【10クラ】第9回 音のスケッチブックから
10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
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第9回 音のスケッチブックから
2021年4月9日配信
収録曲
♫エマニュエル・シャブリエ:10の絵画風小品より《スケルツォ・ワルツ》
オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」
演奏&MC:深貝 理紗子(ピアニスト)
プログラムノート
19世紀のフランスで生まれた音楽の頽廃的な空気は、人々を魅了する。
なぜなら、煌びやかな「ベル・エポック」の裏側には孤独なため息が充満し、人間の儚さと苦しみが共存しているからだ。
心に抱えたものをあからさまにはひけらかさず、光を描き、歌を紡ぎだした文化人たちの産物は、奥深い美に満ちている。
エドゥアール・マネの《フォリー・ベルジェールのバー》は、パリ9区のややすさんだ地域に人気を博したダンスホール「フォリー・ベルジェール」で働くバーのメイドを描いた印象的な絵画である。
少し前に日本に上陸したので、記憶に新しい方も多いのではないだろうか。
大きなキャンバスに描かれた華やかな絵画は、多くの謎に満ち、バーメイドの「娼婦」の悲しみ、取り残されたような孤独を醸し出している。
非常に魅力的で、心に強く訴えかける絵画である。
この絵は現在イギリスのコート―ルド美術館が所蔵しているが、もともとはマネと親しかった役人シャブリエが持っていた。
このシャブリエが、今回の作品の作者である。
代々法律家の家に生まれたシャブリエは、天才少年と謳われるほどのピアノの腕を持っていた。
幼少から音楽、絵画や文学、多くの教養に親しみ、法律を学んだ。
内務省に勤務する合間に書かれた作品たちは、数こそ少ないもののこの上ない喜びと色彩に溢れ、フランス近代音楽に大きな彩りを与える立役者となった。
シャブリエは作曲家の重鎮となるフォーレやヴァンサン・ダンディと交流するほか、前述のマネ、ルノアールやセザンヌ、モネなど錚々たる画家とも親しかった。
「バティニョール派」と呼ばれた美しい作風の画家たちと同じように、シャブリエの作品は自然の美しさを描き、爽やかな旋律と繊細な影、異国情緒を取り入れた新しさが表れている。
私は4年間の留学の間、バティニョール地区に住んでいた。
モンマルトルやムーランルージュにも近い界隈で、通りの名前や建物の壁などには、画家たちのいたことが近しく感じられるような痕跡があった。
ヤンチャでワチャワチャした界隈でもあり、古びたバーやカフェ、いかがわしい場所もそのまま。
それでも、バティニョール公園のように、ワチャワチャのなかでも木に覆われたゲートに足を踏み入れると、そこだけ別世界のように池があり、緑があり、花々があり、静かな穏やかな空間が広がっていた。
バティニョール公園ではいまでも、その画家たちにあやかるが如く、絵描きの方々が思い思いに絵を描いている。
「スケルツォ・ワルツ」は、《10の絵画風小品》の第10曲目で、上品かつ華やかなワルツ。
この作品集は、絵画のように自然を描いた小品の数々がおさめられている。
ひとつの絵画集を観ているように美しい音のスケッチに、愛おしさを覚える。
品性と煌びやかさと、人間特有の陰った心模様、時代の雲行き、いろいろなものが混ざり合ったフランス近代音楽は、明るいとも暗いとも分類しがたい複雑な色合いを香らせる。
そこには人の心、自分の気持ちさえも一筋縄ではいかないことを自覚した人々に、深く寄り添ってくれる空間が待っている。
共感、共鳴、それさえもしなくて良いかもしれない、ただ、在る、という器の広さが。
2021年4月9日配信
収録曲
♫エマニュエル・シャブリエ:10の絵画風小品より《スケルツォ・ワルツ》
オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」
演奏&MC:深貝 理紗子(ピアニスト)
プログラムノート
19世紀のフランスで生まれた音楽の頽廃的な空気は、人々を魅了する。
なぜなら、煌びやかな「ベル・エポック」の裏側には孤独なため息が充満し、人間の儚さと苦しみが共存しているからだ。
心に抱えたものをあからさまにはひけらかさず、光を描き、歌を紡ぎだした文化人たちの産物は、奥深い美に満ちている。
エドゥアール・マネの《フォリー・ベルジェールのバー》は、パリ9区のややすさんだ地域に人気を博したダンスホール「フォリー・ベルジェール」で働くバーのメイドを描いた印象的な絵画である。
少し前に日本に上陸したので、記憶に新しい方も多いのではないだろうか。
大きなキャンバスに描かれた華やかな絵画は、多くの謎に満ち、バーメイドの「娼婦」の悲しみ、取り残されたような孤独を醸し出している。
非常に魅力的で、心に強く訴えかける絵画である。
この絵は現在イギリスのコート―ルド美術館が所蔵しているが、もともとはマネと親しかった役人シャブリエが持っていた。
このシャブリエが、今回の作品の作者である。
代々法律家の家に生まれたシャブリエは、天才少年と謳われるほどのピアノの腕を持っていた。
幼少から音楽、絵画や文学、多くの教養に親しみ、法律を学んだ。
内務省に勤務する合間に書かれた作品たちは、数こそ少ないもののこの上ない喜びと色彩に溢れ、フランス近代音楽に大きな彩りを与える立役者となった。
シャブリエは作曲家の重鎮となるフォーレやヴァンサン・ダンディと交流するほか、前述のマネ、ルノアールやセザンヌ、モネなど錚々たる画家とも親しかった。
「バティニョール派」と呼ばれた美しい作風の画家たちと同じように、シャブリエの作品は自然の美しさを描き、爽やかな旋律と繊細な影、異国情緒を取り入れた新しさが表れている。
私は4年間の留学の間、バティニョール地区に住んでいた。
モンマルトルやムーランルージュにも近い界隈で、通りの名前や建物の壁などには、画家たちのいたことが近しく感じられるような痕跡があった。
ヤンチャでワチャワチャした界隈でもあり、古びたバーやカフェ、いかがわしい場所もそのまま。
それでも、バティニョール公園のように、ワチャワチャのなかでも木に覆われたゲートに足を踏み入れると、そこだけ別世界のように池があり、緑があり、花々があり、静かな穏やかな空間が広がっていた。
バティニョール公園ではいまでも、その画家たちにあやかるが如く、絵描きの方々が思い思いに絵を描いている。
「スケルツォ・ワルツ」は、《10の絵画風小品》の第10曲目で、上品かつ華やかなワルツ。
この作品集は、絵画のように自然を描いた小品の数々がおさめられている。
ひとつの絵画集を観ているように美しい音のスケッチに、愛おしさを覚える。
品性と煌びやかさと、人間特有の陰った心模様、時代の雲行き、いろいろなものが混ざり合ったフランス近代音楽は、明るいとも暗いとも分類しがたい複雑な色合いを香らせる。
そこには人の心、自分の気持ちさえも一筋縄ではいかないことを自覚した人々に、深く寄り添ってくれる空間が待っている。
共感、共鳴、それさえもしなくて良いかもしれない、ただ、在る、という器の広さが。
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クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。
深貝理紗子
https://risakofukagai-official.jimdofree.com/