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10クラ 第41回 いつも手元に

10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
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第41回 いつも手元に

2022年9月9日配信

収録曲
♫ロベルト・シューマン:トロイメライ

オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」

演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)


プログラムノート

 シューマンの安心感はどこから来るのだろうと考えると、やはり彼が情緒不安定になるほど敏感で感受性の強い人物だったから、と言えるような気がする。彼の音楽は実に人間臭い。その感受性の強さから、シューマンの音楽を聴くと体調が悪くなる、という人もいるほどだ。たしかに浮き沈みの激しい部分や狂気的なエネルギー、反対にどこまでも深みにのめり込んでいくような沈鬱さは病的ですらある。私にとっては、その苦悩するもがきを経た幸福は勿論のこと、いじいじする様子、思いっきり泣いたり笑ったり、元気になってみたり疲れてみたり…真っ正直な感情表現を持った「人間」の家に帰ったような安堵感がある。外に出せないことも受け入れてくれる、共に泣き、共に笑い、共に頑張ってくれるような、そばにあってほしい音楽である。
 夢や夢想、幻想を意味する『トロイメライ』はシューマンのオイゼビウス的(内向的・内省的)作品であり、気が付く人にだけ気が付く仕掛けがたくさん施されている。語弊を恐れずに言うならば、トロイメライのように内省的な作品を聴くのが億劫な人は、とても心が健康だと思う。緩徐楽章にしてもそうだし、ノクターンのような作品も同様にそう思う。私はそういった音楽のほうが昔から好きだった。ここにいれば、誰のことも傷つけないし、変に気持ちがざわつくこともない-つまり「逃げ場」。少なからず文化に魅せられたことのある人は、心の置き所を探しているのではないだろうか。文化のなかでは自由だ。自己流の破壊と創造もできる。それを許容してくれる土台がある。
 現代のスピード社会のなかで、そして日々の多忙のなかで、気が付かないうちに「自分」をどこかに置き忘れてしまうことがあるだろう。でももしそこで虚無を感じたなら、文化の入り口が隣にある。自分で気が付けるうちは、そうして自分軸を取り戻せる。もし、すこしでも自分の発信に効力を持てる時があるのなら-それを一生のうちに一瞬でもあることを願って続けているのだが-その「文化の入り口」に気付いてもらうきっかけ作りとなれば、この上ない幸せである。

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musiquartierーピアニスト深貝理紗子のミュジカルティエ
クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/