【10クラ】第30回 絡み合い、語り合う
10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
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第30回 絡み合い、語り合う
2022年3月25日配信
収録曲
♫マヌエル・デ・ファリャ:組曲『恋は魔術師』より「魔法の輪」
♫イサーク・アルベニス:『エスパーニャ』より 第2曲「タンゴ」
オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」
演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)
プログラムノート
言葉多くなくとも、深みを感じるものがある。
「行間を読む」と似ている「沈黙の汲み取り」が、私は好きだ。
押しつけがましいものは窮屈で、理攻めにしたものは風情が無く、一から十まで決められた道を用意されては、自由が無くて歩けない。
なにが香るかといえば、余韻がそれである。
フランスのとある香水職人は言った。
「夜、なにも香らない暗闇のなかに、魅力を感じるか?」
愛の作品は山ほどある。
愛から作品が生まれると言っても良いだろうし、失った愛からもまた、多くの作品が生まれるだろう。
今回の主役は、そっと囁くような大人の「愛」である。
どちらの作品も旋律線が絡み合い、ゆったりと、一歩一歩語り合う。
語り合うことを急がない。
いちいち気持ちを確認し合うなどしない。
離れる時期がもし来るのなら、それをもそっと受け入れる。
そんな味わい深さのある「香り」が浮遊する。
アルベニスはスペインブームをいち早くパリ(当時の芸術運動の中心地)に持ち込み、作曲家としても指導者としても重要な役割を果たした。
当時旧体制にあったパリ音楽院に対して、新しい教育活動を掲げて創設されたスコラ・カントルム音楽院でも教鞭をとった。校長のヴァンサン・ダンディとともに「拓かれた教育体制」を整えた人物である。その名は現在も偉大な音楽家として、音楽院の一室に掲げられている。
アルベニスに続き、スペインからは2人の天才が現れた。
ピアニストとしても華々しく活躍したグラナドスはまた、美しく煌びやかなメロディを残した。サン=サーンスやイザイとも共演を重ね、スペインの教育界においても多大な功績を残した。
グラナドスが48歳の時の悲劇は、スペイン出身の音楽家、教育界のみならず、当時のクラシック音楽界に激震を走らせた。
大人気だったグラナドスの名は海を渡りアメリカまで轟き、メトロポリタン歌劇場で初演奏。その後、あまりの評判に急遽ホワイトハウスでの演奏が入ったため、帰国日程を変更。その帰り道の船旅、第1次世界大戦の影響からドイツ軍の魚雷に遭遇し、命を落とした。一時は救命ボートに乗せられたものの、溺れかけている妻を助けるために海に飛び込んだという。
この突然の悲劇に大きなショックを受け、その一方で覚悟をも与えられたのが、後輩のファリャである。
これまで背中を追ってきた恩人に代わり、スペインという国を背負い、劇作家やフラメンコ界から「スペイン音楽の保持」を託された。
フランスの音楽家―たとえばデュカス、ドビュッシー、ラヴェル、プーランクといった人物とも良好な関係を築き、芸術の革命団体とも見受けられるバレエ・リュス(ディアギレフ率いるロシアバレエ団)からのラブコールもあり、着実に足元を固めていたファリャは、自身の作風を「スペイン人としての誇り」をかけて確立した。
ずっと自分に自信が持てなかったファリャは、大切な先輩の悲劇によって覚醒した、といったところだろうか。
以降その独創性、色彩感、光る感性を発揮して活動を広げていった。
大切なもの-
多様に絡み合ったものも、いつかは孤独の道を行く。
そのときになにが残っているだろうか。
個々人の歴史に、それぞれの複雑さが刻まれる。
その刻みを抉ってほしいとは思わない。
だから私も、人の心を抉ろうと思わない。
だんだん、言葉が少なくなる。
シンプルさに、深さが宿る。
音楽は人が綴った言葉である。
乱用することも、浪費することも、決して出来ない「愛」の刻みが、そこにある。
2022年3月25日配信
収録曲
♫マヌエル・デ・ファリャ:組曲『恋は魔術師』より「魔法の輪」
♫イサーク・アルベニス:『エスパーニャ』より 第2曲「タンゴ」
オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」
演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)
プログラムノート
言葉多くなくとも、深みを感じるものがある。
「行間を読む」と似ている「沈黙の汲み取り」が、私は好きだ。
押しつけがましいものは窮屈で、理攻めにしたものは風情が無く、一から十まで決められた道を用意されては、自由が無くて歩けない。
なにが香るかといえば、余韻がそれである。
フランスのとある香水職人は言った。
「夜、なにも香らない暗闇のなかに、魅力を感じるか?」
愛の作品は山ほどある。
愛から作品が生まれると言っても良いだろうし、失った愛からもまた、多くの作品が生まれるだろう。
今回の主役は、そっと囁くような大人の「愛」である。
どちらの作品も旋律線が絡み合い、ゆったりと、一歩一歩語り合う。
語り合うことを急がない。
いちいち気持ちを確認し合うなどしない。
離れる時期がもし来るのなら、それをもそっと受け入れる。
そんな味わい深さのある「香り」が浮遊する。
アルベニスはスペインブームをいち早くパリ(当時の芸術運動の中心地)に持ち込み、作曲家としても指導者としても重要な役割を果たした。
当時旧体制にあったパリ音楽院に対して、新しい教育活動を掲げて創設されたスコラ・カントルム音楽院でも教鞭をとった。校長のヴァンサン・ダンディとともに「拓かれた教育体制」を整えた人物である。その名は現在も偉大な音楽家として、音楽院の一室に掲げられている。
アルベニスに続き、スペインからは2人の天才が現れた。
ピアニストとしても華々しく活躍したグラナドスはまた、美しく煌びやかなメロディを残した。サン=サーンスやイザイとも共演を重ね、スペインの教育界においても多大な功績を残した。
グラナドスが48歳の時の悲劇は、スペイン出身の音楽家、教育界のみならず、当時のクラシック音楽界に激震を走らせた。
大人気だったグラナドスの名は海を渡りアメリカまで轟き、メトロポリタン歌劇場で初演奏。その後、あまりの評判に急遽ホワイトハウスでの演奏が入ったため、帰国日程を変更。その帰り道の船旅、第1次世界大戦の影響からドイツ軍の魚雷に遭遇し、命を落とした。一時は救命ボートに乗せられたものの、溺れかけている妻を助けるために海に飛び込んだという。
この突然の悲劇に大きなショックを受け、その一方で覚悟をも与えられたのが、後輩のファリャである。
これまで背中を追ってきた恩人に代わり、スペインという国を背負い、劇作家やフラメンコ界から「スペイン音楽の保持」を託された。
フランスの音楽家―たとえばデュカス、ドビュッシー、ラヴェル、プーランクといった人物とも良好な関係を築き、芸術の革命団体とも見受けられるバレエ・リュス(ディアギレフ率いるロシアバレエ団)からのラブコールもあり、着実に足元を固めていたファリャは、自身の作風を「スペイン人としての誇り」をかけて確立した。
ずっと自分に自信が持てなかったファリャは、大切な先輩の悲劇によって覚醒した、といったところだろうか。
以降その独創性、色彩感、光る感性を発揮して活動を広げていった。
大切なもの-
多様に絡み合ったものも、いつかは孤独の道を行く。
そのときになにが残っているだろうか。
個々人の歴史に、それぞれの複雑さが刻まれる。
その刻みを抉ってほしいとは思わない。
だから私も、人の心を抉ろうと思わない。
だんだん、言葉が少なくなる。
シンプルさに、深さが宿る。
音楽は人が綴った言葉である。
乱用することも、浪費することも、決して出来ない「愛」の刻みが、そこにある。
クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/