【差別と悪意】最終章③ 役立たず事件
今回はいきなりだが、タイトルにもある役立たず事件について書いていく。
施設Cに入社して数ヶ月経った頃だった。俺たちがやっていた作業の責任者を務める男性スタッフが外出した。その時は10人くらいの利用者でひとつの作業をやっていたのだが、男性スタッフはその中の1人にだけ詳しい段取りを伝えていった。その利用者はメンバーの中で一番のベテランだった。だが、問題は起こった。彼女がパニックを起こしてしまったのだ。
急なパニックに陥るというのは、精神障がいの方にはままあることだと思う。実際施設内でも「これはよくあることだから休ませておけば大丈夫」という空気が漂っていた。俺もそう思っていた。ところが、そう簡単にはいかなかった。
責任者からすべての段取りを聞いていた唯一の利用者が抜けてしまったのだ。こちら側もどうすればいいかパニックになってしまう。俺たちは仕方なく別の女性スタッフに助けを求めた。
「自分たちではここから先の順序がわからないのですが、どうしたらいいでしょうか?」
しかし女性スタッフは、俺たちの作業に携わったことがない。「私も分からないから自分たちでどうにかして」と一蹴されてしまった。この時点でスタッフとしての職務放棄だと思ったのだが、事態はこれでは終わらない。その女性スタッフが最後に、怒鳴るようにしてこう言い放ったのだ。
「自分たちの作業のことが自分たちで分からないの? 分からないなら自ら判断して行動しなさいよ。段取りを任されたのに体調を崩しちゃうあの子といい、あんたたち全員ただの役立たずじゃないの!」
断っておくが俺たちは、「絶対に自分たちだけの判断で作業を進めないように。俺が指示を出していった人以外の言うことは聞くな」と前述の男性スタッフから釘を刺されている。それを女性スタッフに説明したところで「そんなのは言い訳だ」と聞く耳を持ってくれなかった。パニックを起こしてしまった前述の女性利用者もこの発言をしっかりと聞いていて、彼女は女性スタッフに泣いて謝っていた。しきりに「私のせいでごめんなさい」と繰り返していた。いたたまれない気持ちになった。
どんな理由があろうとも利用者に向かって、しかも大声で「役立たず」と罵るなんてことはあってはならない。その前のタバコ事件や施設長のえこひいき問題(前回の連載参照)もあって、流石に我慢の限界が来た。だから長期的な体調不良を理由に、出来るだけ穏便に施設Cを辞めたのだった。
というわけだから、おそらくこの件にブラックリストは絡んでいないと思う。もし絡んでいたとしたら、そのせいで他の利用者にも嫌な思いをさせてしまったということになるから、そうは考えたくないというのもあるが。
さて次回は、この連載の最終回である。なぜ俺が1年以上も引きこもりに近い生活を送っているのか、最終回で明らかにする。悪意にまみれた現状である。次回、ご期待ください。