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【10クラ】第15回 風のように色を誘い

10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
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第15回 風のように色を誘い

2021年7月9日配信

収録曲
♫フランシス・プーランク:《6人組のアルバム》より「ワルツ」 ハ長調 FP.17
♫フランシス・プーランク:《3つの小品》より 第3曲「トッカータ」 イ短調 FP.48

オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」

演奏&MC :深貝理紗子(ピアニスト)


プログラムノート

さらりと通り抜けて、それは魅惑の香りを置いていく。
透明の軽さと見せて、それは複雑な色彩を放出する。

語る言葉がシンプルになるほど、趣の出ることがある。そんな歳の重ね方をしてみたいと思う。

彼は多くを語らない。
至って端正な音列はモーツァルトを愛した人間の描いた手紙。

ベタベタと歌いまわさない品の良さは都会の現代っ子、ふと孤独の薫る色と香りは知性の表れ。

あからさまに同情を買う者に教養を感じる人はいないだろう。
あるところで人は気がつくはずだ。
誰もがそれぞれの痛みを持ち、それぞれが愛されるべき存在であり、人は人の所有物になることはなく、人は人それぞれの選択で生きる。
それぞれが孤独だという点でみな同じだと綴った人もいる。

影の部分に痛みを垣間見た時、フランス音楽の人間らしさに触れられることと思う。そこに一度ハマったら、いつも密かに手元に置いておきたくなる。これがあれば、自分は「酔う」ことができる、と。

酔い―
これはフランス音楽だけでなく、フランス文化人のテーマにも掲げられる言葉だ。この裏側を追求するだけでも、一生涯では足りないほど深い泉が待っている。少なくとも私は、踏み込めるだけ踏み込んでみたいと思っている。

プーランクの潔さはいつも清々しい。
絶対に本心を見せないようなからかいようではないか。

洒脱なリズムと繊細な旋律線は洗練された美意識を思わせる。製薬会社創設の父とピアノを嗜む母のもと、師にも友にも恵まれて育った。

評論家アンリ・コレ氏の記事「コメディア誌」で紹介された仲良し音楽家は、氏によって《フランス6人組》と呼ばれた。
サティもまた彼らに興味を示し、かのジャン・コクトーも《ル・コック》で期待を寄せた。

《6人組》と呼ばれつつも独自の活動をし続け合ったプーランク、オネゲル、ミヨー、タイユフェール、デュレ、オーリックはそれぞれに過干渉するわけでもなく、疎遠になるわけでもなく、戦争の暗い影がおとされた時代に温かな「花」を添えた。

崩壊に向かう「調性音楽」のなかで、心地よさを保ったプーランクの音楽は、前衛ではなかったにせよオリジナリティに満ちている。
機敏な動きの中に、ため息が聞こえてくる。

全く違う時代を生きているのに、懐かしさを感じるのはなぜだろう。
安心できるひとときをくれるのはなぜだろう。

それはやはり「人間臭さ」にあるのではないか。
煙の充満する頽廃の時代に、必死に生きる等身大の人間がいる。
それに励まされ、居心地の良さを感じる。

音楽は、作曲者からの手紙である。
語った言葉の彩り。ほのかに香る余韻。

なんて素敵な贈り物だろうか。

クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/