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NO.9 中央アルプス 空木岳

私は稜線歩きが大好きだ。

天空を散歩しているかのような気分は最高だ。

ゴツゴツした岩場を登ったり下ったり。

危険箇所も沢山あるし、緊張感もあるけれど

三点支持で岩場をよじ登ったり、鎖場や梯子を超えていくのは

アスレチック(←そんな甘いものではないが)感覚もあり楽しい。

そんな大好きな稜線歩きを存分に味合わせてくれたのが

中央アルプスのほぼ中央に位置する名峰、日本百名山の一つでもある

空木岳(2,864m)だ。

1泊2日で秋の中央アルプスへ。

秋もまた美しい。

空気は澄んでいて、山肌は品よく赤、緑、茶、黄、と彩り、

まるで山が着物を纏っているよう。見惚れる美しさだ。

しらび平からロープウェーで千畳敷カールまで行くのは木曽駒ヶ岳と同じ。

木曽駒経由で空木に行くことも可能だが空木は思っている以上に遠い。

朝一のロープウェーに乗れたとしても時間にあまり余裕はない。

私としては欲張らず木曽駒と空木は別日でのアタックをオススメする。

又は、2泊3日とゆっくりと中央アルプスを堪能出来る縦走もオススメだ。

私は時間が取れず、1泊2日が限界だった為、千畳敷カールから空木岳方面の稜線へと向かった。

稜線へは1時間もかからず出ることが出来る。

稜線へ出て間も無く、素晴らしいWelcome Viewをくれるのが、

雲に浮かぶ御嶽山だ。遠すぎず、近すぎずのこの御嶽山が実に素晴らしい。

この景色を眺めながら空木までの長い長い稜線歩きが始まる。

空木岳はまだ視界には入らず遥か向こう。

それもそのはず。

空木岳にたどり着くまでに檜尾岳→熊沢岳→東川岳と

3つの山を超えなければならないのだ。

天空の散歩はハード。累計標高は約2000m。

なかなか痺れる空木岳までの道のりに

久しぶりに心が折れそうになったのをよく覚えている。

それでも登り切れたのは終始天気が味方してくれたこと。

美しい紅葉に雲海。顔を上げれば雲が流れ青空が背中を押してくれた。

特に印象的なのが檜尾岳。

檜尾岳から見える小屋は避難小屋。トイレもあり、数張りならテントも張れる。

まさに天空のテント場。余裕があるならここでテント泊をしたい。

むしろ次回はここに泊まる為に歩きたい。そう思わせてくれるテント場だ。

そう。泊まるなら最高。

ただトイレに寄るにはかなり悩む距離。

この先にもトイレポイントがあるならスルーするのだが2~3時間はない。

千畳敷カールから檜尾岳までもトイレはなく、約2時間半。

稜線歩きな為、お花を摘める場所もない。

心配性な私は意を決してトイレへ向かう事にした。

往復30分くらいだっただろうか。

正直このイレギュラーなアップダウンが

この先の空木までの道のりへのダメージを与えた。

しかし、それと同時にトイレを済ませる事が出来て安心感も得た。

ここでのトイレは難しい選択だ。

自分の体をいかに理解できているかにかかっている。

こんな時、登山の経験値を試されている気がする。

しかし、こんな決死の決断も登山ならでは。

今となっては人に話せるネタとなり楽しい思い出だ。

その後、熊沢岳→東川岳と超えていく。

そして東川岳の下山が驚くほど長い。

稼いだ標高を一気に下げられ心がここでズタボロに折れそうになる。

その下りた分だけ、最後の空木への標高差をまた登らねばならないのだから。

しかし歩いて来た道のりを考えればここで折れてる場合ではない。

こんなに頑張ったんだもの。諦める訳にはいかない。

東川岳を下り切ったところにある木曽殿山荘で小休止をし、

ようやく、空木岳の山頂へ。最後の力を振り絞る。

今までの岩場とは比べものにならないほどのトレイルだ。

クライミングに近い岩場をガシガシと登っていく。

疲れで切れかけた集中力も意識的に取り戻す。

「集中、集中!大丈夫、大丈夫!」と自分を鼓舞する。


一気に駆け上がりたいところだが、ここは無理せず。休憩を挟む。

険しい中だからこそ、息をのむ景色だ。

流れる雲に見え隠れする岩山。

まるでラピュタの世界。

行動食を食べながら、

「今日はここがゴールでも良いなぁ」なんて思うほど。

呑気な思考と裏腹に、日没の時間が迫ってきたのを感じる。

なけなしの最後の力を振り絞り山頂へ。

長かった。

疲労困憊でPEAK HUNT。

約8時間。3つの山を超えて辿り着いた空木岳の山頂はとても雄々しく

威厳のある山頂だった。

残念ながら雲の中。景色は真っ白だ。

それでも静けさと安堵感に包まれ全身の力が抜けていく。

「よく頑張った」久しぶりに自分を褒めた瞬間だった。

この日は空木岳を少し下ったところにある小屋、空木駒峰ヒュッテに宿泊。

と言ってもこの日は平日だった為か無人小屋。

小屋番のスタッフは不在で食糧や飲み物も販売していなかった。

元々自炊小屋として運営している空木駒峰ヒュッテ。

そのつもりで食糧はしっかりと持参していた。

この山行初めてのゆっくりと食事を取れる時間となった。

テラスから眺める夕日に照らされた御嶽と雲海。

ほとんど貸し切り状態で眺める事が出来たこの景色に深いため息が漏れる。

この“ご褒美”の為に険しい山も、折れそうな心も超えて来た。

そして

“ご褒美”を貰えば貰うほど登山の世界へハマっていく。

心も体も満たされ、長い夜を堪能しようと意気込んでいたが

体は正直。寝袋に包まれれば一瞬で夢の中。

深い眠りについたのだった。


翌日。

ご来光を拝みに空木の山頂まで行ったが生憎の空模様。

分厚い雲に覆われ、太陽には会えなかった。

次はここでご来光を。

また来る理由が出来た。

さぁ下山。

いや、その前に。

前日ヘトヘトで歌えなかった山頂Liveをせねば。

という事で、

少し明るくなるのを待って、念願の空木岳の山頂で歌う事ができた。

やりきった。

これで心置きなく下山。

池山林道へ。

樹林帯に入る前にここでの景色をしっかりと心に焼き付けておきたい。

紅葉に染まる山肌に、「駒石」と呼ばれる巨岩。

その奥の駒ヶ根市・伊那市・宮田村の町並み。

見て分かる通り、こんな名峰が町からすぐ側にあるなんて。

住民の皆さんが羨ましい限りだ。

私が小人サイズに。

この駒石を最後に樹林帯へ。

下山は千畳敷カールからのルートと違って樹林帯をひたすら下る。

危険箇所はさほどないが体力は必要。

あれだけ私を登らせた空木岳。

それなりに下らせる。

約4時間ほど下り池山林道登山口に無事到着。


里山やアルプスの経験をそこそこ重ね、

なんとなく自分の限界にチャレンジする登山から離れていた。

少し軟弱になった私の根性を叩き直してくれたのがこの千畳敷カール〜空木岳までの縦走登山だった。

そしてこの頃からまた改めて、

「年に一度は自分を追い込む登山をしよう」と目標を立てたのを思い出す。

改めてPEAK HUNTの極意を教えてくれた山。

それが空木岳だ。

朝一で極寒の空木岳で歌った時の動画を載せておこう。

朝一の2,864mでのLiveも痺れる。

寒さでかじかむ指先、閉まる喉、山頂Liveは過酷さもある。

しかし

登って来た達成感と絶景を噛みしめながら歌うのはやっぱり好きなのだ。



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