【差別と悪意番外編】フォロワーさんに紹介してもらった
俺のエッセイの中でも特に高めの閲覧数を誇る「差別と悪意」シリーズ。反響が高いかわりに俺のメンタルも相当削られるが、フォロワーさんたちの支えがあってひと段落を迎えることができた。
上に紹介した記事が、ずっと俺を励まし続けてくれた仲間が書いてくれたものである。また、彼を中心に俺と同じような境遇の方が集まってくれて、今ではグループLINEまでできている。本当にありがたい。
今回は、記事を書いてくれたタケノコさんをはじめとして多くの方からいただくご意見へのアンサー記事を書こうと思う。
上層部なり市役所なりに相談して対処してもらうのはどうだろうか、という意見をよく頂く。もちろん、俺もそれは考えた。相談員さんに話したこともある。だが結局のところ、無理だった。
まず第一の理由として、証拠がないということがある。例えば俺が、意図的にトイレに連れて行ってもらえなかったことを証明するのは難しい。「とても忙しい時間帯だったので5〜10分ほど待っていてもらっただけです」と言い訳されたら反論ができない。ボイスレコーダーでもあれば別だが、施設Bでは定期的に荷物の抜き打ちチェックが行われるので、ボイスレコーダーなんて持ち込むのは不可能だった。証拠もないのに市役所が動いてくれるとは思えない、という話で相談員さんとも決着した。
第二に、証言者がいない。俺でさえ知的ではないかと疑われている状況だ。俺だけの証言で役所が信用してくれる可能性は限りなく低いように思う。他の利用者を頼ろうにも、彼らは知的障がい者なのだ。大人の誘導に簡単に乗ってしまうし、そもそも暴力や暴言についても「自分が悪いことをしたから仕方ない」と納得してしまっていることも多い。彼らの説得は至難の業だ。
そして最後の理由。これが一番大きいのだが、「もし俺の訴えが通ったら、施設Bがなくなってしまうかもしれない」ということだ。
こんな不健全な施設は無くなった方がいい、と思うかもしれない。しかし、俺が憎いのは施設長だけだ。メンタルが沈んでいたときに支えてくれた利用者仲間や、Nさんをはじめ信頼関係を築いてきたスタッフのことまで憎いわけじゃない。
それでもこれは、施設Bだけの問題ではないのだ。あの施設長だって自分の意思ではなく、もっと上の指示で動いている。俺はどういうわけか上層部に目をつけられ、施設長からいじめられていたらしい。考えてみれば、市内ではなく県内のブラックリストに載せるなんていう芸当は上の人間でないとできない気もする。
なので「訴えるなら最悪施設Bを潰すくらいのつもりで」と言われていた。俺にはその覚悟がなかったのだ。施設Bは陰で「掃きだめ」とあだ名されていた。どこにも行き場のない障がい者を多く受け入れていたからだ。「どんなに理不尽なことをしても、利用者はここ以外行き場がない」という甘えのようなものが施設長や上層部にはあったのだろう。
そんな施設が、もしも俺の訴えをきっかけに潰れたらどうなるか。利用者仲間から恨まれるのは必須だろう。たとえ最悪な場所でも「ここだけが自分の居場所」と信じている人だっているのだから。俺にはその「恨まれる覚悟」がなかった。それに、あの施設長のことだ。そんなことになったら徹底的に俺を悪者にするだろう。
そしてなにより、かつての仲間たちが路頭に迷うのは見たくなかった。利用者仲間には一部の人を除いて、かなりよくしてもらったからだ。それで、自分だけが辞めればすべて丸く収まると思った。
この決断がよかったのか悪かったのか,今でも答えが出ない。証拠がなくても戦ってみるのもアリだったかもしれない。今でも施設Bに利用者がいるのだと思うと、後悔することもある。あの時期は心も身体もボロボロになってしまっていた。結局のところ、俺が弱かっただけなのかもしれない。