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【10クラ】第16回 小人さん、どこへ行くの?

10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
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第16回 小人さん、どこへ行くの?

2021年7月23日配信

収録曲
♫フランツ・リスト:小人の踊り
《2つの演奏会用練習曲》S.145 R.6より

オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」

演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)


プログラムノート

目に見えないものにこそ本質を求めてしまうのは人間の性だろうか。

自然にしても、人間の心にしても、見えるものはほんの一部でしかない。
本当に大切なことをなかなか口にすることができないように、本当に大切なものはなかなか気付くことができない、或いは、気付けないまま、なのかもしれない。

四元素を司るエレメンタル(四大精霊)
オンディーヌ(水)
ノーム(地)
サラマンダー(火)
シルフ(風)
には、さまざまな資料も尽きないが、とくにオンディーヌとノーム(グノームともいう)は音楽の題材にもなりやすい。

ラヴェルやドビュッシーの凍り付くように美しいオンディーヌは不気味な中毒性があるし、ムソルグスキーのグノームはたった一度聴いただけでも強烈なインパクトを与えてくる。

女性の観点からは、オンディーヌの「恐ろしさ」は、実はどの女性も多かれ少なかれ本性に潜めている黒さがあるのでは?と感じていた。オンディーヌは悲しい女性だ。そしてとても美しい。

以前読んだ本に、こんな女性がいた。
ハッと息をのむように美しいその女医は、虚弱でありながら研ぎ澄まされた感性を持った詩人の恋人がいた。詩人の女性関係と、はっきりと煮え切らない状態で切り出された別れに振り回され、疲れ果てた女医は、自ら命を絶った。
彼女はその直前に、身を寄せた筆者に対してこうつぶいたという。
「美人が失恋するかしら」
筆者はそれを、それまで聞いたなかでもっとも悲しい響きだったと綴っている。

オンディーヌは妖精だが、その心は驚くほどに深く人間性を描き出しているように思う。
ここに感情移入をしてみてほしい。どっぷりとした疲れが一日、数日と続くだろう。
それが語り継がれる文化の重みであり、命の重みである。

ノームは長いひげを生やし、三角にとんがった帽子を身につけている。わかりやすいところでいえば、『白雪姫』の小人はノームの風貌を彷彿とさせる。
ノームは働き者で、知能も高いそうだ。

リストは多くの題材に好奇心を寄せ、音によって具現化していった。
その内容は《伝説》の絵画であったり、ユゴーの《マゼッパ》、ゲーテのファウストの《メフィスト》、ダンテなどにも代表される宗教的な《巡礼の年》など多岐にわたる。

今回の《小人の踊り》はノームが動き回る様子が実に煌びやかに、そしてファンタスティックに描かれている。
「2つの演奏会用練習曲」の第1曲目には《森のささやき》が配置されている。

森。

ヨーロッパでいう森は、「黒い森」などと呼ばれるものがあるように、神秘であり哲学であり、闇である。

リストはこれを描いた年、ついに下級聖職者としてローマへ移った。
傍目には華麗にスポットライトを浴びてきたカリスマスターの、波乱万丈の人生の辿り着くところ。

その道を歩いた逸材にしかわからない孤高の森へ、そっと足を踏み入れてみよう。

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musiquartierーピアニスト深貝理紗子のミュジカルティエ
クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/