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10クラ 第57回 言葉のないロマンス -マスネ&フォーレ生誕日-

10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
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第57回 言葉のないロマンス
 -マスネ&フォーレ生誕日-

2023年5月12日配信

収録曲
♫ジュール・マスネ:ノクターン(10の小品集 作品10より 第1曲)
♫ジュール・マスネ:古き歌(10の小品集 作品10より 第7曲)
♫ガブリエル・フォーレ:言葉のないロマンス 作品17より 第3番

オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」

演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)


プログラムノート

 ショパンやシューマン、メンデルスゾーンが数年余でこの世を去ろうとしている時に、時代の過渡期を彩る人材が生まれた。各地で勃発する革命は社会を変え、音楽家の在り方も大きく変えていく。更に戦争の相次ぐ混沌とした時代に突入していき、文化全体の流れは大きく変貌した。その激動の時代の流れとともに、柔軟な対応力を発揮したのはガブリエル・フォーレだった。彼はそれまでの主流である貴婦人・パトロン的サロンとも良好に関係を保ち、一方でオルガニストという伝統をも引き継いでいる。新しいこととして、フランス独自の文化の復興と存続を掲げて音楽家たちの活動・勉強の場を担うことになる重要機関・国民音楽協会の取り組みや、教育機関でのカリキュラム設置など、活動は多岐にわたる。そのようなフォーレは初期にはその時代らしい様式で甘美な作品の数々を発表し、戦争の影も濃くなる後期に至っては、まるでシュールレアリスムを先取りするかのように調性への冒険に舵を切る。今回取り上げる『言葉のないロマンス』は、まだ若かりし頃-作曲年は10代とみられている-に書かれた作品で、歌曲風の甘美な旋律とポリフォニーの書法は、メンデルスゾーンを彷彿とさせるものである。これが書かれたとされる1863年は、日本では新選組が結成されたり、高杉晋作の奇兵隊が結成されたりした時期だ。若いエネルギーが各地でぶつかり合う、動乱の時代だったことと想像する。
 今回共にピックアップするマスネの『10の小品集』はその3年後、1866年に書かれている。マスネはフォーレより3歳年上で、フランスオペラを確立させた一人として重要な人物である。彼はこれを書いたのち普仏戦争へと従軍し、しばらく音楽活動から離れることになる。マスネといえば『タイスの瞑想曲』がポピュラーだが、その甘美な旋律が大人気を博す一方、題材の際どさは当時から賛否両論あったとされる。若くしてローマ賞を受賞するなどエリート街道を歩んできた人物でもあり、オペラやバレエなど、規模の大きな舞台作品を数多く手がけた。ピアノ作品はそこから見ると軽視されがちだが、彼の作風をコンパクトに知ることのできる「宝庫」とも言える。この『10の小品集』などは古典的なスタイルも取り入れていて、それは間もなく流行を迎える「バロック懐古」へと繋がるものではないだろうか。ドビュッシー、ラヴェル、プーランクもそうであったように。ひとつ年上のシャブリエ、9つ年下ではあるが後にフランス音楽界の重鎮となるヴァンサン・ダンディは「硬派」なスタイルだったために、彼やフォーレとはやや趣が違っていることを述べておきたい。教育においても、フランス音楽界の今後においても、熱い議論を重ねた人物たちだ。ただしそのいずれもが、良くも悪くもワーグナーから「離れる」ことをしなかった。それは後のドビュッシーの「ワーグナー呪縛」にも通じていくのかもしれない。いや、もしくはその誰もが、呪縛から解き放たれることが「できなかった」のか。ワーグナーが音楽の枠を超え、フランス文化人にとってどれほどの存在だったのかは、ボードレールの『音楽』を捲ってみてほしい。

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musiquartierーピアニスト深貝理紗子のミュジカルティエ
クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/