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10クラ 第39回 静謐な光彩
10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
00:00 | 00:00
第39回 静謐な光彩
2022年8月5日配信
収録曲
♫クロード・ドビュッシー:『映像第2集』より第2曲「そして月は廃寺に落ちる」
オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」
演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)
プログラムノート
一音鳴った瞬間に、フッと異世界に誘い込まれる音響が人それぞれにあることと思う。ほんの僅かな発声であっても惹き込まれる歌声が、私には確実にある。音楽に限らなくても声は不特定多数の人々から個人を認識するツールでもあり、極端な話、姿も顔も変えて逃亡していた指名手配犯が声によって発見された例もあるほどだ。人によって聞き取りやすい音の高低も違えば、よく通る声のほうが聞き取りやすい人と、ややくぐもった声のほうが受け取りやすい人など、本当にさまざまであると思う。さらには自分は確実にこの音を認識できる、と自覚している音のほかに、どうして聞こえたのだろう?と思えるような意外性も日常茶飯事起こるわけで、私はこの時の説明し得ない感覚を、「感動」の感覚に共通する「不思議」なのではないかと疑っている。科学でも経験でも処理しきれないものがこの世には多数存在し、そのようなものへの疑似体験、あるいはその「なにものか」の再体験を追い求め続けたいという欲求がまた、芸術の発端でもあるのではないだろうかと。
今回の「そして月は廃寺に落ちる」の第一音は、私にとって毎回異世界に連れて行ってもらえる音響である。ピンと張り詰めた、冴え渡った和音はエコーを奏で、シルクロードの国々の「未知なる月と寺院」を描いていく。ドビュッシーはジャポニズムブームの真っ最中を生き、その神秘性に魅せられた作曲家である。インド、あるいはカンボジアなど、アンコールワットのような建造物を思い描いていたと言われる。ドビュッシーは実際にはその地を訪れたことがないが、日本や中国の置物や絵画のコレクションがあるように、インド方面への興味も絶えなかった。前奏曲集第1巻の「沈める寺」での建造物の描写のように、この作品でも縦のラインの芸術性、それを緻密に重ね合わせていく職人技が巧みに光る。静けさのなかに無数の光の傾きがあり、月の位置が僅かに変わるたびに生まれる色彩の変化を見逃さない。その微妙な濃淡は、常に薫り高い感動を誘う。
2022年8月5日配信
収録曲
♫クロード・ドビュッシー:『映像第2集』より第2曲「そして月は廃寺に落ちる」
オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」
演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)
プログラムノート
一音鳴った瞬間に、フッと異世界に誘い込まれる音響が人それぞれにあることと思う。ほんの僅かな発声であっても惹き込まれる歌声が、私には確実にある。音楽に限らなくても声は不特定多数の人々から個人を認識するツールでもあり、極端な話、姿も顔も変えて逃亡していた指名手配犯が声によって発見された例もあるほどだ。人によって聞き取りやすい音の高低も違えば、よく通る声のほうが聞き取りやすい人と、ややくぐもった声のほうが受け取りやすい人など、本当にさまざまであると思う。さらには自分は確実にこの音を認識できる、と自覚している音のほかに、どうして聞こえたのだろう?と思えるような意外性も日常茶飯事起こるわけで、私はこの時の説明し得ない感覚を、「感動」の感覚に共通する「不思議」なのではないかと疑っている。科学でも経験でも処理しきれないものがこの世には多数存在し、そのようなものへの疑似体験、あるいはその「なにものか」の再体験を追い求め続けたいという欲求がまた、芸術の発端でもあるのではないだろうかと。
今回の「そして月は廃寺に落ちる」の第一音は、私にとって毎回異世界に連れて行ってもらえる音響である。ピンと張り詰めた、冴え渡った和音はエコーを奏で、シルクロードの国々の「未知なる月と寺院」を描いていく。ドビュッシーはジャポニズムブームの真っ最中を生き、その神秘性に魅せられた作曲家である。インド、あるいはカンボジアなど、アンコールワットのような建造物を思い描いていたと言われる。ドビュッシーは実際にはその地を訪れたことがないが、日本や中国の置物や絵画のコレクションがあるように、インド方面への興味も絶えなかった。前奏曲集第1巻の「沈める寺」での建造物の描写のように、この作品でも縦のラインの芸術性、それを緻密に重ね合わせていく職人技が巧みに光る。静けさのなかに無数の光の傾きがあり、月の位置が僅かに変わるたびに生まれる色彩の変化を見逃さない。その微妙な濃淡は、常に薫り高い感動を誘う。
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