知識を覚えることで、過去問に対する理解だけでなく、頻出分野に関する知識・思考力が有機的に育っていきます。
 英・国は「読めれば解ける」という側面が強いため、研究はあまり有効ではないかもしれません。

 さて、実際に研究する題材としては、以下が考えられます。

  • 志望校の過去問

  • 志望校と同レベルの他大学の過去問

  • 模試の問題

 志望校の過去問だけでなく、下2つの研究も積極的にやってみてください。
 同レベル他大学についてはそこまで厳密に捉えず、適当に選んでOKです。志望校に強いこだわりがあるのなら、志望校の頻出分野に絞って、他大学問題でさらなる研究を積むなどでも良いでしょう。

 また、敗者のゲームの理論のもとでは、受験生ほぼ全員が受けている模試の問題の研究にも、大いに意味があります。
 例では普通の全国模試の問題で研究しましたが、本当にコレが一番効くのは冠模試です。そもそも冠模試の問題はその年の入試の予想問題でもありますので、それを丹念に研究することで、本番の得点力をしっかり伸ばしていけることは間違いありません。

 東大2024の問題で研究した通り、普遍的なテーマ(今回の例で言えば、数に対する感覚)を問題の核心として見いだせた場合、数多くの問題に応用することができるようになります。本番の得点力はもちろんのこと、これから入試までの4ヶ月弱の学習の効率や、得られる成果・気付きにも大きな差が生まれるハズです。
 核心を実際に見つけられるかどうかはわかりませんが、その意識を持っていなければ、見つけることは不可能です。問題を解く際には、まずはそういった意識付けからやっていくことが大切でしょう。


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