10クラ 第52回 芽吹きのとき
10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
00:00 | 00:00
第52回 芽吹きのとき
2023年2月24日配信
収録曲
♫ルチアーノ・ベリオ:芽(『6つのアンコール』より 第5曲)
♫ロベルト・シューマン:孤独な花(『森の情景』作品82より 第3曲)
オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」
演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)
プログラムノート
初めてその音響を耳にしたとき、これは音楽なのかと目を白黒させたことをよく覚えている。高校生のときだった。その衝撃的な時間が頭から離れず、この正体をいつもどこかで渇望するかのように音楽を追ってきた。それは、かの社会人類学者であるレヴィ=ストロースの金字塔とも言える書『生のものと火を通したもの』が語られる。その後もキング牧師の言葉、聞いたこともないようなノイズが混ざり合い、シェーンベルク、マーラー、ドビュッシー、アルバン・ベルク…などのさまざまな作曲家の作品が見え隠れする。
精神、自由、幻想、そして必然-レヴィ=ストロースの書に再三現れるこれらの言葉は、ベリオをはじめジョン・ケージ、オリヴィエ・メシアンが音楽で提示した「偶然と必然」の関係性、そこから生まれくる-或いは回帰する-精神性へと繋がるように思う。文化の発信は綺麗ごとには留まらず、辛辣な社会風刺、人としてあるべき姿への自律、自己中心的な思考回路からの脱出等、非常に内容深く在りたいと常々感じている。
さて、その織り交ざった楽曲-ここで取られている書法を「コラージュ」と呼ぶことを間もなく知った。その作品はルチアーノ・ベリオの『シンフォニア』といった。この人の音楽を、自らの手で発信できるときが来るのだろうか-どこか憧れのようなものを持ち続けていたように思う。15年近く経ち、ようやくベリオ作品を弾こうと手が伸びた。批判されようとも屈することなく独自の実験をし続けたベリオの代表作『シンフォニア』とライフワーク『セクエンツァ』が盛んに書かれていた時期のピアノ作品『6つのアンコール』である。
今回ピックアップする『芽』は、静けさのなかにポカリと浮かび上がる大地、まだ誰からも踏まれたことのない柔らかな土、自然の水滴、陽の光をかすかに纏ったひんやりとした風、そこに芽吹くひとつの命-映像として極めて美しい描写が目に浮かぶようである。楽譜からも、大地の線は一本中央にあり、土の上の芽と、土の下の根が同じように象徴的な「3つの同音」によって示されているような、緻密な書式の魅力を感じ取れる。
組み合わせには、同じく「誰も知らない森のなか」のようなシューマンの『森の情景』から、甘美で味わい深い『孤独な花』を選曲した。精神的な世界は、自由であり、幻想的であり、非情な支配にも侵されることがない。そこでの音楽の対話は、学びがあり思考があり、「生きる」という尊さがあるように思う。
2023年2月24日配信
収録曲
♫ルチアーノ・ベリオ:芽(『6つのアンコール』より 第5曲)
♫ロベルト・シューマン:孤独な花(『森の情景』作品82より 第3曲)
オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」
演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)
プログラムノート
初めてその音響を耳にしたとき、これは音楽なのかと目を白黒させたことをよく覚えている。高校生のときだった。その衝撃的な時間が頭から離れず、この正体をいつもどこかで渇望するかのように音楽を追ってきた。それは、かの社会人類学者であるレヴィ=ストロースの金字塔とも言える書『生のものと火を通したもの』が語られる。その後もキング牧師の言葉、聞いたこともないようなノイズが混ざり合い、シェーンベルク、マーラー、ドビュッシー、アルバン・ベルク…などのさまざまな作曲家の作品が見え隠れする。
精神、自由、幻想、そして必然-レヴィ=ストロースの書に再三現れるこれらの言葉は、ベリオをはじめジョン・ケージ、オリヴィエ・メシアンが音楽で提示した「偶然と必然」の関係性、そこから生まれくる-或いは回帰する-精神性へと繋がるように思う。文化の発信は綺麗ごとには留まらず、辛辣な社会風刺、人としてあるべき姿への自律、自己中心的な思考回路からの脱出等、非常に内容深く在りたいと常々感じている。
さて、その織り交ざった楽曲-ここで取られている書法を「コラージュ」と呼ぶことを間もなく知った。その作品はルチアーノ・ベリオの『シンフォニア』といった。この人の音楽を、自らの手で発信できるときが来るのだろうか-どこか憧れのようなものを持ち続けていたように思う。15年近く経ち、ようやくベリオ作品を弾こうと手が伸びた。批判されようとも屈することなく独自の実験をし続けたベリオの代表作『シンフォニア』とライフワーク『セクエンツァ』が盛んに書かれていた時期のピアノ作品『6つのアンコール』である。
今回ピックアップする『芽』は、静けさのなかにポカリと浮かび上がる大地、まだ誰からも踏まれたことのない柔らかな土、自然の水滴、陽の光をかすかに纏ったひんやりとした風、そこに芽吹くひとつの命-映像として極めて美しい描写が目に浮かぶようである。楽譜からも、大地の線は一本中央にあり、土の上の芽と、土の下の根が同じように象徴的な「3つの同音」によって示されているような、緻密な書式の魅力を感じ取れる。
組み合わせには、同じく「誰も知らない森のなか」のようなシューマンの『森の情景』から、甘美で味わい深い『孤独な花』を選曲した。精神的な世界は、自由であり、幻想的であり、非情な支配にも侵されることがない。そこでの音楽の対話は、学びがあり思考があり、「生きる」という尊さがあるように思う。
いいなと思ったら応援しよう!
クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。
深貝理紗子
https://risakofukagai-official.jimdofree.com/